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第11話 二次会パーティー会場

 2本の時計の針が12を刺して重なる。跨いだ先の日付は4月21日。目の前のテーブルにはご馳走が並ぶ。手に持つクラッカーのヒモを思いっきり引っ張る。キラキラと輝くヒモが空中を舞う。


 「日夏ちゃん誕生日おめでと〜う!」


 「おめでとう!」


 「あ、ありがとうございます!」


 日夏ちゃんは顔を赤くして、手で顔を隠すようにして髪を耳に掛ける。耳に乗る髪の色は黒。日夏ちゃんは金髪をやめて、髪も少し切った。初めて会った時から金髪ロングで、最初はしっくり来なかったが、違和感はすぐに立ち去った。


 「お酒飲むでしょ〜?コップに入れるねって、自分で開けてみる?」


 言いながら、優菜さんはプルタブに触れる手を止める。


 「じゃあ、開けてみたいです」


 プシュッと炭酸が解放される音がする。日夏ちゃんは空のカップに、半分も行かないくらいお酒を注ぐ。コップの中に入ったお酒に疑いの視線を向けながらも、口の中に流し込む。


 「苦い」


 日夏ちゃんは目を細めて、顔をくしゃくしゃにする。その表情から僕の口にも苦さが伝わって来る。


 「あはは!苦かったかー。じゃあジュース飲む?」


 日夏ちゃんは、優菜さんの提案にすぐに頷く。優菜さんは立ち上がって冷蔵庫に向かう。


 「じゃあ、残りは千明君に飲んでもらおうか。私は飲めないし」


 冷蔵庫からジュースを取って戻って来た優菜さんが言う。


 「ええ、僕も苦手なんですけど」


 缶を手に取って一気に流し込む。


 「ぷはぁ」


 「一気に飲んじゃうんだ」


 「まぁ、美味しくないんで。苦いって思う回数減らすためです。僕もジュースください!」


 舌に残る絶妙な苦みが嫌いだ。この苦味に美味さを見出せる日は訪れない。僕にも日夏ちゃんにもだ。


 「すご!苦くないんですか?」


 隣でジュースを飲む日夏ちゃんが尋ねてくる。


 「苦いよ。でもCMとかでよく言ってる喉越しってのは何となく分かる気がする。味は不味いけどね」


 「喉越しですかー。てか顔めっちゃ赤いですよ?」


 「本当だ!真っ赤じゃん」


 「そんなに赤いですか?お酒飲むと毎回そう言われるけど、自分じゃそんなに分からないんですよね」


 テーブルに並んだご馳走を食べ切ることが出来ず、残りは優菜さんの2日分の食料になった。その後、大きなイチゴが乗ったショートケーキが運ばれてくる。この為に残しておいた、お腹の空洞にケーキを流し入れる。


 「最後にゲームでもやる?」


 「いいですね!」


 立ち上がって、テレビ台の上にあるゲームの電源を入れる。


 「優菜さん!まずは雑魚同士でやりましょうよ!」


 「ほほう?この私を雑魚扱いとはね。千明君、雑魚は1人で十分なんだよ」


 お互いが日夏ちゃんに奪われ、不足した勝利の欲求を満たす相手になっていた。今までゲームに触れてきた時間差で、僕の勝率の方が高かった。僕と優菜さんは、テレビのすぐ近くに張り付く。日夏ちゃんはそれをソファで眺めている。高みの見物だ。


 「うそぉ!?」


 「よっしゃあ!」


 僕は鮮やかに敗北した。コントローラーをそっと床に置く。


 「え?上手くなり過ぎじゃないですか?インチキ?」


 「大人には夜の時間があるんだよ。君が寝ている間に私は練習している!残念でした〜」


 「チクショー」


 「日夏ちゃんやろうよ!今日こそ日夏ちゃんを倒す!」


 優菜さんは振り返って、ソファに座る日夏ちゃんを指名する。


 「良いですよ〜。受けて立ちます!」


 それから僕と優菜さんは、交代しながら日夏ちゃんに挑み続けた。


 「あっ!ああ、また負けたぁ」


 「ふふ。でも航大君、相当上手くなってますよ」


 「本当かなぁ?でも日夏ちゃん勝ててないよ?」


 「はい!私は別格なんで」


 「僕も優菜さんも、あんだけやって1回も勝てなかったからなぁ〜。間違いなく別格だ」


 日夏ちゃんと話していると、奥から鈍い足音が聞こえる。トイレに行っていた優菜さんが戻って来た。


 「2人ともー、そろそろ行きますか!」


 優菜さんはテーブルに置いてある車の鍵を手に取り、指にはめてクルクルと回しながら言う。

 部屋の時計を見ると、日夏ちゃんが20歳になってから、2時間30分も経過していた。もう一度あの場所に戻る時が来てしまった。

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