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コノハナサクヤはご機嫌ななめ

「はぁ――……」


 サクヤはふとした拍子にため息が出ることがある。


 そんな時は、

「どうしたんだ?疲れたのか?熱でもあるんじゃないか?」

 とイワナガはサクヤの背をさすったり額に手を当てたりして心配することはなはだしい。

そんなイワナガに、

「ううん、大丈夫、なんでもないわ、姉さま」

 と、サクヤは最高の笑顔を返すのだった。


 サクヤのため息の原因、それは姉のイワナガだ。

 と言っても、イワナガが嫌いだということでは全くない。

 それどころか、いつもサクヤを見守り大切にしてくれるイワナガが大好きである。


 サクヤが気に入らないのは、イワナガが自身のことを「醜女しこめ」だと言ってはばからないことだ。

 確かに、遥か昔からイワナガは醜女と言われてきた。


 だがそれはサクヤが桜の花のようにはなかい存在であり「儚さすなわち美」という価値観から、対極的な存在であるイワナガの岩の如き強い生命力が美とは反対のものと見なされたからに過ぎない。


「姉さまは醜女なんかではないわ!」

 とサクヤが言っても、

「私が醜女でいるほうがサクヤの美しさが際立つじゃないか」

 と言ってイワナガはサクヤの不満を笑い飛ばすのだった。


 サクヤは、切れ長の目に長い睫毛まつげ、小顔で口も小さい、誰もが認める高天原学園一の美少女だ。


 一方姉のイワナガは、太い眉に大きな目と口という派手な顔立ちをしており、サクヤのようなしとやかな美しさはないが、彼女とはまた違う活力に満ちた華やかさがあった。

 

(姉さまは絶対に醜女なんかじゃないんだから!)

 こうしてサクヤは憤懣ふんまんやる方ない思いをくすぶらせるのだった。


 そんなある日、コノハナサクヤがSNSを見ていると「イワナガ醜女」というワードがバズっているのを発見した。


「一体これはどういうことなのっ!」


 激怒したサクヤが大元を調べていくとオロチという名にたどり着いた。

「オロチ、絶対に許さない!」

 怒髪天を衝く勢いのサクヤに、

「あたしは気にしないから放っとけ」

 とイワナガは言うがサクヤの怒りは収まらない。

「痛い目に遭わせてやるんだから!」

「しょうがないな……」

 サクヤの行くところイワナガあり、ということでふたりでオロチの住処に向かった。


 ――――――――


「なに?コノハナサクヤが怒ってるだと?」

 川辺の小屋で、焼いた魚を頬張りながらオロチが言った。

「はい、この前オロチさんが投稿した内容が気に食わないと……」

 オロチを囲むように座っている八人の子分達の一人が言った。


「ふん、良い子ぶったお嬢様なんかへでもねえ」

 と、子分たちの手前強がってはいるが実のところは、

(イワナガも来るかな……でも来たらどうしよう……)

 と内心は嬉しさと怖さが半々のオロチだった。


 あの日オロチは、もはや恒例になっているスサノヲとのタイマン勝負で負けてしまった。

 それでヤケになって鬱憤うっぷん晴らしとばかりに「コノハナサクヤは可愛いが姉のイワナガは腕っぷしが強いだけ」とSNSに投稿してしまったのだ。


 翌日、目が覚めてから改めて見ると、ものすごい勢いで拡散されてしまっていた。

 しかも、オロチは「醜女」などとは一言も呟いていないにもかかわらず、拡散されていくうちに「イワナガ、醜女」という内容にされてしまっていた。


(そんなつもりじゃなかったんだよなぁ……)

 実のところオロチは、サクヤのような儚げでしとやかな少女は好みではない。

 強くて逞しい、男などぶっ飛ばしてしまうような女傑が好きなのだ。

 要はイワナガの気を引きたかったのである。

 にも関わらず、いざイワナガが来るかもしれないと思うと嬉しいながらも、恐ろしくもあるのだ。


(やっぱ、イワナガは怖い……でも会いたい……!)

 そんな心の内を子分たちに悟られないように、オロチは必死に平静を装った。

「オロチさんなら、イワナガが来たって平気っすよね!」

「当たり前だろ!スサノヲともほぼ互角なんだからよ」

 子分たちのあからさまなひいき目に、

(いや、スサノヲにも全敗なんだよなぁ、俺……)

 と、泣きたい思いのオロチだった。


 そこへ、

「オロチ、出てきなさい!」

 と、小屋の外から呼ぶ声が聞こえてきた。

「来たな……」

 オロチが呟くと、

「オロチさん、ここは一発ガツンと言ってやってください!」

「そうですよ、イワナガなにするものぞ、ですよね!」

 子分たちが威勢のいい言葉を浴びせてきた。

(そういう事は言わないで欲しいんだが……)

 とトホホなオロチだったが体面上口には出せないのであった。


 オロチが小屋の外に出ると、イワナガを従えたサクヤが腰に手を当て仁王立ちしている。

 そして小屋から出てきたオロチを鋭い視線で睨みつけた。


(え……コノハナサクヤってこんな子だったっけ?)


 もっと大人しくて控えめな女子だと思っていたので、オロチは完全に意表を突かれた。

「私たちがきた理由は分かってるわよね?」

 普段のサクヤからは想像もできない、怒りが滲み出してくるような厳しい声だ。

「多分……」

「多分て、何よ!」

「あ、ごめんなさい……」

 思わず謝ってしまうオロチ。


(なんか、コノハナサクヤ、いいな……さすがイワナガの妹!)


 オロチはおしとやかな美少女には全く興味はない。だが強い女性にはめっぽう弱い。

 ついさっきまではイワナガのことばかり考えていたにも関わらず、今のオロチにはサクヤしか見えていないようだ。 


「コノハナサクヤさん」

 思い詰めた表情のオロチ。

「何よ」

 未だ怒り冷めやらぬサクヤ。

「好きです」

「はぁ?」

「お付き合いしてください!」

 そう言ってオロチはサクヤの眼の前で土下座した。

「ちょっと、いきなり何?」

 思いもよらぬ展開に顔を引きつらせながら後ずさるサクヤ。


 こうなるとイワナガが黙っているわけがない。

「何ふざけたことをぬかしやがる!」

 と、土下座するオロチの背を踏みつけながらイワナガが言った。


「それではお姉様を倒せばコノハナサクヤさんとのお付き合いを許してくれるということですね?」

 と全く話を理解していないオロチに、

「お前にお姉様なんて呼ばれる覚えはない!」

 と、イワナガは渾身の一撃をオロチに見舞って遥か彼方にぶっ飛ばした。


 イワナガにぶっ飛ばされながらオロチは、

(ああ、やっぱこれだ!俺が欲しかったのは!!)

 と満足げに微笑むのだった。



 そして次の日、サクヤがSNSを見ると、

「イワナガ様ラブ♡」

 というオロチの投稿がバズっていた。

 しかもオロチはイワナガへDMまで送ってきて、

「昨日の一撃、感動しました!是非お付き合いを!」

 と告白までしてきたのだった。


 そんなオロチに、

「お前はスサノヲと殴り合いでもしてろ!」

 とイワナガは返信し、

「こんな奴は即ブロックだ、サクヤもそうしろ!」

 と、サクヤに言った。

「はい、姉さま」

 サクヤはいつもの淑やか美少女笑顔でイワナガに答えた。

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