表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アールグレイの日常  作者: さくら
東方見聞録
80/615

公主

 ファーちゃんの説明は続く。

 「元々、7区は文明崩壊後に建設された第二天の扉市でした。キームンは当時の都市王であり、ヘイロンは御用商社でした。血の繋がりは有りませんが、利権で繋がり、その関係は非常に強固です。何しろ約5000年の歴史があります。」

 えっ、そんなに昔からなの?


 「第二天の扉市が衰退し、トビラ市に合併された以後も、それは変わりません。キームンが政治を司り、ヘイロンが商業を支える。会社に例えるならば、もはやヘイロンは、キームンという総合商社の重要な基幹産業と言っていいでしょう。キームンがヘイロンを切ることはありません。逆にキームンを説得できればヘイロンは、その意向を無下には出来ないでしょう。」

 ふむ、ふむ。そうすると、僕のやることは…。


 「そして、これからテンペスト様が会うラン・キームンは公爵の後継者であり、第7区を実質取り仕切っている人物です。まだ若いですが見た目に騙されないで下さい。キームン5000年のエキスを抽出したような傑物です。」

 つまり、これから会うキームンさんをドアーズさんと仲良くする様に説得すれば、万事解決ですね。

 これは、一日で解決して帰れるかも。

 なんて、ラッキー!





 ……なんて、思って喜んでいる時もありました。


 まず、キームン公爵の邸宅に着いて、通されたのは、僕からすれば二人が食事するだけなのに十分過ぎるくらい広い部屋でした。


 ラン・キームンさんは、とても気さくな人物で、狭い部屋しか用意できずと謝られました。


 いやいや、狭くないですし、見た目とても豪奢なお部屋ですよ。


 ファーちゃんとは、離されてしまいました。別の部屋でもてなすそうです。


 そして、ラン・キームンさんは、なんと17歳の女の子でした。

 よく喋り、よく食べる元気な子です。

 黒髪の肩先まで伸びた先がクルクルと巻いてある、とても可愛い子です。

 表情豊かで、よく笑う魅力的な子でした。


 質問攻めで、口下手な僕は、歳上なのに答えるだけで精一杯でした。終始リードされてしまいました。


 食事も豪華でした。こんなの本当に毎日食べてるの?

 僕、満漢全席なんて初めて食べたよ。

 給仕さんも、こんな何十人も必要ですか?

 広い部屋が、かしずく人々で一杯で狭く感じるよ。

 なんてゆーか、まさしく王侯貴族って感じ。

 ああ、僕の六畳の部屋が懐かしい。


 お酒を勧められるも、20歳以下だからと断る。


 今世では、そんな規定は無い。

 ただ昔から、お酒は20歳になってからと言う形骸化した言い伝えがあるだけだ。守っている人はいない。

 でも僕の場合、駄目出ししてくる人がいる。前世の意識を内包した僕自身だ。自分で自分を騙したり裏切ったりすることはできない。考えるだけで意識の奥から悲しみが込み上げてくるので致し方ないのだ。まるで父親に泣かれてる気分になるので、お酒は20歳になってからと決めている。


 でも、美味しそうだったなぁ…。


 実際美味いに違いあるまい。

 そして、値段もメチャクチャ高いだろう。

 持って来たソムリエの手が僅かに震えている。

 そんな国宝級のお酒を勧めないで欲しい。


 そんな、僕の様子を、楽しげにクルクル変わる表情の合間に冷静な眼で見て来るキームンさん。

 その眼は、冷静というより冷徹といったほうが近いかも。

 キームンさん以外にも何十の眼が僕を見てるのを感じる。


 まあ…関係無いけどね。


 会食も終盤に差し掛かり、残りはデザートです。

 デザートは、珈琲クリームとバニラアイスを添えた珈琲ゼリーです。

 おおー、これ好きです。

 一口いただく。


 … …デリシャス。


 余韻に浸っていると、キームンさんから声を掛けられた。

 「さて、テンペスト殿。こちらとしても今回の件はテンペスト殿の顔を立てて、手打ちにしても良い。実際の話し、どう結末を着けるか困っていたのだ。しかし、我がキームン家が折れるからには相当の手土産が必要だ。私も父上に釈明する為の材料がいる。それをテンペスト殿に考えて用意して欲しい。ん…聞いているか、テンペスト殿。」


 えっ?…聞いていませんでした。

 ゼリー美味しゅうございました。


 「まあ良い。つまり父上やヘイロンに、私が今回の件を手打ちにしても、私が侮られない材料を、テンペスト殿の裁量で用意して欲しいのだ。楽しみにしている。」

 ラン・キームンさんは、そう言うと、一口デザートをお食べになり、

 「そのような顔で食べられると、いつもより美味しく感じる。そんなに気に入ったならば土産にして持たせよう。」

 と、言って、召使いの一人を目配せで呼ぶと、お土産を用意するよう命じました。


 えっ?…珈琲ゼリーお土産にくれるの?

 なんて良い人なんだ。


 「ところで、テンペスト殿が使う魔法についてなんだが…。」


 あれ?本題これで終わり?


 し、しまったー!

 交渉も何もしないまま、相手の言いなりに終わってしまった。

 ファーちゃんが油断しないように事前に注意してくれたというのに。

 罠かぁー。あの珈琲ゼリーは罠であったかぁ。


 見事なり。さすがキームン家だ。


 さすがキームン5000年の歴史だ。

 完敗だ…。



 

 この後、珈琲飲んで帰った。

 美味しかった。

 お土産に珈琲ゼリーもらった。



 合流したファーちゃんに、恥ずかしくて経緯を話せず結論だけ話したら、謝られた。

 「さすがです。あのキームンから、そこまで譲歩を引き出すなんて凄い。予想以上の成果です。……私、恥ずかしいです。テンペスト様の実力を低く見積もっていました。なんて失礼なことを。」


 いやいや、そんな高く見積もりしなくて結構ですから。

 




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ