表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アールグレイの日常  作者: さくら
東方見聞録
96/615

火猿(後編)

 新鮮な空気を貪る。

 静寂に自分の荒い呼吸音だけが聞こえる。

 疲労感が半端無い。

 まるでフルマラソンを完走した後のようだ。


 ははは、朗報です。火猿さんも、一緒だ。

 …僅かに両膝が震えています。


 御老人には、さぞ応えることでしょう。

 何しろ、魔法を撃ち出すと同時に突撃し、一瞬の攻防から離れるまで、体感で2秒に満たない。

 驚異の無酸素運動である。

 ううっ、身体中が痛いよ。


 火猿さんを観る。


 掌の紅気が消えている。

 爆裂掌は、大量の気を消耗する。使用しなくても準備してるだけでも、それは同じ。


 火猿さん、フルマラソンの後で、大量の気を使うことは可能ですか?…ふふふ。


 昔、前世で見た功夫映画を思い出す。

 弱かった青年が修行を経て、強敵を倒す映画だ。

 木人と闘ったり、蛇や猫の動きを真似したり、酔った動きを取り入れた拳法だった気がする。


 たしか…こんな感じかな。


 酔ったような、足取りで近づく。


 今までのセオリーが通じないならば、新しく創るまで。

 試行錯誤だ。


 火猿さんが構える。

 「なんじゃ、その奇妙な動きは……むっ、練磨性を感じん。こけおどしとみたぞ。」


 頭の中で、音楽が鳴っている。

 修行だ。これは修行なんだ。

 イメージをなぞる。動きを思い出す。


 蛇の動きで、手を突き出す。手首を回す。

 弾く、突く、滑らせる。

 [千日手]の修行で、足腰は鍛えてあるから、無理な態勢からでも、手拳を打つ事ができる。

 むむ、これは案外相性が良いかもしれない。

 おそらくは火猿さんが体験していない動き、初見では見切れないでしょう…ねえ、火猿さん。


 1秒間に何十種の攻防を、お互いにクルクルと何十周と回りながら繰り返す。

 全力を出し切る。

 最後の置き土産に、低空の無理な態勢を土台に、足元から奴の喉元まで手首を登らし、手首を翻して手刀を火猿の喉元を突いて、離れる。


 

 手応え…無し。突いた喉が、まるで石のように硬かった。

 喉って、鍛えられるの?!

 これでは火猿ではなく石猿だよ。


 ダメージは与えられなかったが、一撃喰らわせたことは、火猿さんのプライドを傷つけたらしい。

 全身から紅の気がオーラ状に噴き出している。


 来る!


 来るとは、分かったけど、最早満身創痍状態。

 一歩も動けない。

 立ってるだけで精一杯だ。

 エナミーゼロだ。身体の何処らかもエネルギーは無い。

 枯渇した、使い果たした。全力を出し切った。

 何も残ってない。

 

 来た。


 爺とは思えないスピードで突っ込み、両手突きを繰り出す。どちらかを避けても、残った一方が僕を突き殺す。


 逆情しても隙がない。…僕、詰んだ?!

 上がらない両手をブラリとさせながら、僕は、それでも来る火猿さんを睨む。


 意識が朦朧となりながら、火猿さんの顔がニヤリと笑った気がした。



 ところが、僕と火猿さんの間に割り込んだ者がいた。

 「させません。守ります。私が…。」


 ファーちゃん!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ