ちっちゃな妖精、危機一髪
読みに来て下さって、ありがとうございます。
ミミ、小さいなりに頑張っております。
辺境伯が、やってきたので、私は衣装係のマリンおばさんの部屋に行く事になった。
「辺境伯様は、別に問題ないんですよ。言ってしまえば、お隣さんですし、魔獣が出たら退治を依頼していただけますし。でもねえ、一緒にいらっしゃるお孫様のお嬢様方が、ちょっと。
何かあっても大変ですし、ここに隠れておられた方が、無難ですよ」
マリンおばさんは、繕ろいものをしながら、色んな話をしてくれた。騎士の誰々は、よくボタンを千切ってしまうとか、騎士見習いの誰々は最近急に大きくなって、新しい服が必要だとか。
マリンおばさんの話は、何だか、近所のおばちゃんと話しているようで、とても楽しい。
「おや、何だか外が騒がしいですね。ちょっと見てきますので、ミミ様は、そこの布の影に隠れていて下さい」
その時、急にドアが開いて、女の子が入ってきた。
「ビアンカのレースが破れたわ。何とかして」
私は、咄嗟に布の下に滑り込み、丸くなった。
「こちらですか?ですが、ここにはこの様な上等なレースは、ございませんし、聖女様や団長様の許可なく、お客様の縫い物をするのは、禁じられております」
「はあ?心配しなくても、いいわよ。もうすぐ私のお姉様がレオンハルト様と結婚して、ここの女主人になるんですもの。たかだか下働きのメイドごときが!文句を言わずに、さっさと縫いなさい」
ちょっと甲高い女の子の声が、マリンさんに命令するのが聞こえた。
え?レオンハルト様とお姉様が結婚って、団長さん、もうすぐ結婚するの!?
「規則ですので」
「規則、規則ってうるさいわね。あら?そこにちょうどいいレースがあるじゃない」
「あっ!それは!」
私は、グイっと引っ張られて、布から引き摺り出された。
「何、これ」
「お止めください。ミミ様を、お離しください」
女の子が、私のドレスのスカート部分を摘まんで、ブラブラさせて、私をじっと見つめた。
「人形?」
死んだふり~。死んだふり~。
「違うわね。……生きてる。え?妖精?」
突然、女の子が胸に抱いてた白い毛玉が、私を咥えた。
「ミミ様!」
マリンおばちゃんの悲鳴が聞こえた。
え!?
咥えられた私は、そのまま開いていたドアから外に。更には、沢山の足をくぐり抜け、開いていた吐き出し窓から外へ。
身体は痛くない。痛くないけど、この仔犬?私が雷を落としたら、死んじゃう?え?どうしよう。それに、ここで落とされたら、私もまずい。
誰か!誰か助けて!
ドンっと何かが体当たりして、仔犬(多分)が吹っ飛び、私は空中に投げ出され、何かに引っ掴まれた。
これは!
「サンダーボルト!」
雷鳥のサンダーボルトだ。
サンダーボルトは、この世界の雷神様のペットだ。私達よりも長生きの雷鳥の先輩である。
ああ、ありがたや。ありがたや。すいません、先輩。
先輩は、そのまま飛んで、飛んで、木陰で休む団長さんが見えた。
あ、団長さんだ。
「団長さーん」
私が手を振ると、団長さんが、ビックリして剣を構えた。
「じっとしていろ、ミミ!」
「ダメ!ダメです!この方は、雷神様の」
先輩は、私をポテっと団長さんの頭の上に落とした。
団長さんが、頭の上に落ちた私を慌てて支えて、掴んで、ヘナヘナっと崩れ落ちた。
「雷神様のペットのサンダーボルト先輩です」
私が紹介すると、木の枝に先輩が止まって、こっちをジッと見ていた。
『まったく、世話の焼ける奴だ』
先輩は、私の頭に声を伝えてきた。
団長さんは、私を両手でくるんでギュッと胸に抱き締めた。彼の身体がブルブル震えているのが、私に伝わってくる。
「良かった、無事で。ミミが襲われたかと、思った。ミミが連れ去られたら、死んでしまったら、どうしようかと思った」
ちょっと落ち着いたのか、団長さんは、私の顔や手足を点検し始めた。
「大丈夫か?何処も怪我は、ないか?」
「大丈夫です。ちょっと、犬のヨダレだらけになっただけで。ご心配お掛けしました。すいません」
「うん、確かに服が濡れていて、ちょっと破れているな。って、犬?犬のヨダレ?一体、何があったんだ?」
私の説明を聞くなり、団長さんは副団長に指示を出して馬に乗り、ドラニスタ君だけ連れて砦へと急いだ。先輩は、もう隠れる必要がなくなったとかで、私達の上を飛んでいた。
お騒がせしました。
「ミミは、急いで帰って風呂に入らなければ、風邪を引いてしまうからな」
いや、団長さん、おそらく問題は、そこではないです。聖女様も、心配してあげて下さいね。
マリンおばちゃんも大丈夫かな。あの女の子に、責められてないと良いけど。皆、心配しているだろうな。
「辺境伯は、ともかく、孫娘達が一緒だと、叔母上だけでは心労が重なり過ぎる」
『おい、お前。小さくなってしまったが、お前は雷神様の御使いなんだぞ!もうちょっと、しっかりしろ』
「でも、仔犬を苛めるのは、ちょっと」
『あんな、躾のなってない毛玉。ちょっと、ちっちゃな雷くらい落としておけ。躾だ、躾』
「ああ、私が元に戻ったら、抱っこして撫でさせてくれないかな~」
『あんな毛玉の駄犬、やめとけ。鳥だ、鳥は、いいぞ~。特に、ほら、雷鳥は羽も美しい。ほら、ちょっと触らせてやろう』
「ああ、犬。可愛かったよ~。白い毛玉みたいなころころした仔犬。犬、飼いたいな~」
実は、犬好きのミミでした。