王宮 騎士控室にて
『不敬な告白』という任務を終えて、ユージンは控室に戻るとすぐに、華美な正装を脱ぎ捨てた。
姫の恋人を演じきった緊張と針のむしろに立たされた疲労が全身を襲った。胃は痛む。
彼は固い椅子に深く腰掛け、憔悴した表情で天井を見上げていた。
その時、控室の扉に静かなノックの音が響いた。
「……どうぞ。」
「私だ、ユージン。」
扉を開け、入ってきたのはガストン騎士団長だ。彼は入るやいなや背後で素早く扉の鍵をかけた。
公務とは完全に切り離した、私的な顔に戻っていた。
ガストンはユージンの横の椅子に腰掛け、彼が脱ぎ捨てた正装をそっと見つめた。
「ご苦労だったな。まさか、お前があの大舞台で『不敬』を演じ切るとは。……正直驚いた。」
「…兄さん…レティシア姫の命令は陛下の命令でもあります。私に拒否する権利はありません。」
ユージンは目を伏せたまま答えた。
「あの大広間で、お前が槍玉に挙げられているとき、私はただ傍観していることしか出来なかった。
お前は、私にとって、弟のような存在だ。あの場で、騎士として、いや、兄として庇ってやれなかったことが本当に心苦しい。」
兄弟子の言葉はユージンにとって救いであった。
「陛下もまた、深く心を痛めておられる。この部屋に来る前に私に言われたのだ。『ユージンに伝えよ。
王家のためとはいえ、彼に最大の汚名を負わせたこと。そして、あの場での騎士の名誉を傷つけたことへのねぎらいを。』そういうことだ。」
ユージンは初めてここで顔を上げ静かに頷いた。
「陛下には、感謝申し上げます。私の名誉など……。」
二人は、私的空間で互いに心の中を伝えようと素直な言葉を選んで語り合った。
その後、ガストンは表情を変えた。
「ユージン、明日からのお前の任務を伝えに来た。これから話すことは極秘任務になる。」
「はい。」
「姫様をお守りすることは第一条件だ。これは王家守護の至上命令だ。お前は公的には罰せられていない。この曖昧な立場が姫様の身を守る唯一の盾となる。」
「次に、ロザリンドだ、お前はあの侍女頭のことをどう思う?」
ユージンも、あの侍女頭は胡散臭いと着任から思っていた。
ガストンは尋ねた。
「あの侍女頭、何か企んでいるように思えるのだ。彼女の態度からして、姫に対する態度が何か不自然だと思わなかったか?」
「そうですね。彼女は侍女頭としての仕事はこなしていますが、姫に対して高圧的な態度をとる時があります。忠誠というより、支配欲に近いものが感じられます。」
「やはりそうか……。陛下も同様の懸念を抱いておられる。ロザリンドは王族を失墜させる重大な陰謀を企んでいるやもしれん。手始めとして、姫様の精神的な弱体化を図っている可能性が高い。」
「……。」
「ユージン、お前の曖昧な立場を利用して『愛に狂った騎士』としてロザリンドの国家反逆罪を裏付ける何か決定的な証拠を見つけてはくれまいか。」
「………。」
「下手をすれば、お前は王家の反逆者として、命を落とす。しかし王家の命運はお前の忠誠心と観察力にかかっているのだ。難しい任務だが、お前にしか頼めない極秘任務なのだ。」
意図せずシリアス場面になりつつあります。
簡単に終わらすつもりだったのに(泣)




