海外の通販みたいなRPG
「……きな…………さま…………」
「ん……」
「早く起きなさい、寝ぼすけ勇者さま!」
「んぁ……? 僕、こんなかわいい音のアラームセットしたっけ……?」
「あら、褒めても何も出ないわよ! それより、ようやくお目覚めかしら?」
「……いや、どうやらまだ夢の中みたいだ。僕にはキミみたいな美人の知り合いはいないからね」
「当然よ! だってアタシは女神なんだもの!」
「女神? 冗談キツいな。エイプリルフールまで待ち切れなかったのかい?」
「ふふっ、それじゃついでにもう一つ、ウソみたいな真実を教えてあげるわ。あなたはピッツァ屋のバイクに轢かれて死んでしまったのよ!」
「おっとっと、それは大変だ。ピッツァはアツアツが一番だってのに、僕のせいで配達が遅れてしまうじゃないか」
「それなら心配ご無用よ! だってそのバイクは……ピッツァを全て配達し終わって、お店に帰る途中だったんだもの」
「なーるほど、そいつはケッサクだ!」
アーッハッハッハッハッハッハッ!!
「それで女神様? 僕はこれからどうなるってんだい?」
「焦らない焦らない! あなたに朗報があるの! アタシがあなたのこと、生き返らせてあげるわ!」
「……悪いけど、僕はゾンビ映画は観たことがないんだ。ちゃんと演じられるか不安だよ」
「それなら安心! だってゾンビじゃなくて人間として生き返れるもの! 皮膚は腐らずツルッツル! 不快な体臭も一切なし!」
「なんだって!? まだ夢を見てる気分だよ!」
「しかも今回はただの人間じゃなく、世界を救う勇者として、第二の人生をスタートできるのよ!」
ワ~~~~~オ!!
「アンビリーバボー! だからさっき僕のことを『勇者さま』と言ったのか!」
「そういうこと! アタシが優しい女神じゃなきゃ『ゾンビさま』になるところだったんだから、感謝してよね!」
アーッハッハッハッハッハッハッ!!
「でも困ったなぁ……救世主になんてなったら、世界中のかわいこちゃんが集まってきちゃうじゃないか! ケータイのアドレス帳が破裂してしまうよ!」
「あらあら、とってもだらしない顔になってるわよ勇者さま? もしケータイが破裂したら、その伸び切った鼻の下にアドレスをメモしたらいいんじゃないかしら?」
「オーウ! ナイスアイディア!!」
アーッハッハッハッハッハッハッ!!
「それじゃあ、異世界片道旅行への準備はオッケー? 到着したら、まずはお城に行って勇者の剣をもらいなさい! 王様の話はちゃんと聞くのよ! 勇者の剣の扱いには注意すること! そして戦闘になったら……」
「ストップストップ! 一度に説明されても聞き取れないよ! 最近ずっと耳掃除をサボッていたんだ!」
「んもう、仕方ないわね! アタシも一緒についていってあげるわよ! 女神の格好だと目立つから、手のひらサイズの妖精ちゃんに変身してね!」
「ん? いま変身って聞こえたけれど、聞き間違いかい? やっぱり耳掃除はこまめにしないとダメだな」
「うふふっ…………へ~んし~ん!」
「……おやおや? さっきまで僕の目の前に絶世の美女がいたはずだけど……どうやら目の掃除も必要みたいだ」
「それならアタシがしてあげましょうか? ほら……ちょうど掃除にピッタリのミニサイズになったことだし!」
ワ~~~~~オ!!
「オーマイガー!! 変身できるっていうのは本当だったのか!」
「米粒サイズからビルみたいな大きさまで自由自在! これが女神の力よ! すごいでしょ!」
「ハハハッ、こいつはワンダフル…………っておいおい、あまり周りをブンブン飛び回らないでくれ! キミを潰すのが怖くて拍手ができないじゃないか!」
アーッハッハッハッハッハッハッ!!
「これからはアタシがあなたのパートナーよ! か弱いレディをしっかり守ってよね、勇者さま?」
「ああ、命がけで守らせてもらうよ。かわいいかわいい女神さま」
フゥ~~~~~~!!
ヒューヒュー!!
「それじゃあ、異世界にしゅっぱーつ!」
**********
「やあ勇者! 今日はキミに紹介したい武器があるんだ!」
「おいおいどうしたんだよキング? やけに機嫌が良いじゃないか」
「当然さ! キミが魔王を倒して世界を平和にしてくれるんだろう?」
「やれやれ、簡単に言ってくれるね。でもそんなこと可能なのかい? 僕は人に暴力なんて振るったことないよ? カミさんにはよく殴られてるけどさ」
アーッハッハッハッハッハッハッ!!
「カミさん!? ちょっと勇者さま! アタシ、あなたに既にパートナーがいたなんて聞いてないわよ!?」
「おっと、こいつは失敬! でも……嫉妬した顔も最高にチャーミングだよ、女神さま」
フゥ~~~~~~!!
ヒューヒュー!!
「ケンカなんてしたことがない。だけど魔王を倒して世界を救わなきゃいけない。誰でもそんな経験、あるよねえ?」
イェアッ!!
「そんな時にはこれ! その名も……勇者の剣! こいつがあれば一発解決さ!」
「待ってくれよキング、人を殴ったこともない僕に、いきなり剣を振れって言うのかい? 僕は包丁だって満足に使えないんだ。トマトはいつもグチャグチャだよ」
「それなら大丈夫! たとえば……ほら、あそこにスライムがいるだろ?」
「ちょ、ちょっとキング! どうして玉座の間にスライムがいるのよ~!?」
「まあまあ、気にしない気にしない! このネバネバスライムだって、勇者の剣があれば…………そぅら、一刀両断! 切れ味バツグンだから、粘液だって付着しないんだ!」
ワ~~~~~オ!!
「本当だわ! キングのヨボヨボシワシワの手でも簡単に斬れちゃった!」
「振り下ろす時に力は全くいらないんだ! 刃が入りさえすれば、あとはストンと落としてやるだけ! これならスライムも魔王もトマトも、もう怖くない!」
「すごいよキング! これなら僕にも使えそうだ!」
「アタシにも!」
「おっと、キミは無理だよ! こんな大きいもの持ったら潰れちゃうからね! キュートな妖精ちゃんにはほら! このエンピツがお似合いだ!」
「ちぇ~、ズルいわ男の子ばっかり!」
アーッハッハッハッハッハッハッ!!
「でもキング、僕は生き返ったばかりでサイフがスッカラカンなんだ。こんな高性能の武器、とてもじゃないけど買えないよ」
「分かってるさ! だから今回は特別に、タダでお渡しするよ!」
ワ~~~~~オ!!
「おいおいキング、冗談よしてくれ! いくら僕とキミとの仲とはいえ、さすがにそれは受け取れないよ!」
「それなら魔王を倒したあと、その勇者の剣で料理でも振る舞ってくれ。そうだな……トマトがたっぷりと入ったおいしいピッツァ、とかね」
「…………ハハハッ、キングには敵わないな。僕たちの友情に、乾杯」
「……ほんっと、男の子ってズルいなあ」
フゥ~~~~~~!!
ヒューヒュー!!
「そしてもうひとつ、このキング様から大大大サービスだ! 特別にキミのレベルをマックスの99にして、魔王の城まで一気にワープさせてあげよう!」
「な、なんだって!? そんなこと可能なのかい!?」
「もちろん朝飯前だよ! そもそも一刻も早く魔王を倒さなきゃいけないのに、色々な場所に行って仲間を増やしたりレベルを上げたり……時間が勿体ないよ! なんたって世界の危機なんだからね!」
「こらキング、それを言ったら元も子もないだろ!?」
「おいおい、そんなに怒らないでくれよ! キングだけにショッキングだ!!」
………………………………。
「……そ、それじゃあ、あの魔法陣から魔王の城にワープできるよう設定するよ! 二人とも準備はいいかい?」
「ああ、いつでもどうぞ」
「アタシもオッケーよ!」
「では転送開始だ! グッドラック!」
**********
「グワハハハハ!! オレ様の城へよく来たな勇者ども! 歓迎してやろう!」
「お前が魔王か……一体どうやって歓迎してくれるって言うんだい?」
「グフフフフ…………貴様らにはオレ様特製のアップルパイとピーチティーを振る舞ってやろう!」
アーッハッハッハッハッハッハッ!!
「なんだこれ、こんな美味しいの食べたことないよ!! まさか僕のカミさんより魔王の方がお菓子作りが上手いだなんて、こいつはケッサクだ!」
「いや~ん! ダイエット中なのに手が止まらないわ~!」
「そんなに褒められると照れてしまうな! 糖分は控え目にしてあるから遠慮なく食すがよい! おまけに合成着色料も一切使っておらぬぞ!」
ワ~~~~~オ!!
「このピーチティーもアップルパイにベストマッチだね! 転生で疲れた体を癒してくれるよ!」
「そうだろうそうだろう! おかわりも用意しておるぞ! やはり紅茶と洋菓子の組み合わせこそ至高であるな!」
イェアッ!!
「ふぁ~あ…………あれ、おかしいな? たくさん寝たはずなのに、なんだか眠気が……」
「アタシもよ勇者さま……夜はまだまだこれからだっていうのに……」
「グフフフフ…………グワッハッハッハッハッハ!! 当然だ! そのピーチティーには眠り薬をたっぷりと入れておるからな!」
オーーーウ…………
「なんてこった……罠だったのか……! くそっ、アップルパイとの相性が良すぎたのが運の尽きってワケか……!!」
オーーーウ…………
「グワハハハハ!! だから言ったであろう!『紅茶と洋菓子の組み合わせこそ至高』だとな!」
オーーーウ…………
「さて、まずは貴様の仲間の妖精から食ろうてやるわ!」
オーーーウ…………
「キャアアアアアアアアアア!!」
オーーーウ…………
「女神さま!! なんてこった、女神さまが魔王に丸呑みされてしまった!」
オーーーウ…………
「ここまでだ勇者よ! その眠気では剣も振るえまい! 貴様はここでゲームオーバーだ!」
イェアッ!!
「ジーザス……もうここまでなのか……」
「ちょっと待ちなさーーーーーい!!」
「なんだ!? 魔王の腹から女神さまの声が聞こえるぞ!」
「ふふん、女神はしぶといのよ! これでも食らいなさーい!」
「グオオオオオオオ!! 腹が!! 腹が痛いぞおおおおおおお!!」
「まさか女神さま……キングからもらったエンピツで、魔王の体内から攻撃を与えているってのか!?」
ワ~~~~~オ!!
「グボエエエエエエエ!!」
「あっ、魔王が女神さまを吐き出したぞ!!」
「ふぅ、まったく! 服がベトベトになっちゃったわ! 今度のダンスパーティーに着ていこうかと思ったのに!」
アーッハッハッハッハッハッハッ!!
「ぐぬぬ、この小娘がぁ……! こうなったら二人まとめて葬り去ってくれるわ!」
オーーーウ…………
「くっ、まずはこの眠気をどうにかしないと……」
「そんなあなたに! この『グレートパワードリンク』を紹介するわ! どんな疲れも眠気も、これ一本で吹っ飛んじゃうわよ!」
ワ~~~~~オ!!
「なにぃ!? オレ様も愛用してるぞ! 長時間の魔王業には欠かせない一品だな!」
「ゴッキュゴッキュ……プハー!! 本当だ! 眠気がウソみたいに無くなったよ! このままいつまででも起きていられそうだ!」
「さあ今よ勇者さま! その剣で魔王を!」
「よしっ、これで終わりだあああああ!!」
「グワアアアアアアア!! 何だこのバツグンの切れ味はあああああああああああ!!!」
ワ~~~~~オ!!
**********
「やあ勇者! 無事で何よりだよ!」
「ただいまキング。まったく……一時はどうなることかと思ったよ。でも、これで世界に平和が戻ったんだね」
「長いようで短かったわね……あなたとの冒険、楽しかったわよ!」
「こっちのセリフさ。やっぱりキミは最高のパートナーだよ」
フゥ~~~~~~!!
ヒューヒュー!!
「さーて、それじゃあ魔王も倒したことだし、ゆっくり昼寝を……」
「おいおい勇者、そりゃないだろう? 約束したじゃないか! 魔王を倒したら、おいしいピッツァを振る舞ってくれるってさ!」
「やったぁ! アタシも食べたい食べた~い!」
「よし、せっかくだから国民全員を集めてピッツァパーティーでも行うとしよう! もちろん、勇者が全て作ってくれるんだろう?」
「おいおいキング、冗談だろ!? 僕は疲れてヘトヘトなんだ!」
「うふふ、ウソはダメよ。だって勇者さま、さっき飲んでたじゃない……眠気も疲れも吹っ飛ばす『グレートパワードリンク』をね!」
「しまった! 効き目バッチリだぁ~!」
「安心しろ、少しくらいなら手伝ってやるから! キングだけに、クッキングは得意なんだ!」
………………………………。
「……そ、それじゃあ早速、ありったけの材料を用意するよ! ハムにベーコン、チーズにオニオン……そして、勇者の青ざめた顔とは正反対の、真っ赤に熟したトマトもね!」
「うふふっ、材料もドリンクもたくさんあるから、頑張ってアタシ達においしいピッツァを作ってね、勇者さま!」
「ジーザス! 勘弁してくれ~!!」
アーッハッハッハッハッハッハッ!!
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イェアッ!!
Fin.