表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/25

第七話 封印の壺


江戸の裏路地――。

左膳は灯りの乏しい小道を軽やかに歩いていた。夜風にさらされる壺を片手に、顔にはうっすらと笑みを浮かべている。


「へへ、ようやくお宝にありつけたってわけかい……」

その後ろを、三蔵とちょび安が慎重に付いていた。


「ねえ、本当にお父とお母の行方、知ってるの?」

ちょび安の問いに、左膳は振り返らず答えた。


「ま、会えるかどうかはわからねえな」


「嘘はだめですよ?」

三蔵がぼそりとつぶやくと、左膳がくるりと振り返った。


「ん? だったら帰るか?」


「ついていきますよ。人質なので」


「おかしな女もいたもんだな」

そのやり取りを後目に、暗がりの向こうから黒装束の影が音もなく現れた。


「……左膳殿、よくぞ壺を」

凛とした声。小柄ながら鋭い気配を放つ人物が現れる。


「ほう、柳生からの……じゃなさそうだな?」


左膳は軽く肩をすくめた。


「それは“柳生の埋蔵金”にあらず。“封の壺”である。我らに渡していただきたい」


「だったら100万両もらおうか?」


「それは出来ぬ」


「へっ、金になるかどうかもわからねえ“封印”なんざ、知ったこっちゃねえなあ」

左膳は壺を高く掲げ、続けた。


「この壺、今割ったらどうなる? 封印が解けるか、それとも何も起きねえか……やってみるか?」

使者の瞳が細くなる。


「それを割れば、夢が漏れる。世界が侵されるぞ」


「あら大変」


「夢ぇ? なに言ってやがる……って、ん?」

ふと、左膳の手の中の壺がかすかに脈打った。

それはまるで、生きているかのように――温かかった。


「これ、マジでやべえ代物か?」

不意に現れた気配に、左膳の背筋がぞわりとした。


「おい、丹下!」

クラマの声が闇に響く。

屋根の上から彼が舞い降り、ショウタが続いた。


『やっぱりこっちだったか』


悟空が言い、ショウタが三蔵を見てほっと息をつく。


「無事かい?」


「まだ無事です」

三蔵が笑う。左膳は呆れたように舌を鳴らす。


「……どいつもこいつも、気楽なこった。さあて、この壺……どうすっかな」

壺の内側で、何かがうごめいた気がした。


「丹下左膳」

クラマが真っ直ぐに言う。


「その壺はいわくつきなんだ。未熟な者の精神を侵すぞ」


「聞いてた話とずいぶん違うな。いわくをつけりゃ、何でも片付くと思うなよ」

そう言い放った左膳の瞳に、一瞬、怪しい光が宿った。

クラマが思わず目を細める。


(ん? 今のは何だ?)


左膳は頭を振ると、舌打ちして壺を懐にしまった。


「とにかく、話はあとだ。柳生のボンボンのとこに届けたら、後はどうにでもならあな。ついて来るなら勝手にしな」

そう言い残して、左膳は路地を進んでいった。

三蔵とちょび安もそれに続く。

悟空たちも、無言で後を追った。


黒装束の使者は、誰にも気づかれぬよう屋根の上に飛び去っていく。


その足元に、砕けた瓦礫のすき間から、ほんのりと青白い煙が立ち昇っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ