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宿屋の息子、成り行きで故郷を守るために親友と一緒に奔走したけど平和な日常が一番だ!~自分はモブでたぶん親友が主人公~  作者: 螺鈿細工


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21/56

 翌日。昼前にポルカ伯爵と彼の甥、ギーズ侯爵の三人は正装して王宮へ出かけていった。レオンは部屋で足の治療を受けつつ、日記を書き、昨日使った剣の手入れをしている。

 一方マックスは、王都についたことを簡単に手紙に書き、それをギュズラの家族に送ってもらうように頼んだ。その後、特にすることがなくてヒマだったので、使用人の一人に屋敷の一部を案内してもらっていた。


 ポルカ伯爵の屋敷には、伯爵と甥の住居スペースとなっている部分と、使用人たちの居住する別棟からなっている。三階にある伯爵たちの住居はさすがに案内してもらえなかった。

 二階には客用の寝室や執事の部屋があり、ギーズ侯爵をはじめマックスとレオンが泊まっている。その他にいくつかの客間や控え室を通り抜け、音楽室や図書室、球戯室が造られている。伯爵の甥は球戯がとても好きで、よく友人を連れてきてはここを使うという。

 きらびやかなお屋敷は生活感がなく、前世の感覚でいうところの美術館みたいだ。

 一階には厨房と食堂の他に庭に面した温室がある。庭の一部は果樹園になっている。この二つはポルカ伯爵ご自慢の施設で、案内役の使用人も誇らしげだった。園芸が好きな伯爵が寒い土地を気にせず趣味を楽しむために造らせた場所で、常に二、三人の庭師によって手入れされている。


「面白そうだな。おれも手伝うよ」


 マックスは何もしないで屋敷の中で休んでいるのが何だか落ち着かなかったので、そう言って手伝い始めた。人懐っこく仕事を覚えるのが早い彼は、たちまち庭師たちと打ち解けて作業に精を出す。

 夕方近くになって、使用人の一人がやってきて声をかけた。


「レオン様がお呼びでございます」

「まさか具合が悪いのかな?」

「いいえ…、お客様がいらっしゃったようで…」

「客?まあいいや。行きます」


 マックスは庭師たちに会釈して使用人について行った。

 レオンの部屋に入ると何やら不安そうな顔をしたレオンと伯爵の執事がいた。


「マックス。オレたちに客が来たって」

「それが」と執事は早口に言った。「ご婦人が一人、リーザニカ様の使いと名乗っています」

「早いな。もう来てくれたのか?」

「オレもそう思ったんだ。向こうから接触してきたんだし一緒に会った方がいいと思ってお前を呼んだ」


 だが執事はそれに難色を示す。


「リーザニカ様ほどの方がご婦人一人を使わすというのも不自然ですし、しかも彼女は顔を隠しているのです。わたくしといたしましては、伯爵様がお留守の間に素性のしれない人物を入れたくはなかったのですが…」

「結局、わりと強引に入ってきたらしい」

「ええ、隣の客間にお通ししました。マックス様とレオン様に会いたいとだけ言って、強引に門を開けさせたのですから…」

「おれたちのこと知ってるってことは、伯爵様の手紙を読んだってことだよな?なら大丈夫じゃないかな?」

「そう思います。オレたちのこと王都で知ってる人はほとんどいないし、きっと大丈夫です」

「そう、ですね。ではこちらへ」


 案内された客間では彼らに会いに来たという婦人がイライラした様子で靴音高く、室内を歩き回っていた。毛皮の外套に黒いヴェールのついた鍔広の帽子を被った彼女は、二人が入ってくると歩くのをやめて、彼らをよく見るようにその帽子を取る。

 色白で、年はマックスたちとあまり変わらない、若い女性だった。そのくせ妙に威圧感がある。


「遅い」


 謎の人物はぴしゃりと言った。


「お、お待たせしました…」


 威圧感に圧倒されたマックスとレオンは反射的に同時に言って、次の言葉に詰まった。その様子を彼女は黒に近い赤い瞳で二人を交互に見る。


「それで、手紙を書いた鍵の継承者のレオンはどっち?」

「あ、オレです」

「もう鍵に血は吸わせた?」

「え?」

「ああ、これだわ。やっぱり急いで来てみて正解だわ。鍵はどこ?」


 レオンは遺跡の鍵を取り出して彼女に渡した。それを受け取ると、彼女はいつかレオンがやったように鍵の側面に薄い刃を出してレオンに返した。


「その鍵を握るのよ」

「刃が出たまま、ですか?」

「そうよ」


 レオンは困惑した顔で立ちすくむ。


「いいから、早くしなさい!」

「わ、わかったですよ!」


 困惑のあまり言葉遣いも崩れたレオンは、気圧されて軽く鍵を握った。掌に鋭い痛みが走り、彼は顔をしかめる。手を開くと鍵が薄赤に濡れていた。


「それでよろしい!お前は正式に鍵の継承者と認められました」

「正式にって、これにはどんな意味があるんですか?」


 マックスはレオンに代わって聞いた。


「ただ単に鍵を先代から受け取るだけでは鍵の継承者とはいえないのよ。鍵に血を吸わせて、鍵に自分を覚えてもらわないといけないの。急に代替りして、どうせその事も知らないと思ったら、予想通り。だいたい、あの遺跡のことで私に話があるって第三者を経由して手紙を出すなんて、おかしいと思ったのよ」


 彼女は不満そうに続けた。レオンは、まさかペーパーナイフ代わりにそれを使っていたとはとても言えなかった。


「報告書はよこさないで、まだるっこしい紹介状はよこすわ、代替わりしたら手順も何もなくなっちゃって。それで緊急の用事って何?先代に何かあったらしいけど、何があったのかきちんと説明しなさい」

「あの、その前に…」


 レオンはハンカチで手を拭きながらおずおずといった。


「そういうあなたは?もしかして…」

「私が、リーザニカよ!」


 会話の途中からもしかしてそうかなとは思ったが、この登場の仕方は予想外である。二人は驚きが一定量を過ぎるとかえって平常心をもたらすことを実感した。


「えっ、ご本人なんですか?門番には使いの者だって…」

「あのねぇ、私は貴族なのよ。淑女(レディ)が供もつれずにたいして親しくもない人のお屋敷に行くのは色々問題になるの。時間がかかって面倒なだけ。ポルカ伯爵に会いに来たわけじゃないし。だから使いの者って言ったの。ま、怪しまれて結局余計な時間使っちゃったけど」


 ずいぶんとはきはきものをいう淑女である。マックスは想像していたリーザニカと少し違って軽く驚いた。魔女といううわさがあるとはいえ貴族だからもっと話しにくい感じかと思ったが、はっきりした物言いは好感が持てた。


「あなたが、リーザニカ様…。1000年以上生きてる魔女ってうわさの?」


 リーザニカはまたその話かといってため息をついた。


「淑女に年齢を聞くなんて無神経なお子様ねぇ。まあいいわ。私が魔女と呼ばれているのは事実だけど、さすがに1000年は生きてないわよ」

「はぁ…」

「そんな話はいいの。本題は、ギュズラで何があってお前たちがなぜ私に会いに来たか、詳しく説明して頂戴!」


 話が長くなると思った彼女は長椅子に腰をおろす。マックスたちも彼女の向かい側の長椅子に座って、10月のはじめに起きた事件について話し始めた。


「…だいたいわかったわ。それでお前たちは先代の遺言にしたがって私に鍵を渡そうとした。でもリーザニカというのが誰だかすぐにわからずに私を探してここまで来たのね?」


 一通り説明を聞くと彼女は言った。


「はい。それに、おれたちはカリストさんに何が起きたのか知りたい。誰があんなひどいことをしたのかその理由を知りたい。そいつはきちんと裁きを受けるべきだ。でもさっきも言ったとおり、手がかりも何もありません。それでリーザニカ様ならその事についても何か知ってるかもしれないって思ったんです」


 彼女は少し考え込んだ。


「確かに、何かが起こっているようね。それについて、心当たりがないわけじゃないわ。でも…ここでは何とも言えないわね。ギュズラに、その遺跡に戻ってみるべきよ。手がかりもきっとそこにあるはずだわ」


 そう言ってリーザニカは立ち上がった。


「レオンはここに来るべきじゃなかったわ。鍵の継承者は常に遺跡を監視していなければならないから。急ぐわよ。明日ここを出るわ」

「はい?」

「明日、開門と同時に王都を出てギュズラに向かうわよ。私の馬車に乗せてあげるから、ポルカ伯爵とギーズ侯爵にそう伝えておきなさい。荷造りをしておくのよ」


 彼女はヴェールのついた帽子をかぶって扉の所まで歩いていった。そしてぽかんとしたマックスとレオンをにらむように見やって一言。


「わかったわね、明日よ!」


 リーザニカが帰った後、マックスたちから来客の正体を聞かされた執事は驚きを隠さなかった。と同時に執事特有の冷静さと気配りとを取り戻して、伯爵たちへの伝言を引き受けてくれた。

 マックスたちは荷造りにかかったが、よく考えれば今は王都に来て二日目である。旅の荷解きが完全に終わらぬうちにそれを包み直したことになる。


 翌日、マックスとレオンが朝食をとっていると、晩餐会やら舞踏会やらで、しばらく帰れないという伯爵たちから伝言が届いた。執事からリーザニカについての話は伝わっているので、その返事である。

 ポルカ伯爵からは道中気をつけるように、ギーズ侯爵はともにギュズラに戻りたいがそうもいかないこと、リーザニカが早くに会ってくれてよかったとあった。


 その後、リーザニカの二台の馬車が門前に到着した。一台目の馬車にはリーザニカ、二台目の馬車には彼女の荷物と侍女が乗っている。二人は執事に見送られて一台目の馬車に乗り込んだ。

 正直言って、うわさの魔女と同じ馬車に乗せられるとは思っていなかったので緊張感しかない。いくら二人きりではないとはいえ、貴族の女性がよく知らない平民の男二人と同乗というのはよくないんじゃないか?とマックスは思った。


 そのことを伝えたら、従者枠だから問題ないと言われて苦笑いした二人である。ついでに話しておきたいこともあるとのことで今日は一緒に乗せたが、明日以降は別にこっちじゃなくてもかまわないとのことだったのでほっとした。実際のところ、リーザニカは普通の淑女ではなく、誰と馬車に乗ってどこに行こうと問題になることはないそうだ。


 リーザニカは白っぽいドレスの上から紫の絹の外套を着込んでいて、昨日とはだいぶ印象が違っていた。赤味がかった黒い髪は簡単にまとめて、バラの飾りのついた小さな帽子を斜めにのせている。


「おはようございます」


 マックスは改めて行儀よく挨拶をした。レオンが続けて頭を下げる。なし崩し的に馬車に乗せられたが相手は貴族、きちんと礼儀をわきまえておくのが家業で培った処世術である。


「おはよう。ほら、お前も挨拶なさい」


 リーザニカは軽く会釈して、隣においてあるブランケットのかかった籐編みの籠をつついた。籠からは恨みがましい猫の唸り声が聞こえて、黒猫が顔を出す。


「…何だよリーザ、俺はお子様の相手なんかごめんだぜ。寒くてたまんねぇ、寝かせてくれよ」

「………!」


 眠くて不機嫌な猫の声のまま、人間の言葉が聞こえた。


「無愛想だけど、これが私の相棒のキャーライト、愛称はキャット。うわさで聞いたことはあるでしょう?」


 彼女はため息をつきながらブランケットをかけなおした。


「うわぁ…かわいい声でかわいくないしゃべり方だ!」

「ほ、本当に今、こいつの声だったよな…?」

「ガキどもうるせーぞ!」


 話しているうちに開門の時間になって、門に集まっていた馬車は一斉に街道に出、あるいは王都に入ってきた。その様子を見ながらマックスは今更ながらに、何か大きなことに巻き込まれたような気がしていた。

しゃべるモフモフ、と聞くとかわいいイメージありますが、このお話では中身おっさん疑惑さえあるかわいくない言動の魔女の相棒です。

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