第八話
「……社会に向けて鬱屈した感情を持つ者達の負のエネルギーを糧にする人を惑わす外見と知性を獲得した蟲型の魔物、といったところか。本当の神霊に分類されるものだったら流石にどうにもならなかったかもしれないが、肉体が存在していて触れられるなら特に問題はないという事だな……」
御使いの亡骸を眺めながら、そのように淡々と考察を行う 猗音。
そんな猗音に対して、今度こそ自分達の理解が及ばない“怪物”に向ける目で禿光会が震えながら、やっとの思いで口を開く。
「な、なんなんだ貴様はぁ!?“天邪鬼”ならば伝承にある通り、言葉を使って対抗するのが道理じゃないのか!!……こ、こんなのは滅茶苦茶だ!それこそ、何もかもがあべこべではないか!?反則にも、ほどがあるだろぉ……!!」
――口先だけも何も、これまでの戦闘で自分の身体能力を見せてきたというのに、まだ天邪鬼という持論にこだわっているのか。
まるでそう言いたげな白けた視線を、猗音は禿光会の者達に向けるが、本人達はなおもそんな事に気づかない。
それどころか何かに気づいたかのようにハッ!と顔を上げると、脅威であるはずの猗音に目もくれずに、リーダーが仲間達へと語りかける。
「いや、まだだ!!――大鍋で煮込んでいる”ポル・ポトフ”さえ完成すれば、我々にもまだ勝機はある!そうすればきっと……」
話しながら下に視線を向けた禿光会の面々だったが、徐々に勢いが尻すぼみになっていく……。
――”ポル・ポトフ”完成のために用意された大鍋。
現在その周辺は、これまでとは違う異様な熱気に包まれていた。
「みんなー!今がチャンスだ!!――急いでここを出るぞ!!」
『応ッ!!』
鍋内で”ポル・ポトフ”の具材として煮込まれていたはずの企画参加者達が次々と脱出し始めていたのだ。
見れば、大鍋は側面に穴が空いた状態でひっくり返っているが、おそらくこれは御使いの猛攻によって上から落ちてきた瓦礫が直撃した結果と見て間違いないだろう。
鍋内をかき回すように配置されていたこの階の終焉迎合機兵団が、逃がすまいと彼らに襲い掛かる。
「ガピーッ!!」
「ゲシャーッ!!」
自分達を捕らえて鍋に放り込んだ強敵の群れ。
ましてや、現在企画参加者達は煮込まれた事により衰弱していてもおかしくないはずだが、このときばかりは違った。
「――オラァッ!!白衣ビキニのムチプリ♡美女を見た俺達の勢いはとまらねぇぞ!!」
「この夏を乗り切るビッグウェーブを体感せよ!」
「褐色ブルマアーマー完備の眼鏡JKも実装希望なんだな〜!!」
そのように口々に叫びながら、スケベな男性企画者達が怒涛の勢いで機兵達を蹂躙していく――!!
普段の生活では絶対に目にすることがない人外眼鏡美女のムチプリ♡白衣ビキニ姿は、男性企画参加者達の脳を焼き切るには十分過ぎる代物であり、最高潮に跳ね上がった彼らの士気は心身の不調を掻き消し、敵との能力差を覆すほどにまでなっていた。
だが、それでも数の差は如何とも崩しがたく、じりじりと押され始めていた――そのときだった。
「グゴゴゴゴ……!!」
地響きかと思うような音がしたかと思うと、ジャガイモ型をした殺生石が企画参加者と機兵の間に割って入るかのように転がってきた。
殺生石は身体からジャガイモ模様の岩石腕を生やすと、そのままの勢いで近づいていた機兵達を薙ぎ払い、遠くの個体には岩石の中心についている自身の目玉から殺人光線を放つ事で、それらを焼き払っていた。
『ガガ、ピ〜〜〜……ッ!!』
けたたましい機械音の断末魔を上げながら、爆散していく終焉迎合機兵団の群れ。
何が起きたのか分からずに呆気に取られる男性参加者達だったが、そんな彼等にソーセージ属性のドラゴンに騎乗した女性参加者が声をかける。
「どうやらこの魔物達も、私達同様に機兵団に無理やり”具材”として鍋の中に入れられてかなりムカついてたみたい!脱出ついでにコイツ等をスクラップにするのに協力してくれるってさ!」
「アラビキキッ!!」
濃厚な肉の味わいに満ちた雄叫びを発しながら、ソーセージ・ドラゴンが腸詰めじみた動きで敵を翻弄し、絞め上げていく――!!