レティシア、騎士を守る
ユージンは、陛下の処分が下されないまま、何事も無かったようにレティシア姫の私室前の警護任務に現れた。
そこにロザリンド侍女頭が、他数名の侍女を従えてやってきた。
明らかに怒りと侮辱を携えながら。
彼女はレティシアにも聞こえるほどの大声で、ユージンに罵声を浴びせた。
「ほうら御覧なさい、みなさん!面汚しの騎士がまだここに立っているわ。陛下の公然たる反逆者が王宮をうろついているなんて、ああ、おぞましい。」
ユージンはあたかも、自分の周りに誰もいないように無表情で、しかも一切視線を合わせようとはしなかった。それがロザリンドの怒りに火をつけた。
ユージンは涼しい顔でロザリンド達を無視し続けている。
やがて彼女の罵声を聞きつけ、私室に籠っていたレティシアが『バン!』と扉を勢い良く開けて飛び出してきた。
泣きはらした目で、ロザリンドをキッと睨みつける。そして彼女はユージンにしがみ付いた。
「やめてちょうだい!(私の)ユージンを侮辱しないで!」
「ああ、姫様お出ましですか。この男は王家の敵ですよ!」
ロザリンドは勝ち誇ったように姫をいさめた。
「陛下からのお叱りをお忘れになったのですか?」
「お父様にはちゃんと謝ったわ。でも、わたしたちのことを貴方にとやかく言われたくはない。」
そして次の瞬間、レティシアはユージンを背後に隠すように、その細い身体で彼の前に立ちはだかったのだ。
そしてまるで巨大な竜に立ち向かうように両手を広げたのだった。
「私が守るわ!」
その仕草にその場にいた全員が凍り付き、次の言葉が出ない。
「私はこの騎士が不当に罰せられることを許しません!私の騎士は、私が守ります!」
「は?」
ロザリンドは混乱した。
(何を言っているの?この姫、何を勘違いをしているの?)
侍女たちもこの光景を見た衛兵も手元を手で覆い、肩を震わせ笑いを堪えていた。
「姫!騎士は剣で私たちを守るものであって、貴方みたいな弱弱しい方が守るものではありません。」
姫は本気でロザリンドを睨みつけていた。
「私がユージンを守るようにお父様に言われた!だから、貴方は私の騎士に近づかないで!」
オーギュスト陛下が娘に言ったのは、これ以上ユージンの負担にならないように気をつけろといさめたのだ。
レティシアは『守れ』の意味を勘違いしている。
ロザリンドの苛立ちは隠せない。
ここではじめて無反応を決め込んでいたユージンは『フッ』とロザリンドに対して挑戦的な笑みを浮かべた。そして、レティシアだけに届くようにやさしく囁いた。
「姫、私は大丈夫ですよ。王命です、貴方をお守りするのが私の仕事です。どうか信じてください。」
この『姫が騎士を守った』という茶番劇は、ユージンとレティシアの『愛に溺れるバカップル』として王宮中に面白おかしく広まったのだった。
広めたのは多分ロザリンド(笑)




