第二章 手がかり
各章冒頭のマックス君視点は前の章のあらすじでもあるイメージです。
おれとレオンの平穏な日常は一瞬で崩れ去った。それも、こんな悲惨な形で…。
前世のおれは友達いなかったっぽいけど、マックスには小さいころからレオンがいた。レオンは幼馴染で親友だ。もはや兄弟みたいなもんだ。だからカリストさんはおれにとっても、もう一人のじいちゃんみたいだった。
それが…こんなことになるなんて…。なんでだよ!
町の人も、呪いだのなんだの言って引き気味に見てるだけだ。でもおれは呪いなんて信じない!
ギュズラは平和な町だ。だけど旅人や商人の出入りも多いから刃傷沙汰が全くないわけでもない。だから治安維持に関しては軍隊が目を光らせてる。領主様のおひざ元で大それたことをやろうって奴があんまりいないだけで、ちょっとしたケンカや詐欺はそれなりにあるだろう。
前世の記憶ではこういう案件は「警察」って組織が取り締まってた。悪い奴は警察に捕まった後に「裁判」ってのにかけられる。
似たような仕組みは今の世界にもあるけど、前の世界のほうが技術的に圧倒的に進んでたな。こういう、呪いとか怪談話みたいなことも「科学」に基づいて調べてればどうやってその状況を作り出せるのかわかるんだ。それでそれを実行した悪い奴を見つけるんだ。
今の世界にはこんな組織はないから、カリストさんの件も遺跡の呪いだろうってことで誰も調べてない。直接カリストさんと誰かがトラブル起こしているところを誰かが見てれば軍が動いてくれただろうけど、そうじゃないからだ。
だからおれは一人で調べる。
前世では本を読んだり「テレビ」ってのを見てて、そこで娯楽としてこういう事件を扱ったものがあったのをなんとなく思い出した。刑事ものとかミステリーって言ったような気がする。
警察とか探偵っていう頭のいい人が現場を調べて手掛かりから悪い奴を見つけ出すって話だ。正直人の生死を娯楽として扱うのは不謹慎だと思う。だけど前の世界では一般的なものだったみたいだから、あれだ、絵本のお話と同じだ。完全に作り話だってわかってて内容を楽しむためのものだ。
絵本では悪い魔法使いがお姫様に呪いをかけました、王子様が悪い魔法使いを倒してめでたしめでたし、とかなるけど、現実はそうじゃない。
前のおれから見てこの世界は異世界だけど、魔法や妖怪みたいな存在はここでもおとぎ話の域を出ない。呪いっていうのも、本当に説明のつかない怪奇現象なのか、文明レベルのせいで説明ができないだけなのか、そのあたりがものすごくあいまいなんだ。
わかんないからって「呪い」ってことにして考えるのを止めるのはよくないことだと思う。だからおれは一人でもやれることはやったし、レオンにもそう言った。
だって、そうでもしないとカリストさんがかわいそうだよ!
カリストさんが亡くなったのが呪いのせいだとしたら、なんでそんな呪いが今になってこんな状況を作り出したのか?その根拠を見つけるまでおれは納得しないぞ!
それで一人で調べてみたけど、ほんと謎だらけだ。
そもそもおれは前の世界で見た刑事ものの主人公みたいに頭がいいわけじゃない。ただの宿屋の息子だ。科学的な裏付けとか、そんなのわかんないから気づけないだろうな。調べれば調べるほど得体のしれない「呪い」説が正しいような気がしないでもない…。
結局最後に残ったのは、カリストさんが残した「リーザニカ」って人のことだ。
町の知り合いにはそんな名前の人はいないし、レオンも知らないって言ってた。レオンは知らなくてもカリストさんは知ってたんだ。きっと遺跡に関係する人だろう。
このあたりは心当たりがあるって言ってたし、遺跡のことを全然知らないおれが一人で調べるよりも、もともと役目を継ぐ予定だったレオンと一緒ならわかることも多いはずだ。
そのレオンはショックで体調を崩してた…。無理もないよな…。おれは気遣ってやれなかった…。
一番悔しいのはレオンなのに、あきらめようとする態度が気に入らなかった。それはレオンにとっては自分を納得させるためだったのかもしれないけど、おれたちがあきらめたら全部うやむやのまま、カリストさんは気の毒な最期だった、って終わっちまう!
そんなのはダメなんだ!だからおれはそう言った。レオンはどうすればいいのかわかんなくて悔しくて泣いてた。
ケンカってほどじゃないけど、でかい声で言いたいこと言ったのは久しぶりだ。けどそれだけ大声を出せることにおれは安心したんだ。あいつ本当はあきらめる気なんかないってわかったから。
だから最後にこのされた手がかりを伝えた。リーザニカって人を知ってるか?って。
レオンは自分が引き継ぐ予定の…今はもうカリストさんがいないから引き継いだってことになるか…、遺跡と管理の仕事について知らないことが多すぎた。
もともとカリストさんはレオンの両親にあたる娘夫婦に遺跡の管理を引き継がせて今頃は引退してるはずだった。昔オーガストじいちゃんとそんな話してたのを聞いたことがある。でも、レオンの両親は事故で亡くなって…。役目を引き継ごうにも当時のレオンは子供だったから、成人するまでカリストさんが続けるしかなかったんだ。
レオンは16歳の時にギーズ侯爵様の軍に志願して入った。正規の入隊じゃなくて、あの時は増援部隊の募集だったし、実際に戦うというよりも輸送の手伝いみたいなものだったらしい。しかも侯爵様の軍が現地に到着したころにはもう戦闘自体は終わってたって聞いたな。
カリストさんはレオンが帰り次第、徐々に遺跡の仕事を教えるつもりだったけど、運の悪いことに向こうで流行病にかかってやっと帰ってきたのがあの事件の前日だったんだ。
言い方変えればレオンが帰ってきてから起こったことでまだよかった。というか、そう思うしかない。
もしレオンがまだ帰っていなかったら、もしかしたらカリストさんは誰にも気づかれずにあの家で一人亡くなっていたかもしれない。でもそうはならなかった。しかも一つだけ残った手がかりもある。
だからおれもレオンも、あきらめたりしない!何が起こってこうなったのか、絶対に突き止めてやるんだ!
…まさか、これがきっかけであんなおおごとに巻き込まれることになるなんて、この時のおれは夢にも思わなかった。