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辺境騎士団長は、ちっちゃな妖精がお好き  作者: Hatsuenya


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9/17

ちっちゃな妖精、お留守番をする

 読みに来て下さって、ありがとうございます。


 1話目に出てきたアレが、カムバックです。



「団長!オーベスト村で、魔獣が出たとの報告が」


 執務室で書類仕事をしていた団長さんは、慌てて椅子から立ち上がった。

 団長さんの胸ポケットから乗り出して書類を読んでいた私は、危うくポケットから落ちそうになって、団長さんの手でポケットにグイっと戻された。

 危ない危ない。団長さん、ナイスです。


「状況!」


「小屋一軒分程の大きさの猪型魔獣が、オーベスト村の外れの畑を食い荒らし、近隣の家屋を幾つか倒壊させております。尚、住民は避難し、今のところ全員無事です。村の自警団からの報告によると、

 『身体の所々に焦げ跡や乾いた血が見られ、手負いの可能性が高い為、皆で様子を見るだけにしている』

 との事です」


 団長さんの一言で、騎士見習いの男の子が、書類を読んで、団長さんに書類を手渡した。

 書類を読み返し、団長さんは、私をポケットから出して頬擦りした。


「お仕事に行ってくるからね。ミミは、お留守番だよ。はぁ。ドラニスタ、ミミを叔母上の所に連れて行ってやってくれ」


 そう言って、団長さんは、私をドラニスタ君に手渡した。


「気をつけてね」


 ちょっと寂しくなって、私は団長さんの指先を握った。団長さんは、私を安心させるかの様にニッコリ笑って、私の髪を撫でた。


「ああ、すぐにやっつけて帰ってくるから、叔母上と一緒に待っていてくれ」


 いつもの残念臭をどっかに放り投げて、爽やかイケメンになった団長さんは、キリリと、騎士見習いの男の子を促して、足早に部屋を出た。


「ドラニスタ君。オーベスト村って、どっち?ひょっとして、私が飛ばされて来た方向?」


「あー。そうですね。オーベスト村は、ドラゴンと戦っていた現場の東ですから、そうなりますね」


 足早に部屋を出て、聖女様の部屋に向かいながら、ドラニスタ君は私に教えてくれた。

 小屋程もある大きな手負いの猪。あぁ。私が仕留め損ねたやつじゃない?私の責任だわ。


「ドラニスタ君、私も、猪退治に行きたい」


「駄目ですよ。危険ですから、私達に任せて下さい。こう見えても、団長も団員も強いんですよ。私は、まだ、そこまででは、ありませんが。猪の魔獣程度なら、お手の物です。

 まあ、団長は、ミミの前だと、デレデレのルンルンのあんなんですけどね」


 溜め息を吐きながら、ドラニスタ君は、そう言って、自分の両手のひらの上に座る私を見た。

 ちょっと寂しそうな顔をしたドラニスタ君に頭を撫でられ、私は聖女様へと手渡されてちょっと憤慨した。

 私、18歳なんで、ドラニスタ君よりお姉さんなんですけど?

 ああ、小さいこの身が疎ましい。早く、大きくなりたい!



 猪の話を聞いた聖女様は、俄然、張り切り出した。


「先日のドラゴンステーキに続いて、ぼたん鍋なの!?ちょっと、ご馳走三昧じゃない?」


 最近の聖女様は、すこぶる元気だ。私が、ここに来る前は、寝たり起きたりを繰り返していたが、私の低周波治療と、美味しいご飯、そして、お人形さんごっこのお陰で、身体も気力も充実しているらしい。

 お人形さんごっこ。ちょっと不本意だけど、砦のおばちゃんズ達が元気になったんなら、まあ、いいか。


「さあ、今日の新作ですよ。着替えてみてちょうだい。これを来て、今日はお庭でお茶にしましょう」


「でも、団長さん達が魔獣と闘っているのに、ゆっくりしているなんて」


「ミミ、私達の仕事は、レオンハルトやドラニスタ達が帰ってから始まるの。それまでに、英気を養っておかねば、身が持たないわ」


 普段、闘うのが仕事だったので、ちょっとよくわからない。出来れば、団長さん達と、猪を相手に闘っている方が、しょうに合う。


「女神様や神様達に皆の無事を祈り、闘いから帰ってきた皆を、笑顔で迎えてあげるのも私達の勤め。その為には、私達が、元気でいなくちゃね」


 そう言うものなの?よく、わからないけど、おばちゃんズや、砦のお留守番部隊の皆と一緒に、私も頑張るぞ。


「だから、まずは、今日の新作を着てみてちょうだい。皆の腕が上がってきちゃって、素晴らしい仕上がりなのよ。補修部隊のじい様達がジェシカ達に協力して、あなたの日傘や、おしゃれな靴まで作ってくれたのよ」


 補修部隊は、何故か、私が来た翌日からノリにノッて、私のベッドやテーブル、椅子まで作ってくれていた。ベッドを使うのは、団長さんに阻止されているが。せっかくの憧れの天蓋付き、お姫様ベッド~。ぐっすん。



 ハーブ畑のすぐ側に、お茶のテーブルが用意されていた。

 私の格好は、レースのいっぱい付いた青い花柄のドレスに、可愛いレースの付いた白い帽子に、白い皮の靴。靴は、リボンで足首にしっかり固定出来るようになっている。

 テーブルの上に更に私専用のテーブルと椅子が用意されている。補修部隊お手製の木製の皿の上に、スポンジケーキを丸く小さく切りぬいて、クリームやジャムが塗られたケーキまで用意されている。

 おばちゃんズも補修部隊のじい様達もスゴいけど、料理長もスゴいな。


「さあ、こちらに女神様の分をご用意して、ミミ、一緒にお祈りしましょう」


 私は雷神様と風神様と女神様に、そして聖女様は女神様にお祈りを始めた。

 雷神様と風神様が、こんな可愛らしいお茶会に現れたら、ちょっと場違いかも。後で、料理長にお願いして、お酒をお供えしておこうかな。


 さて、お茶会にいらした女神様の仰るには、雷神様と風神様は、出先の異世界とこの世界の間に起こっている嵐の様なものに巻き込まれ、帰りが遅れているそうな。

 困った困った。私は、まだしばらく、この姿のままだって事ですね。

 辺境騎士団の皆は、無事に猪討伐が終わったところだから心配しないようにと、女神様はケーキとお茶に満足して、仰って、帰って行かれた。

 ありがたや。ありがたや。



 猪の魔獣討伐があったが、それ以外は何の問題もなく終わる筈だった。

 お客が来るまでは。


「聖女様。マンデルゲール辺境伯が、いらっしゃいました」


 



『女神様、ミミをうちの甥っ子の嫁にいただけませんかねー?雷神様に聞いていただくわけには、いけませんか?』


『レオンハルトったら、ミミの事、お気に入りですものね。雷神達が帰ってきたら、お願いしてみるわね。二神共、次元の嵐に巻き込まれて帰りが遅くなっているのよ』


「聖女様、女神様は、どうなされたんですか?」


「うん?雷神様と風神様が、次元の嵐?のせいで帰りが遅れていらっしゃるのですって」





 この世界の女神様は、聖女とのお茶会がお好きなようです。お茶会、いいですねー。

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