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ちっちゃな妖精、邪魔者になる

 読みに来て下さって、ありがとうございます。


 ちっちゃな妖精さん、無事に砦に戻ってきました。



 砦に帰ると、私はすぐに団長さんのお部屋に突っ込まれた。ドラニスタ君が、お風呂用のお湯まで用意してくれた。至れり尽くせり、申し訳ない。


「まだ辺境伯達も砦にいるし、ここに隠れておいで。風邪を引いたら大変だから、お風呂に入ったら、私のベッドに入ってるんだぞ。後で、食事も持ってくるからな」


 団長さん、もう、完全に『おかん』よね。『おかん』、好きだけど。


 ありがたい団長さんの忠告を聞いて、私はお風呂に入って着替えると、ベッドの中に潜り込んだ。何しろ、私が自分のベッドに寝ていても、団長さんに、団長さんの大きなベッドに連れていかれてしまうので、無駄なのだ。

 もう、無駄な抵抗をするのは、ア・キ・ラ・メ・マ・シ・タ。

 団長さんは、私を手のひらに乗せて眠るのが、お気に召しているらしい。お陰で、神聖力も貯まるので、私は気にしないことにした。気にしない、気にしない。はぁ。


 暗がりの中で、布団にくるまっていると、うとうとして、気持ちよくなった。犬に咥えられたり、先輩に掴まれて空を飛んだり、私は、結構、疲れていたらしい。

 団長さんが帰ってくるまで、一休み、一休……み。すやぁ~。



 部屋の鍵が開く音で、うっすら目が覚めた。細くドアが開けられ光が入ってくる。


「レオンハルトさま~。は、まだ、戻られてないっと」


 フフッと密かに笑う女の人の声がして、小さな明かりが見える。ドアが閉まる音がして、誰かがベッドに近づいて来た。


 ヤバい。


 慌てて、私がベッドの中に深く潜り込んで隠れると、近くで衣擦れの音がした。その人は、布団を持ち上げると、明かりを消して、布団の中に潜り込んできた。


 え!?え?誰?誰?


 私は、慌てて布団の奥に更に潜り込んだけれど、その人の手に、ムニッと掴まれた。

 ジタバタ、ジタバタ。放せ~。苦しい~。

 ちっ、ちっちゃい雷~!来いっ!


 ビリッ!


「きゃあーっ!痛っ!何、何!?」


 早い話が、静電気です。


「ミミっ!どうしたの!?」


「ミミ、大丈夫?」


 ドアを開けた聖女様が見えた。その後ろから、おそらく食事が置いてあるだろうトレイを持ったドラニスタ君が、顔を出した。


「叔母上!ミミが、どうかしたんですか!?」


 慌てた団長さんまで顔を出そうとして、男性2人は、聖女様に扉の外に、顔を押し戻された。


「2人とも、そこにいなさい。絶対に、入ってきちゃダメよ。すぐに、ジェシカと辺境伯を呼んで来てちょうだい」


 バタバタと2人が駆け出す音がした。

 聖女様が部屋の灯りを点け、侵入者を白日の元に晒した。


「エメラルダ・マンデルゲール辺境伯令嬢!恥を知りなさい。とりあえず、ミミを下ろして、服を着なさいっ」


 赤毛の巻き毛の楚々とした令嬢が、素っ裸で、ベッドの上から聖女様を恨みがましく睨んでた。

 とにかく、放してください~。ちょっと苦しいかも。うーん。


「何よっ!何、私の邪魔してくれてるのよ。いい歳して聖女面して、何様のつもりなの!」


 いや、聖女様ですよね。


 って、私を握りしめるな。握りしめるな。あー、もう、もう1つオマケに、ちっちゃい雷さん!カモーン。


「痛っ!きゃっ!何、これ」


 エメラルダ嬢は私を放り出し、放り出された私を聖女様が受け止めた。


「あ、危なかったわ。ミミ、大丈夫?怪我は……顔が白いわ。ちょっと待ってなさい。回復魔法をかけるからね」


 息が苦しかった。腕や胸が痛い。思いっきり、握りしめられてたから、ちょっとギュッとなって。


「エメラルダ!お前、何故、そんな格好なんだ!?一体、王弟殿下の部屋で、何をしている。気分が悪いから、お借りしている部屋に戻ったんじゃなかったのか!」


 おそらく、辺境伯様だと思われる老人が、エメラルダ嬢を怒った。


「聖女様、どうなされました?」


 辺境伯様に続いて入ってきたジェシカさんが、エメラルダ嬢を嫌そうに見た。


「私はミミの怪我を治療するから。ジェシカ、お前は、そこのはしたない娘を、何とかしてちょうだい。マンデルゲール辺境伯、お孫さんに服を着せますので、一度、部屋を退出してちょうだい」


 辺境伯は、自分の孫娘であるエメラルダ嬢を睨み付けながら、部屋の外に出た。

 エメラルダ嬢をベッドから追い出し、私をベッドの上に置いて、聖女様は私に向かって自分の両手を組み、天に向かって祈った。

 私の身体が光に包まれ、身体の痛みや、苦しさが消えていった。


「もう、痛む所は無い?ミミ」


 私は、聖女様にニッコリ笑って、大丈夫だと伝えた。

 着替えの終わったエメラルダ嬢は、私を睨んで、聖女様に向かって自分の左手を見せた。


「見て、この赤くなった手。こいつのせいだわ。私の手も治してよ」


「自分のした事を、反省なさいな。あなたは、ミミを握り潰しかけたのよ。ミミが加減してくれたから、その程度で済んでるのよ。あなたの手は、放っておけば、それくらい、すぐに治るわ」


 聖女様が、そう言い放つと、エメラルダは憎々しげに聖女様を睨んだ。


「何を言ってるのよ!このちっぽけな生き物が、レオンハルト様と私の逢瀬を邪魔したんじゃない。こいつが、こんな所にいなければ、レオンハルト様は、とっくに私の物になったのに」


「何を言っているのか、よくわからんのは、お前の方だ。ミミを握り潰した、だと?鍵のかかった私の部屋に、勝手に忍び込んで、何を言う」


 エメラルダ嬢の着替えを終えたジェシカは、ドアを開いて、レオンハルト様とマンデルゲール辺境伯を招き入れていた。

 怒るレオンハルト様に、流石のエメラルダ嬢も一瞬怯えて、小さくなった。が、すぐに気を取り直して赤くなった左手をこれみよがしに自分の胸の前に置き、可愛らしくニッコリ笑って、媚びる様に言った。


「私は、レオンハルト様の為に、ベッドを暖めておりましたの」


「ベッドは、既に、ミミが温めていた筈だ」


「こんなちっぽけな生き物に、何が出来ますの?私ならば、レオンハルト様にご満足いただける筈ですわ」


 エメラルダ嬢は、団長さんに近付き、その腕に自分の腕を絡めようとしたが、団長さんにサッと避けられた。


「もう、いい。15歳の癖に、お前は娼婦の様な真似を何処で覚えてきたんだ。恥ずかしい。妹のオリビアと言い、お前と言い、お前の両親は、お前達の育て方を間違った様だな。

 王弟殿下、並びに聖女様、重ね重ね申し訳ない。ただ今晩は、今から馬車で屋敷に戻るわけにはいかぬので、このままお借りした部屋に私が責任を持って孫娘達を閉じ込めて、帰るまで外に出さぬよう見張っておき、今後この様な事の無いよう、私が躾直します」


 辺境伯は、エメラルダ嬢の上腕を掴むと、忌々しげに、嫌がる孫娘を引き摺って、部屋を出ていった。


「まったく、私とミミの愛の巣に、あんな娘が入り込むなんて。ジェシカ、ベッドの寝具を全て換えてくれ。まったく、香水臭くて、ひどい臭いだ」


 私を手のひらに乗せ、私の手を上げたり下ろしたり、指の先から耳や首の後ろまで怪我が無いか確認した団長さんは、飛んでもないことを言い出した。


「レオンハルト、お前、愛の巣って」


 聖女様が、無表情で、団長の顔を見て、言った。いつの間にか戻って来ていたドラニスタ君も、表情が凍っている。


 愛の巣って、何を言ってるんだか。誤解を招きますから、止めていただきたい。


 団長さんは、上機嫌で私に頬擦りしていた。

 これも、何とかならないかな~。

 




「聖女様、叔父上が、どんどん残念な感じになってきています。何とかなりませんか?」


「あれは、もう、ムリだと思うのよ。放って置いてやってちょうだい。ミミには、ちょっと可哀想だけどね」


「そうですね。このままやり過ぎて、ミミに嫌われれば、いいんですよね。うん、よし、この方法で行こう」


「ドラニスタ、貴方、今、不穏な事を言ってなかった?」





 ミミを独り占めされて、ちょっと不機嫌なドラニスタでした。

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