ちっちゃな妖精、辺境騎士団長にスリスリされる
読みに来て下さって、ありがとうございます。
美々子、ちっちゃくなっても、頑張ってます。
とにかく、服が欲しい。せめて、下着。
素っ裸で布を巻いているだけなんて、心許ない。しかも、イケメンのポケットに始終収まっているなんて。
依然として神力は戻らず、身体の大きさも手の平に乗る程度。なんて、小さすぎるの。
歩こうとすれば、
「踏み潰されたらどうするんだ。危ないから、ここに居なさい」
と、胸ポケットに戻される始末。オマケに、その度にニコニコしたイケメン(団長と呼ばれてた)に、手の平に乗せられてマジマジと見られ、頬擦りされる。
「ああ、可愛いな~。見てるだけで癒される」
服が~脱げる~。バスタオルの様に巻いてあるだけなので、すぐにずれてくるんだもの。
見てるだけじゃ、ないじゃない。一々、スリスリしてるでしょ。
「まあ、落ち着いてきたでしょうし、そろそろ自己紹介をしても?」
小学校高学年位の亜麻色の髪にキラキラした黄色い瞳の美少年が、咳払いして、私に話を仕向けた。「指ぬきで申し訳ない」と言いながら、陶器の指ぬきに温かい紅茶を入れて出してくれた。
「クッキーも食べるかい?君が何を食べるのか、よく知らないんだが」
イケメンが、私にクッキーと思われる物を差し出した。これだけ小さい身体だと、食べる物をもらうのも、一苦労だわ。
「クッキーは好きです。でも、小さく割ってもらえます?大きすぎると、持てないと思う」
まあ、食べ物は少なくても充分だから、経済的ね。カリカリモグモグ。一欠片で、お腹いっぱいになりそう。
「私は、第一王子ドラニスタです。こちらの王弟レオンハルト様の従者をしております」
亜麻色の髪の美少年が言った。王子様だー。王子様だー。美少年に王子様が上乗せされると、神々しくなるわね。光輝いてる気がする。
「そして、私が、王弟にして、この辺境騎士団の団長、レオンハルトだ。よろしくな~妖精ちゃん~。まあ、王弟と言っても、名前だけだな。辺境騎士団長の方が、しっくり来る」
焦げ茶色の髪に青い瞳のイケメンが、そう言いながら私を掬い上げようとして、ドラニスタ王子に手を叩かれた。
「妖精さんは、食事中です。スリスリは、禁止です。叔父上」
そう、スリスリは禁止です。出来れば、食事中でなくとも、禁止にして欲しい。レオンハルト様の髭は無くなって、スベスベのお肌になったけど、それでも、スリスリされると、何か心が削れるのよ。
「判ってるさ。ところで、妖精ちゃん。本当に、食べる姿も、むちゃくちゃ可愛いね~。じゃなかった、お名前は?どうして、こんな所に居たの?この辺に住んでるのかな?」
知らない人に、お家を教えちゃいけないのよ?でもまあ、名前を名乗らないと、ずーっと『妖精ちゃん』って呼ばれそうで、それも嫌よね。雷神様も、本名は名乗っちゃ駄目だよ。悪い奴に利用されるからね。と仰ってたから……。
「ミミと呼ばれています。この辺りに住んでいるわけでは、ないの。妖精でも、ないわ。ちょっとばかし理由があって、小さくなってしまっただけなの」
嘘は言ってないよね?雷神様が、神の使徒たる者、『嘘は駄目です』と仰ってました。はい、嘘は吐いてません。言えない事が、あるだけ。
「可哀想に。呪いを受けたのかい?こんなに小さくて可愛いのに。悪い奴が、居るもんだ」
レオンハルト様は、自分の両手を合わせて指を絡め、目に涙を浮かべながら、私を見つめた。
そんな、大層なものでは、ないと思いたい。多分。大丈夫だと思うんだけど。もし、このままだったら、どうしよう。雷神様~、美々子は、いい子なので、助けにきて欲しいです。ぐっすん。
「いえ、呪いではなく、多分パワー不足じゃないかしら。ここに飛ばされて来るまでに、ちょっと力を使い過ぎちゃって、小さくなったの」
はぁ。そう言えば、美央と、あの時助けた女騎士は、無事かな。女騎士さん、私みたいに美央の突風に飛ばされて怪我してないと良いけど。
「どうしたんだい?妖精ちゃん。じゃなくて、ミミちゃん。私が、力になるよ?私を是非とも頼ってくれ」
レオンハルト様が、そう言うと、ドラニスタ君が怪訝な顔をして、おののいた。どうしたんだろう。ドラニスタ君。
「ドラニスタ。そんな顔をしなくても、良いだろう。私は、親切な紳士なんだ。さあ、話してごらんミミちゃん」
ドラニスタ君は、益々、変なものでも見るような表情になった。『大丈夫か?こいつ』と、言いたい顔である。
レオンハルト様は、私に顔を近づけ、優し気に微笑んだ。ひょっとして、この人、普段は、こんな感じじゃないのかしら。要注意人物とか?
「実は、ここに飛ばされて来る前に妹と一緒に女騎士さんを、助けたんだけど。私も妹もパワー切れになってしまって。2人が無事かどうか心配なの」
「龍が倒れた方角から考えて、ミミは、隣国のパシドラン国の方から飛ばされてきてますね」
「うーん。パシドラン国か。確か、内乱が起きている最中だろ?」
ドラニスタ君の言葉に、レオンハルト様が悩みだした。内乱が起きてるのね。だとすると、ひょっとして、女騎士さんは、国から馬で逃げ出した人?
「ミミは、パシドラン国に住む人間なのか?」
「違うわ」
どちらも、違うわね。この答えをどういう意味に取るのかは、ドラニスタ君とレオンハルト様次第だわ。さて、どう取るかしら。
「まあ、ここにいても情報は来ないからな。私達と一緒に騎士団の砦に行くかい?ミミ」
まあ、雷神様は、私が何処にいても居場所はご存じだろうし。砦に行っても大丈夫かな。
雷神様が、迎えにいらっしゃらない所を見ると、私がここに居るのには、何か理由があるのかもしれないし。
「付いて行っても、いい?」
「じゃあ、善は急げだな。さあ、おいで。ミミ」
クッキーを食べ終わった私に、レオンハルト様が手を伸ばしかけたが、ドラニスタ君に、また、叩かれた。
「まだです。ところでねえ、ミミ。ミミが倒れていた辺りでこんなのを拾ったんだけど、これは、君の物?」
ドラニスタ君が、さっと広げたのは、雷神様の絵が入った私の手拭いだった。
あ、雷神様。
私は、手拭いを引っ掴み、思わず涙を溢した。私ってば、余程、心細かったのね。気づかなかった。
「雷神様の絵の手巾。何か、思い入れのあるものなんでしょうか?叔父上」
「ほら、ミミ。一緒にポケットに入れといてやるから、安心しろ」
「叔父上、ミミが叔父上のポケットに入るのは、必然なんですね」
「当たり前だろう。ドラニスタ。その辺に放っておくと、誘拐されるかもしれない。持って帰られて、売られちゃったらどうするんだ?犬に咥えられて行かれるかも。猫に踏まれてオモチャにされたり、鳥に……」
「はいはい、判りました。判りました」
「私のポケットの中に入ってくれると、私が安心なんだ。ああ、可愛いミミ。柔らかくて、いい匂いだな。」
「お、叔父上!?小さくても、寝ている女の子にスリスリして、クンクン匂い嗅いじゃダメです!」
イケメンを書こうと思うと、ついつい残念仕様になってしまう作者です。すいません。