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第二十三話 枕返しの苦悩

 

 私は枕返し。

 人の眠りに忍び寄り、悪夢を見せてはその恐怖を喰らう存在。

 何百という夜を渡り歩き、人の悲鳴を糧にしてきた。

 泣き叫ぶ子供、震える老人……みな私にとっては甘美なご馳走だった。


 ――この少年など、まさに格好の獲物だ。

 痩せた肩、落ち着きのない寝息。現実でも心許なげに見える。

 こんな弱々しい子供なら、枕元で囁くだけで跳ね起きるに違いない。


 私はゆっくりと布団の脇に腰を下ろす。

 薄暗い部屋には月明かりが差し込み、少年の横顔を淡く照らしていた。

 静かな寝息が布団を震わせ、あまりにも無防備に見える。


 影のような手を伸ばし、髪に触れた瞬間、口元がにやりと歪む。


「……サア、コワガレ」

 冷気を帯びた声が、じわりと部屋を侵食していく。

 

 少年の目が開く

 飛び起き、恐怖に凍りつく顔を、楽しむつもりだった。


 ――しかし。


「ん……また変な夢か……」

 少年――ショウタが寝返りを打ち、半分眠ったまま瞼を開ける。


 私はさらに囁きを強めた。

「驚ケ……怯エロ……! オマエノ恐怖、喰ワセロ……!」


 だがショウタはぼんやりと天井を見ただけで、小さく呟いた。

「……おばけか? もういいよ……俺、続き見たいんだ。だから静かにしてくれ」


「な……ッ!?」

 胸がざわめいた。

 恐怖を糧とする私を、ただの“眠りの邪魔”としか扱わない人間など、これまで一度もいなかった。


「……ワタシヲ、怖ガラナイ……?」

「いい夢見てたのに、邪魔すんな……」


 あっさりとそう言い残し、ショウタは再び瞼を閉じた。

 寝息がすぐに静かに整う。


「……モウ一度寝レバ……」

 掠れた声を残し、私は戸惑いのまま闇に溶けていった。


 そして少年の意識は、再び夢の世界へと沈んでいく――。


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