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アールグレイの日常  作者: さくら
東方見聞録
88/615

風の前の塵に同じ

 ヘイロンの社長とアポが取れました。


 出勤して開口一番ファーちゃんが報告してきた。

 昨日、僕が帰ってから、連絡してくれたらしい。

 今日から専用の部屋を用意出来ましたということで、10人位座っても余裕ある部屋に案内された。

 席に座りファーちゃんが入れてくれたお茶を飲む。


 あー、やっぱり居場所があるっていいよね。

 たとえ使わなくても拠点が有るのと無いのでは、全然違う。


 これからの進行具合を思う。

 ドアーズ側は、協力を取り付けたので、あとはヘイロンさえ説得できれば万事OKだ。

 昨日のファニングスさんの要領を得ない説明によれば、縄張りを荒らされたはらいせにヘイロンが嫌がらせをして来た事に端を発している。

 あくまでも縄張り重視のヘイロンからしてみれば、横紙破りにドアーズが攻めて来たように思ってるのだろう。

 ヘイロンは土地を重視して勝ち取った縄張りは意地汚いほど渡さない。約束無視、常識無視、火事場泥棒当たり前、勝ち取ればそれでよかろうなのだ。そして絶対返さない。

 理念からして違う。お互いの認識が違うのだから、同じ言葉を話しても通じるはずがない。

 ヘイロンの理解を得るには、コチラもヘイロン語を話さないといけないだろう。

 相互理解が必要だ。


 ホンチャさんが来た。

 名乗ったけど、偽名である。本名不明。

 役職は営業本部長。外部交渉役で社長の代理らしい。

 30歳位、黒髪長さ普通、細身だけど黒スーツの下は引き締まった肉体であろう。紺のネクタイ、薄黒のサングラス。


 ホンチャさんは、まず自分らの過失は最初に述べた後、ドアーズのミスを指摘し、結論としてドアーズが悪い。という論理構成を述べた。

 一見すると正しい印象を与えるが、これは自分らが100%どんなに悪くても、結論は変わらない論法だ。

 だから聞いてても意味は無い。真に受けてはいけません。


 暇なので「それってあなたの感想ですよね。」と心の中でツッコミなどを入れてみる

 まあ、議論は、まるで無意味なので言わない。

 これは論破しても、僕の目的には達成しないからだ。


 ホンチャさんの長口上を無理矢理、言葉に翻訳すると、

 (俺たちのせいにしたら、おまえら、分かってんだろうな。)

が、割と近いニュアンスだと思う。


 ですので、こう返す。

 「先日、ラン・キームン殿下に拝謁賜りました。貴社とドアーズグループの関係について、殿下からも頼まれまして、貴社の社長様にも連絡がいっているかと思いますが。」

 (おまえらの頭には話しは通してあるのに、そんな事すら知らんのか、下っ端じゃ話しにならん。出直して来い。)


 ホンチャさんの動きが止まる。

 右手の指先で、サングラスをいじりながら、睥睨するように、僕に視線を向ける。

 「おう、その話は本当か?嘘だったら、どうなってるのか分かって言ってるのか、お嬢ちゃん。」

 「うん、うん、ホントホント。確認して来ていーよ。」

 ニッコリ笑って、廊下を指差してやる。


 

 ホンチャさんは、廊下で、端末を使い、しばらく話しをしてきてから戻ってきた。

 「ちぇ、なんだい、あんたキームン様の知り合いかい。まったく最初に言えよ。」


 僕はニコニコしながら答えた。

 「殿下からは、善きに計らってくれと言われてます。」


 「おお、そうかい、そうかい、そんじゃ一つ頼むぜ、お嬢ちゃん達。ヘッ。」

 ホンチャさんは、スッカリ相好を崩して、唾を床に吐き、椅子に座ると、脚を組んだ。


 一瞬、ファーちゃんが悲しそうな顔をしたのを僕は見た。

 この部屋は、ファーちゃんが用意してくれた。

 きっと、朝早くから来て一所懸命掃除してくれたのだろう…。


 僕は、少しだけ目を伏せて…そしてホンチャさんに向き直る。

 「…ですから、殿下の顔を立てる為に、どうしようかと先程までは頭を悩ましておりました。」

 僕は、椅子から立ち上がる。

 「でも、あなたのお陰で、方針が今、決まりました。ヘイロンは今日潰れます。ヘイロン5000年の歴史が今日で潰えるなんて残念でなりません。」

 溜め息を吐き、右手を頬に当てる。

 一人の礼儀知らずのせいで、歴史ある組織が無くなるとは、悲しいことだ。

 もっとも、時代について行けない、自己改革も出来ない原始人の集まりでは、現代に居場所はない。

 滅びるのが運命だったのだろう。


 


 泣き喚くホンチャさんを引きずって、本社まで案内させる。

 たまに治癒を掛けてあげる。


 僕は、スキヤキソングを歌いながら、ヘイロン本社まで歩いて行った。

 今日は、空が青い、快晴だが、まだ風は冷たい。


 街の人が、僕に引きずられていくホンチャさんを見ているが、誰も僕を止めようとしない。


 ねぇ、誰も、あなたを助けようとしないよ。

 ああ、なんて可哀想なんだ。



 社長は、本社ビルの一番高い部屋に居た。

 「今日でヘイロンは終わりです。長い間お疲れ様でした。コレを連れて避難して下さい。二度と僕の前に現れることのないように管理して下さい。礼儀知らずは嫌いです。」などと、僕は社長に対し、懇切丁寧に、ヘイロンが今日で終わりだということを、根気良く説明した。


 …



 紆余曲折を経て、社長は、最後には分かってくれた。

 社内放送で、社長がヘイロン解散を表明し、社屋から皆が避難して行く。


 僕は、誰も居なくなったビルを[共振]で崩壊させた。


 スッカリ崩れ落ちて瓦礫と化したビルを、遠巻きに見ていた社長、ホンチャさん達が悲しそうに呆然と佇んでいた。


 だが悲しむ事はない。

 永遠に続くものなど無いのだから。


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