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第九章 因縁の城

 おれの名前はマックス、ギュズラ生まれの17歳、たぶんモブ。家業の宿屋を手伝って平和に暮らしている。すまない、一瞬でいいから頼むから現実逃避させてくれ!

 だから!この世界どうなってんのマジで!?


 異空間といっていい遺跡の中で800年間眠っていたリシャール王子を討伐すると言う大義名分を領主であるギーズ侯爵様からもらったおれたちは具体的な対策として、とりあえずリーザニカ様子飼いの組織「不死鳥」に手紙を出した。ギュズラと王都は離れてるから事態が動くのはだいぶ先になるかと思ったんだけど、機転を利かせたレナさんの指示でスーがおれたちを追ってこっちに来てたからすぐに合流することができたんだ。


 しかもレナさんはキャットの望み通りの物をちゃんとスーに持たせていた。小回りが利きすぎる!おかげでキャットもご機嫌だ。

 スーが持ってきた物とはフェニーチェって神話時代の鳥の尾羽…と信じられている物だった。


 本物かどうかはわからない。けどこの鳥のせいで800年前、エルネア姫と飼い猫のヨゼフは不老不死に近い体になった。何らかの力を秘めているのは確かだろうな。

 すんごいキラキラしてて、大きい羽根だった。おれは語彙力がないからそうとしか言えないけど、なんかこう神秘的な感じは確かにあるな。これが尾羽ってことは、全長はかなり大きいんだろう。それでこれだけキラキラしてるのが飛んでたら、神話とは何の関係のない普通の鳥だとしても神々しく見えるだろうなぁ…。


 使い方によっては毒にも薬にもなりそうな、人知を超えたアイテムであることは間違いない。「不死鳥」ではこれを箱に入れて鍵をかけてずーっと大事に保管してて、誰も中身を知らないまま受け継がれてきた。

 というのも、下手に力が悪用されるとリーザニカ様も何が起きるかわからないからだ。遺跡を封印したのと同じ鍵で開けられるようにしてある。


 遺跡の鍵はギュズラの鍵の継承者の家系に、箱は王都の「不死鳥」の本部に、遠く離れて保管することでフェニーチェの尾羽の存在は隠されていた。なるほどよくできた仕組みだな!

 キャットいわく、これがあればリシャール王子の力に対抗できる…らしい。やっぱりわからん。

 わからないけど対抗手段が手に入ったのだから、遺跡にもう一度向かうことにした。


 おれ的には目下のところ問題はリシャール王子よりもあの甲冑の集団だ。宿屋の息子たぶんモブのおれは戦いとは無縁の生活を送っている。そもそも論でギュズラは平和なのんびりした田舎町だから、職業軍人以外は戦うことなんて考えなくても生活できる。

 そんな一般人のおれが突然あの甲冑集団の中に突撃しなきゃいけないってハードルが高すぎるだろ!


 前世のおれが、ここって何かのゲーム世界なんじゃないか?って疑問に思っている…ような気がする。だけどマックスであるおれはそれには否定的だ。ゲームだったら魔物とか魔獣とかを倒して序盤から地味にレベル上げするだろ?でもそんなものこの世界には存在しない。というかそんなもんが存在するファンタジーワールドだったら魔法とか本当に使えそうじゃないか。けどそんなものは存在しない。リーザニカさんだって魔女って呼ばれてるけど、不老不死っぽい体質からうわさを流しただけだし。

 もし本当に何か魔法みたいなものが存在するなら、それはあのフェニーチェってのが持ってる神秘的な力ぐらいだろう。


 レオンは鍵の継承者の教育の一環で剣を扱う訓練をしてるけど、ただの宿屋の息子のおれは戦闘訓練を受けてないから、気休めにしかならないかもしれないけど薪割用の斧を持っていく。薪割は家の仕事でやってるから問題ない。

 もちろん斧を木以外の物に振り下ろしたことはないけど、相手はあの甲冑で生身の人間って感じがしないから何とかなる…と思った。

 実際何とかなった!自分でいうのもあれだけど、火事場のバカ力ってやつかな?


 リシャール王子の城にはあの甲冑がたくさんいて、中身は空っぽだった。空っぽなのに襲ってくるとかマジで意味不明だよな!昔の兵士の抜け殻をあやつってるってリーザニカ様は言ってたけど、これもリシャール王子が持つフェニーチェの力なのか?

 おれとしては中に人間が入ってなくて助かった。いくら町のため、カリストさんの無念を晴らすためといっても、人間相手に斧を振り下ろすってのは心理的にくるものがある。


 それにしても数が多いから、スーが一緒に来てくれてほんと助かったな~。

 あいつは戦闘訓練を受けているのかよく知らないけど、鞭でバシバシ甲冑どもをしばき倒すわ手榴弾みたいなのを投げるわ、すんごい荒事に慣れてる感ある。ちょっと意外だよな。おれより年下なのに。「不死鳥」の仕事柄ってやつか?


 リーザニカ様の組織ってだけあって色々ありそうだもんな。あれ?ってなると、王都で会った時は変な奴に絡まれてたけど、もしかしてレオンが助けに入らなくても自分でなんとかできたんじゃないか?あそこで会ったのは偶然だけど、もしかしてレオンは騒ぎを大きくしてけがしただけだったのかも…?

 いや、今はそのことはいい。どのみちおれ自身は「不死鳥」とは無関係だし、あんまり深く考えないほうがいい。スーは組織関係なく、友達だからな!


 さらわれたリーザニカ様はどっかに監禁されてるのかと思いきや、自分で騒ぎを起こしてハデに存在を主張してた!おかげですぐわかったからよかったけど。

 おれたちが駆け付けると豪快に甲冑集団を扇で張り倒し、遅かったとまで言う始末。なんというか…さすが魔女様だぜ…。おれたち、さらわれたお姫様を助けにきたヒーロー一行というよりも、どう考えても侵略するために囮になった魔女を迎えに来た手下感ある。

 ってかリーザニカ様ってあんなドレス着て戦えるのか…。しかもあの扇強いな!さすが魔女様だ!大事なことだから二回言ったぞ。


 リーザニカ様もフェニーチェの力がリシャール王子との戦いの切り札になるってことはわかってたようだ。というわけで急いでスーと合流する。

 階段を下りてスーと別れた場所まで戻ったんだけど、肝心のスーがいない。キャットが音を拾って指示された扉を開けたんだけど、そこにはもう見たくもない甲冑がひしめいている(今ここ)。


 …異世界がたぶんモブのおれにやさしくない!!

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