第六話
危険極まりない〝闇”の探索のために 猗音が用意した秘密兵器。
それは、一本の巨大なウォーターガンと思しき装備だった。
白衣にも眼鏡同様に何らかの空間拡張的な仕掛けが施されていたのか、取り出したウォーターガン(?)を両手で抱える猗音。
だが、真正面にいた禿光会の面々は、突然出現した装備ではなく別の部分に視線が釘付けとなっていた。
「~~~ッ!き、貴様……白衣の中に、ビキニを着込んでいたのか!!」
『――ッ!?』
男の発言を受けて、この場にいる猗音を除いた全ての者に衝撃が走る――!!
白衣の中からチラリと見えるのは、これまでの外観からは想像も出来なかったムチプリ♡な身体つきと、それを包み込む煽情的なクリムゾンカラーのビキニ……。
それを鍋の中という物凄い下のアングルから見た男性の企画参加者達から、歓声が上がり始める――!!
「ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!死中に活あり、地獄の湯で窯の真上にドルウェブ祭りじゃ~~~い!!」
「白衣を纏ってのビキニコスというマニアック衣装を着てくれるリアル女子の到来、ヤッター!!」
「……いや、でも『眼鏡ラブ企画』の参加者としては、人間じゃないとか関係なしに裸眼の女性に興奮するのは如何なものかと……」
「……(白衣から取り出した別の眼鏡をかけてクイッ)」
『ヨッシャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!』
大窯をひっくり返す勢いでテンションが跳ね上がった企画参加者の男性達が、盛大に雄たけびを上げる――!!
そんな眼下の様子を眺めながら、
「まぁ、全く機能どころか度すら入ってない文字通りの伊達眼鏡なんだがね」
とクスリ、と笑いながら呟く。
現に猗音の瞳は、ここに現れた時とは違って異形のままである。
これまで散々人間扱いをしてこなかったにも関わらず、猗音の白衣ビキニ姿に鼻の下を伸ばしていた三人だったが、すぐさま本分を思い出したかのように叫ぶ。
「えぇい!下の階の終焉迎合機兵団ども!大鍋の連中を黙らせるためにしばらく中をかき混ぜてやれ!!この場にいる者達は、さっさとその痴女もどきを一網打尽殲滅陣するのだ!!」
『グガ、ギ……!!』
機械としての了解音なのか魔物としての鳴き声なのかは不明だが、終焉迎合機兵団はリーダーの命令に答えるかのようにいっせいに猗音へと飛び掛かっていく――!!
「――だめぇッ!!逃げて、猗音さんッ!!」
特製おたまでかき混ぜられそうになる中、大鍋の中から女性陣の悲痛な声が猗音へと向けられる。
このままいけば、数の力に押されてなんの抵抗も出来ぬまま猗音は押し倒され、凄惨なまでに甚振られてから惨たらしく命を奪われる結果になるのは、火を見るよりも明らかだった。
例え中身が人ならざる者であろうと、絶望的なまでの人海戦術による四方からの襲撃だったが……対する猗音は動じることなく冷静に、再度白衣の中へと手を突っ込む。
「……この手の暗黒瘴気に有効な属性となると……やはり、これが一番だな」
そう言いながら白衣から取り出したのは、大きめのフラスコだった。
内部には赤色に発光する液体が入っており、それは不思議と見る者に人妻の心の奥底で燻る情欲の炎を連想させるかのような妖しさを含んでいた。
猗音はそれを瞬時にウォーターガンへ装填すると、すぐさま自分へと向かってくる機兵達へと撃ち放つ――!!
「ガガ、ピ……ッ!?」
「グギャ……ッ!!」
ウォーターガンから発射された液体を食らった機兵は、異常を知らせる音を発したかと思うと、即座にボン!という爆発音とともに機体から煙を出して停止していく。
その光景を見ながら、禿光会が驚愕の声を上げる。
「ば、馬鹿な!?暗黒瘴気を動力源に動く我が〝終焉迎合機兵団”がこうも容易く再起不能にさせられるだと!?」
そんなメンバーの発言に、なんてことはないと言わんばかりに猗音が機兵達をいなしながら答える。
「私が用意したフラスコの中の液体には、この創作界隈において非常に有効であるスケベ属性に満ちた“昼下がりの団地妻”の理を溶け込ませてある。――これにより、この機兵達に例えどれほど強力な暗黒瘴気が用いられていたとしても、旦那が帰宅する前にお隣の男子大学生との情事の痕跡をきれいさっぱり消し去る団地妻の如く、浄化することが可能という訳なのさ」
「こ、理を形あるものとして技術に転用した、というのか!?」
「馬鹿な……ならばこの女は、俺のSF理論すら超えた科学の見識と叡智の持ち主という事になる……!!」
「エッチなのは身体だけにしとけよ、このクソアマ~~~!!お前が人間なのか化け物なのか僕ちんの頭ではよくわからなくなってきたが、とにかく馬鹿共は大人しく黙って言うこと聞いてりゃいいんだプギャ~~~!!」
そのように禿光会の面々が喚いている間にも、ウォーターガンを構えた猗音が正確無比かつ無駄のない最小限の動きで終焉迎合機兵団を一掃していく――!!