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アールグレイの日常  作者: さくら
東方見聞録
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木蘭公主(後編)

 キームンに相応しい最高級の部屋。

 無論、置いてある調度品も最高級だ。

 食事も最高級のフルコース、給仕も選抜して見た目も所作も経験も超一流の者を揃えた。

 酒にあっては、キームン家秘蔵の一品、この一本だけで城が建つほどの国宝級の代物だ。値段などつけられない。

 もし落として割れてしまったら給仕の首一つだけでは収まらない。

 酒瓶を運んでいたソムリエに私自ら説明し注意してやる。

 ふふん、部下にも優しい私。


 湯浴みをし、身なりを整える。

 最高級の私を演出する。

 楽しみだ。強き者と相まみえるのは。


 だから[暴風]よ。私を落胆させるなよ。

 もし、つまらぬ紛い物であった時は、ダージリンの小娘ともども死んで詫びるが良いぞ。


 まあ、もしもの時の為に、我が家の[執行人]と始末屋も用意しときましょう。

 私が落胆した時は、責任を取って、せめて派手に行ってもらわないとな。



 [暴風]を待つ間、昨今のトビラ都市の情勢に思いを馳せる。



 ……最近はつまらぬ者共が増えた。


 実力主義と言われるトビラ都市も、弱腰の都市王をトップに冠したことで、緩んでタガが外れたか。

 人の欲望に、正義だ悪だと色分けするヤカラだ。


 はっ、人の欲に善も悪もあるか。


 自分の欲望に正義色を塗りたくり、他者に押し付けるなど驕りも甚だしい。謙虚な私を見習え。


 正義だ、差別だ、平等だ、と念仏のように唱えおって、小五月蝿いわ。


 自己の欲望を叶えたいならば、自己の実力を持って貫け。

 他者に頼るな、押し付けるな、鬱陶しい。


 むろん私も、多くの者を導き、指揮し、命令する立場だから社会に一定のルールが必要なことは分かる。


 だか奴らのやっていることは、ルールや道徳さえも自己の欲しいままに改竄し、そのルール紛いのものを他者に強制してるに他ならない。


 その、やり方は卑怯、卑劣で姑息な上に危険だ。

 何故なら、武力ならば危険だと誰もが分かるが、見えない網と言える一定な人に都合の良いルール紛いや常に正義の側に立つよう変造された概念は誰にも危険だと分からないから。

 それを意図して使っている卑劣漢を危険だとは誰も思わないし、逆に正義の人だと応援するだろう。

 そして、そいつらに対峙して武力を使う者を皆は非難するだろう。

 また、意図せず使ってる阿呆を間接的に使っている卑劣漢もいる。

 私達は、彼ら卑劣漢を[蜘蛛]と呼んでいる。

 人類共通の敵だ。

 寄生虫と言っても過言でもない。

 この虫は、その特徴から自由主義社会に蔓延りやすい。

 また、虫に感化される阿呆もおる。


 一度[蜘蛛]に文明を滅ぼされたとゆうのに。

 だからこそトビラ都市は、防止の為に実力主義を取っているとゆうのに。


 私がつまらぬ者というのは、この感化された阿呆のことだ。

 少し教育を受けた小賢しい者に多い。

 羽虫のような輩で、毒にも薬にもならぬ、人類の行く末を何も考えていない人の偽物だ。紛い物と言っていい。


 私は本物と会いたい。

 渇望している。

 もしかしたら、私は、私と対等な存在に会いたいだけなのかもしれない。





 [暴風]と会った。

 …何だ…こいつは。


 「やあ、お初にお目に掛かる。テンペスト殿。私の名はラン・キームン。父上は生憎不在でな。私で良ければ話しを聞こうではないか。だがまずは食事でも一緒にどうかな。大したものはないがご賞味あれ。」

 表情には出さない。顔は終始にこやかになるようセットした。

 私は心の動揺を悟られないように喋りまくる。


 本物だ、分かる。

 一見して美少女に見える。

 派手ではない、凛とした落ち着いた感じの、歳はそんなに変わらないはずなのに、遥かに歳上に感じる。

 なんだ、この感じは。

 まるで今は亡きお祖母様と話してるような安心感さえある。


 たいしたことを話してるわけでもない。

 それでも、ひしひしと感じる、まるで春の陽だまりような暖かみが、透き通るキラキラと煌めく風が吹き抜けるのが。


 敵対意識がこそげ落ちる感覚。

 輝いている。

 輝いて見える。


 こやつ…人間なのか。

 天上に咲く蓮の花が思い浮かんだ。


 最高級品を揃えたが無駄だったな。

 こやつ、全く気にしておらん。


 こやつを見て、全く良く分からんことが分かった。

 おそらく、私より遥かに上にいる存在なのであろう。

 だから、私には理解出来ないのだ。

 まったく上過ぎて対抗する気にもならん。


 不思議な御人じゃ。

 対面して話してるだけで心が軽くなる。

 もしかして癒されてる?


 …世の中は広い。

 そうかっ、前に父上がおっしゃっていた、絶対に怒らせてはいけない人とは、テンペスト殿のことではあるまいか。

 そうに違いあるまい。


 しかしこれは困った。

 敵対は出来ぬ。敵対したらキームンが滅びるからな。

 かと言って表だって負けを認めることもできぬ。


 おお、そうだ、いっその事、テンペスト殿に全部任せてしまおう。私天才かも。妙案だ。


 妙案を思いついたら落ち着いた。

 今度は余裕を持って、[暴風]を観察する。


 それにしても、デザート食べる姿は歳相応よね。

 …何だかとっても可愛いわ。


 ジッと見つめる。

 強い…のであろう。私も人を見る眼だけは肥えている。

 敵対する者全てを薙ぎ倒す暴風。

 無敵で無敗。

 通った跡には、立ったいる者は誰もいない…。


 顔はクールなのに幸せそうに珈琲ゼリーを食べている少女を、私は眺めた。

 本当に美味しそうに食べるわね。

 

 [暴風]の名前は、…アールグレイ・テンペスト。

 なら、アールちゃんで良いのかしら。

 もっとお近づきになりたい。なりたい。

 今まで経験したことの無い気持ちが湧き上がる。

 なんだろう、この気持ちは。


 むろん、この間も私は表情を崩す事はない。

 何故なら私はキームンだからだ。


 アールちゃんの食べる姿を見てると、私も珈琲ゼリーがとても美味しく感じる。

 よし、本題はアールちゃんに任せた。

 話題を即座に変える。成功。


 この後、根掘り葉掘りアールちゃんの事聞きまくった。

 執事に言ってアールちゃんのことを調べさせよう。

 そして偶然を装って会おう。

 人は会えば会うほど、会話すればするほど親近感が増すと聞いたことがある。


 まずは、友達からだ。

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