ちっちゃな妖精さんと、年老いた聖女様
読みに来て下さって、ありがとうございます。
今回は、辺境騎士団長レオンハルトの視点です。レオンハルト、暴走中です。
辺境騎士団長レオンハルト side
「叔母上、見てください」
私は、砦に帰ると、一目散に叔母の元へ急いだ。小走りになりながら、私の後をドラニスタが付いて来ていた。
「レオンハルト、そんなに急いで何があったの?やはり、私が付いて行った方がよかったのでは、なくて?」
叔母上は聖女だが、最近は年を取ったせいか、寝込みがちだ。代わりに若い神官達が治療を担当している。
「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、見て下さい」
「虫か何か、なんじゃないでしょうね。ダンゴムシとかトンボとか」
「ドラニスタじゃ、ないんですから。虫なんか持ってきませんよ」
「いや、貴方、ここに来た当初は、一抱えもあるダンゴムシとか、自分が乗れる位大きなトンボとかを喜び勇んで私に見せに来たもんだから、つい」
それは、魔獣の一種です。いや、つい、物珍しかったので。若気の至りです。
「お陰で、大抵の事には、驚かなくなったわ。で、今度は、何?」
私は、ポケットから妖精を……ミミを出して自分の手の平に乗せた。
「妖精ですよ。可愛いですよね。ほら、ミミ。おいで」
私は、いつもの通りミミに頬擦りして、キスをし
「レオンハルト。お前、いくら女っ気がないからって、これは、ちょっと酷すぎない?何処から連れ去ってきたの?しかも、裸にして。
恥を知りなさい!」
叔母上に、私は耳をひっ掴まれて捻られた。
「痛い、痛い、痛い。誤解ですよ、叔母上」
「どうなの?貴女、この男に何か酷いことをされなかった?
いえ、既にしてるわよね。裸の女の子の全身に頬擦りしてキスするとか、言語道断だわ。さあ、こっちにいらっしゃい」
ミミは、うんうん頷いて、私の手の平から叔母上の手の平に移った。
「叔母上、えらく元気になられた様で、安心しました」
「ビックリして、寝込んでる場合いじゃなくなったわよ!いくら妖精だからと言って、女の子にやって良い事と悪い事が、あるわよ。
ドラニスタ、ジェシカにお湯とお風呂道具を持って来るように言ってちょうだい。後、衣装係も呼んでちょうだい。大急ぎよ。
ちょっと待った、レオンハルト。
お、ま、え、は、そこの床に正座してな」
少し前まで寝込んでいた叔母上は、ベッドから私に蹴りを入れ、転がった私を踏みつけた。
「ジェシカが来るまで、ちょっと、お説教しましょうか」
叔母上は、物理的説法で名高い聖女様なのだ。はい、未だご健在ですね。
叔母上の侍女のジェシカが来るまでに、私は叔母上の『軽い説教』を受け、頭の上にたん瘤を作っていた。
「そうですか、ドラニスタが貴女にお茶を?まあ、あの子も随分と大人になりましたわね。おほほ」
手の平にミミを乗せて、叔母上が機嫌良く、ミミと話をしていた。
ミミは、私の可愛い可愛い妖精ちゃんだぞ。返せよな。
そう思った瞬間に、叔母上に睨まれた。
「魅了魔法にかかってる訳では、なさそうね。一体全体、どうしたのかしら。鬱憤が、溜まってるとか?それとも、下半身の問題かしら」
失礼だな。そんな訳ないじゃないか。可愛いものは、可愛いんだよ。
ミミのたおやかな首をかしげる仕草。私を見つめる目。肩を覆う黒髪が映える白い肌。見てて、飽きないだろう?
「おや、ジェシカ。この小さなお嬢さんを、お風呂に入れてあげてちょうだいな」
「いえ、1人で入れますので。石鹸とタオルをいただけたら、嬉しいです」
ミミは石鹸を受け取り、ジェシカが用意したお湯を使おうとした。駄目だろ。
「1人で風呂に入って溺れたら、どうする。私が手伝って」
「ジェシカ、浴室に連れて行ってあげて。私は、もうちょっと、このトチ狂った男を何とかするから」
ああ、ミミが、侍女に連れて行かれてしまった。はあ。ちょっと、手伝ってやろうかと思っただけなんだが。
ほら、スベスベした背中を洗ってやったり、艶々の黒髪をキレイに洗って、梳かしてやったり。
「煩悩が、溢れ出ているわよ、甥っ子」
私は、叔母上に部屋から追い出され、ドラニスタに執務室に閉じ込められて、書類の山を押し付けられた。
「大叔母様からの伝言です。ミミの支度が済むまでに溜まった書類仕事を済ませておけと」
確かに、ちょっと、書類が溜まり過ぎてるかもしれないな。
はあ、なんだかポケットが寂しい。さっきまで、この中にミミが居たのにな。ちっちゃくて、可愛くて、甘い声で私の名を呼ぶんだ。
「くそぅ、叔母上。ミミは、私が拾ったのに」
「いえ、ミミを拾ったのは、叔父上ではなく、私ですが?」
ちっちゃな妖精さんは、お風呂がお好き~。ミミ、これで人間らしい生活が出来そうです。