第二十一話 影との乱舞
屋敷の中は黒ずくめの一団に埋め尽くされていた。
狭い廊下に響く金属音。刀と棒がぶつかり合い、火花が散る。
悟空は棒を振り回し、ちょび安は短刀を構えて敵に食らいつく。左膳は一歩も引かず、片目をぎらつかせて斬り伏せていく。
『ちっ、まだ湧いて出やがる!』
悟空が舌打ちした、そのときだった。
――白い煙がふわりと立ち込める。
はじめはかすかな霧のようだったが、みるみるうちに濃くなり、廊下の視界を覆いつくした。
「なんだ、火事か!?」
「いや……違う。これはただの煙じゃねえ」左膳が低く言い放つ。
煙の向こうから影が現れた。
一人は仮面をつけた剣士――鞍馬天狗。
もう一人は、片目片腕の剣豪――タンゲサゼン。
「人の名を騙り、悪事を働くとは……この鞍馬天狗、許してはおかぬ!」
面越しの声が鋭く響く。
悟空は思わず叫んだ。
『おい! 変なのが現れたぞ、敵か?』
「味方だ。一人はな」クラマは短く答え、刀を抜いた。
「……また、俺の真似事か」
左膳が口元を歪める。
「存分ニ斬リアオウゾ!」
次の瞬間、二人の刀が火花を散らした。
廊下に鋭い金属音が響き渡り、二つの影が交錯する。
しかし――その斬り合いは、敵にとって地獄そのものだった。
本物と幻影、どちらの斬撃も容赦なく周囲へと飛び火し、巻き込まれた黒ずくめの男たちが次々と斬り伏せられていく。
「ぐわっ!」
「ひっ、やめ――!」
悲鳴が煙に飲まれ、血飛沫と共に闇へ消える。
「ハハハッ、いいじゃねえか! お前が敵か味方かなんざ関係ねえ! まとめて斬り刻んでやらぁ!」
本物の左膳が吠える。
幻影の左膳もまた、狂ったように刀を振るい、黒ずくめを巻き添えにする。
二人の斬撃はまるで嵐のように交差し、廊下の柱が裂け、床板が粉々に砕け散った。
やがて敵はことごとく倒れ伏し、煙の中には二人の左膳だけが残った。
互いに刃を押し付け合い、片目をぎらつかせて睨み合う。
一瞬だった。
本物の左膳が体をひねり、豪快な袈裟斬りを放つ。幻影の左膳は悲鳴を上げる間もなく煙に溶け、跡形もなく消え去った。
「ふん、影法師ごときが俺に勝てるかよ」
肩で笑う左膳の眼光は、なおもぎらついていた。




