01 なろうで初めてもらった感想が荒らしだった
〝感想が書かれました
『小説家になろう』のユーザーホーム画面上部に、燦然とかがやく赤い文字列。
こんなにも心躍る9文字がこの世にあることを、俺はそれまで知らなかった。
──ずっとラノベ好きだった俺が、ふと自分でも書いてみたいと思い立ち、連載小説の1話目を投稿してから一カ月半。
いつも脳内で妄想ばかりしていたから、書きたいことはたくさんあった。
ほぼほぼ毎日、続きを書いては投稿して現在40話になる。
ブックマークは4件、評価は★★☆☆☆を一回もらったけど、喜んでいいのか落ち込むべきなのかいまだにわからない。総合評価12pt、それが拙作の現在位置。
そんな中で、はじめての「感想」だ。
俺は震える指で、その赤い文字をタップした。
▼気になる点
非モテが異世界に行ったらチーレム俺TUEEEとか作者の願望丸出しでキツい。あと文章が絶望的に下手。読んでるとゲー吐きそうになる。
投稿者:ricebird
…………。
ブラウザアプリをそっと閉じて流れるようにYouTubeを起動、検索欄に「シマエナガ」と打ち込む。
ずらりと並んだふわふわの白い雪の妖精たちのサムネからひとつを選び、その愛らしい姿をしばし堪能した。
…………ふう。
ようやくまともに呼吸ができた気がする。下手すりゃ死んでた。ありがとう雪の妖精さんたち。
そして俺は、直前に見た感想を記憶から抹消した。
だって今日も続きを書かなきゃいけないし。
そう、敵の幹部とのバトルが5話目に突入しているんだ。なんとかしないと。
設定を盛り過ぎて弱点がないから、どうやって倒せばいいか自分でもわからない。
もう、こうなったら主人公を新たな能力に覚醒させるしかない……!
……そんなこんなで第41話を書き上げたのは深夜2時。そのまま投稿して、ベッドに潜り込んだ。
──翌朝。起きてすぐ、なろうのユーザーホームを確認するのが日課だ。自作品のPVと、ブクマや評価やいいねが増えていないかを確認する。
……えっ……?
〝感想が書かれました
寝起きには眩しい赤文字が、並んでいる。
……まさか……いや、そうだ……今度こそ本当に感想が書き込まれたのかも知れない!
▼気になる点
ダラダラ続けたバトルに唐突なパワーアップで圧勝とか読者バカにしてる。これプロットあるの?っていうか伏線って知ってる?
あとやっぱり文章が壊滅的に下手。読んでると蕁麻疹でそう。
投稿者:ricebird
……だ……だいじょうぶ……今回は身構えていたから、受け身も取れた。
ちゃんと息ができてる。シマエナガさんの手をわずらわせるまでもない。
とはいえ唐突すぎるパワーアップだったことは確かだった。
そりゃあ、俺だってかっこよく伏線回収とかしたかった。でもそれは簡単にできることじゃないと、自分で書いてみて思い知っていた。
いちばん痛いところをえぐるようなコメントに、しっかりダメージは受けている。
というか、そんなに言うなら自分で書いてみろよ。落ち着いたら、今度はだんだんと腹が立ってきた。
もう、これは「荒らし」認定でいいよね。
どうしてやろう。サクっと削除してしまうのが一番簡単で、手早く気が楽になるかもしれない。
ただ、それだとまたしつこく書き込まれる可能性は残ってしまう。
ちなみに、こういった暴言や誹謗中傷を含むような感想は「小説家になろう」では【利用規約違反】に当たる。
なので、ページ中央の一番下にある「お問い合わせ」から「違反報告」を送り、運営に削除してもらうことができる。
この場合は削除跡に『利用規約に違反する内容を含むため、運営により削除されました』と赤文字が表示されて、投稿者名はそのまま残る。
多少の手間は掛かっても、ただ削除するよりも抑止効果があるし、白黒はっきりするからメンタル的にもすっきりしそう。
このへんは、お気に入り作品の感想欄が荒らされたときに得た知識だ。
実際にそれを活かせる機会が来るとは思ってもみなかったけど。
しかし、やっぱり言い返してやらないと気が済まなかった。
わかってる、冷静さを失えば荒らしの思うつぼ、喜ばせるだけだ。寝起きの脳みそに鞭を入れ、思考を走らせる。
>>感想返信
ご感想ありがとうございます。ご意見、参考にさせていただきます。
ちなみに文章が下手とのことですが、具体的にどこを直せば良くなりますか?
……よし、完璧な大人の対応。だいたい荒らしなんて連中は、具体的な指摘なんかできないはず。きっとこれで黙るだろう。
などと思考をめぐらせながら、ランキングを一通りチェックしてホーム画面に戻った俺を待っていたのは。
〝感想が書かれました
早くも見慣れてきた感のある、赤い9文字だった。
【ほそく】荒らしやネガコメはスルーがいちばん!
ですが悪質だったりしつこいものには作中にあるように「運営に通報」してみるのもひとつの選択肢です。