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第二十四話 ショウタの呼びかけ


 次に目を開けたとき、そこは横浜の街ではなかった。

 光も色もない、真っ暗な闇。

 地平も天井もなく、足元さえ曖昧な空間の中心に、三蔵ちゃんがひとり立ちすくんでいた。

 彼女を覆う淡い光は、今にも掻き消えそうに揺れている。


 低く湿った声が闇の奥から響いた。


「人間の夢……甘く、柔らかい。こりゃたまらんわい……」


 影が揺らぎ、巨大な獣の姿をとる。

 長い鼻、どす黒い体毛、光を帯びない瞳。

 夢を喰らう怪物――獏だった。


「やめろ!」

 ショウタが叫ぶ。だが獏は鼻先を伸ばし、三蔵ちゃんの光を絡め取ろうとする。


「無駄だ、人間。抵抗しても、ただ呑み込まれるだけ……」


 冷笑する声に、ショウタは必死に叫んだ。


「悟空! ……悟空、聞こえるか!」

 ショウタは必死に呼び続けた。闇に吸い込まれるだけで、返事はない。


 だが次の瞬間、胸の奥で何かが熱を帯びた。

 身体の内側から、懐かしい声が響く。


『……聞こえてるぞ、ショウタ』


「悟空……!」

 ショウタの瞳に光が宿る。握り締めた拳から、確かな力が流れ込んでくるのを感じた。


「なぜだ! お前は最初に夢ごと食らってやったはず……」

 獏が鼻を震わせる。


『他人を呼び出したのが運のツキだな。夢っていうのは人の意識で成り立ってるからな。知らなかったのか?』


「く、くそう!」


 ショウタはすぐに次の名を呼んだ。

「そうか! よし、来てくれ、クラマ!」


 仮面の剣士が闇を割って現れる。

「呼ばれたからには斬るしかあるまい」

 クラマの刀が閃き、獏の足元に刻まれた影を裂いた。


 なおも押されるショウタは、最後の名を口にした。

「左膳!」


「ハハッ、夜遊びに呼ばれるとは光栄だな」

 片目をぎらつかせた左膳が姿を現し、獏に向かって豪快に斬り込む。


 三人が揃うと、獏は不気味に鼻を鳴らした。

「フン……面倒な連中だ。今は退こう……だが次は容赦なく喰らうぞ」


 影の巨体は煙のように揺らぎ、闇へと溶けていった。


 その瞬間、三蔵ちゃんの光が安堵のように明滅し、彼女の瞳がゆっくりと開かれた。


「……助かった……ありがとう」

 弱々しい声で微笑む。


 悟空が棒を肩に担ぎ、振り返る。


『けどよ、まだ終わっちゃいねえ』


「まずは、さっきの事件を片付けるべきかな」


「そうだね」三蔵ちゃんも頷いた。


 その瞬間、辺りの闇が大きく揺らぎ、裂け目が走った。

 亀裂の向こうから潮の匂いと鉄のきしむ音が流れ込んでくる。

 視界がねじれ、彼らの足元は一瞬にして崩れ落ちた。


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