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第五話

 猗音(あのん)の発言を受けて、目に見えて気圧される禿光会(とくみつかい)の三人組。


 そんな中、冷汗をかきながらもリーダーは猗音に対する分析を行っていた。


瓜子(うりこ)という苗字と奴自身の発言からして、あの女としての外皮はおそらく“瓜子姫(うりこひめ)”のものとみて間違いないだろう)


 “瓜子姫(うりこひめ)”。


 それは、子供のない老夫婦が拾った大きな瓜から生まれた赤子が瓜子姫と名付けられ、機織りの美しい少女へと成長するという物語である。


  地域によっては、悪しき企みを暴いて幸せを掴むものや、殺された際に生皮を剥がれてその皮を被った悪者が瓜子姫に成りすます……など異なる結末を辿るのが特徴的である。


 そして、どのような伝承であっても瓜子姫を騙し、生皮を剥いだとされる悪者。


 それこそが――


「口先で瓜子姫を騙し、その生皮を被って成り代わろうとした妖怪:〝天邪鬼(あまのじゃく)”ッ!!――それが、この化け物の正体だァァァッ!!」


 瞬時に顔を上げたかと思うと、そのように勝利を確信した満面の笑みで人差し指を猗音に向けて突き付けるリーダー。


 周囲があっけにとられる中、なおも彼は話を続ける。


「〝天邪鬼(あまのじゃく)”は口にすることがあべこべかつ、瓜子姫の伝承においても女子供を騙くらかすことくらいしか能がない口先だけの化け物だ!!……つまり、コイツが今まで散々ほざいてきた大いなる〝闇”を直視しただの、もっともらしい綺麗ごともどきも全て!――単なるでまかせに過ぎんということだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


 そう言って、ギャハハッ!と品のない哄笑を上げるリーダーと、それにつられる仲間達。


 対する猗音は――。



「…………………………」



 正体を看過された者とは到底思えない平坦な表情を張り付けながら、冷めきった視線で三人の様子を眺めていた。


 そんな猗音の態度を見て、鍋の者達は「これまでの猗音の言動からしても、やっぱ違うんだろうな」と確信を深めていたのだが、禿光会(とくみつかい)の三人はそんな周囲の温度差に気づくことなく、勝ち誇ったままニンマリとした笑みのまま告げる。


「そうと分かれば話は早い!!でもって、貴様は今さら後悔してももう遅い!――〝ポル・ポトフ”にこれ以上の具材は不要ゆえ、貴様はコイツ等(・・・・)によってズタズタに嬲り殺してくれるわぁッ!!」


 リーダーがパチン!と指を鳴らすと、どこからともなくワラワラと大量に出現したナニカ(・・・)が、猗音を取り囲んでいた。


 それらは、両手に様々な武器を持った機械製のゴブリンのような外見をしていた。


 小ぶりな体格とは裏腹に、全身から禍々しき瘴気を放つ者達。


 それらを従えながら、禿光会(とくみつかい)のリーダーが高らかに楽し気に告げる。


「これこそが!我等三人によるSF技術と両親から回収した資金、創作界隈各地でかき集めてきた暗黒瘴気による集大成、終焉迎合(サブリミナル・)機兵団(ソルジャー)であるッ!!」


 恐怖よりも先に


「え……?自分で働いた稼ぎじゃなくて、年老いた親御さんから金を巻き上げてんの?」


「……サイテー」


 といった声が、鍋の中から起こり始める。


 だが、そんな彼らに対して「うるさい!!」と怒鳴りつけてから、リーダーが機兵達に指示を飛ばす――!!


「口車にさえ乗らなければ、そいつは何も出来ないただのカスに過ぎん!もっとも、戦う手段があったところで、この数にはかなうまいがな!!――機兵どもよ、こいつは最後にきっちりとどめを刺すなら、煮るなり焼くなりお楽しみ(・・・・)に使うなり、好きにして構わんぞ?」


 リーダーの発言を受けて、機械の身体にも関わらずゲヒャヒャ、と醜悪な笑みを漏らす機兵達。


 その光景を見上げながら、煮込まれている参加者の一人が慌てて叫ぶ。


「そのハゲたオッサンどもは大したことないけど、私達もその機械の魔物達に捕まえられていきなりこの大鍋に放り込まれたの!!その数相手に一人はいくらなんでも無謀よ!――猗音(あのん)さん、逃げてぇッ!!」


 同じような声が彼女の周囲から投げかけられるが、これだけ囲まれてしまってはもう逃げ場はないだろう。


 絶体絶命かと思われた――まさにそのときだった。


「――君達が私の事をどう思っていようが、それは別に好きにしたら良いとは思うが……ただ、どんなに目を背け薄っぺらな言葉で飾り立てたところで、『物事の本質と起きた現実は決して変わらない』という事を君達もいい加減自覚すべきだ」


 ピクリ、とリーダーが眉を動かしながら、なおも余裕を崩さない猗音(あのん)に向けて、鋭い視線を向ける。


「……今さら、意味深なことを呟いたところで、それこそ貴様が辿る末路は変わらんぞ?」


 そんなリーダーの恫喝など意に介した様子もなく、猗音は自身の発言を続ける。


「私はこの創作界隈の奥底に眠る〝闇”とやらを研究するためにこの街に来たんだ。……もっとも、存在を歪まされずに済んだとはいえ、そこから逃げ帰るのが精いっぱいで大した研究成果を得られたわけではないがね。――だから、私にとっては君達の計画を止めるのが本来の目的だったわけじゃない。帰り道にたまたま(・・・・)私にとって容認できない企てを進めている君達を見つけたから、ここに立ち寄っただけの事なんだ」


「……何が言いたい?」


 しびれを切らして怒りの表情を浮かべるリーダーに対して、猗音は「簡単なことさ」と告げる。


「――なんの準備もなしで、大いなる〝闇”のもとに向かうような馬鹿はいない、というだけの話さ」


 そう言うや否や、瞬時に猗音が白衣の中からあるモノを取り出す――!!

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