第十二話 昨日の敵は
白い雲が、風を切って夜空を駆ける。
悟空がその上に立ち、後ろにちょび安がに腹ばいでしがみついていた。
「ひえーっ、落ちたらどうしよう…!」
耳元で情けない声が震える。
『しっかりつかまってたら落ちねえよ』
悟空は笑いながらも、指先に力を込める。
ふと視線を落とすと、下界の町並みが豆粒のように広がっていた。
その一角――見覚えのある黒い影が動く。
『あれは……左膳だな』
左膳の刃が、月明かりをかすめて閃いた。
鈍い音とともに、一人の男が崩れ落ちる。
「クラマって言う割には、大したことねえな」
吐き捨てる声は、余裕よりも苛立ちを含んでいた。
気配が揺らぐ。
路地の闇から、黒装束の影が次々とにじみ出る。
数えて十人――全員が無言で刀を抜き放つ。
左膳は口の端をわずかに上げた。
「手荒い歓迎だな、何人のクラマがいやがる?」
雲を蹴り、悟空はひと息で地面へ降り立った。
土煙の中、左膳の背中が見える。
『助太刀するぜ!』
「お前……今、空から来たか?」
『細かいことは気にすんな。……ちょび安は隠れてろ』
「言われなくても!」
ちょび安はすぐさま近くの岩陰へ駆け込み、その姿が視界から消える。
左膳の刀が閃き、二人、三人と黒装束が血煙に変わった。
悟空は如意棒を一閃――乾いた衝撃音と共に、頭蓋が粉砕される。
「……何もそこまでしなくても」
ショウタは眉をひそめながら思った。
人をグロテスクに殺しているのに、胸の奥には波紋ひとつ立たない。
「なんで罪悪感とか感じないんだろ?」
『これは夢だからな』
悟空の短い言葉が耳に落ちる。
「……? まあたしかにそうか」
『だろ。そのうち詳しく教えてやる』
やがて、最後の一人が地面に沈み、静寂が戻った。
「情報とか聞いたほうがよかったんじゃ……」
『言うような奴らじゃねえよ。――おい、クラマ知らないか?』
悟空が問うと、左膳は鼻で笑った。
「お前らが知らねえのに、俺が知るわけあるめえよ」
悟空は肩をすくめ、空を見上げる。
『早く来すぎたか……まったく、あいつどこ行った?』