魔法
若い黒星くんの名前はウバ君というらし。
実力不足の者と実力者を組ませて、実力を平均化させる。
そんなわけで、僕は、最若手のウバ君と組むことにした。
さて、今日は何をしよう。
基本僕達は、測量隊の護衛なので、先行しての検索で異常がなければ暇だ。
先行場所で、後続の測量隊を待つ。
「ウバ君、ウバ君。君は魔法は何を使えるかな?差し支えなければ教えて欲しいのだが、どうだろう?」
この世界では、何と驚け、魔法があるのだ。
どう?…ワクワクするでしょ?
前世と似た世界であったが、魔法がある時点で異世界決定である。
前世の子孫に会えないのは、少し残念な、安心したような気分です。
ちなみにギルド員の9割は、魔法が使える。
私の得意な魔法は風。
…決して異名から、とったわけではないです。
偶然なんです。
相性が良いのが、たまたま風だったのだ。
試してみたけど、他の魔法もオールラウンドに使えはする。
しかし威力はかなり劣る。
ここまで威力が違うと、これはもう相性があるとしかいいようがない。
ウバ君は、僕の質問にしばし考え込んでから答えた。
「んー、私の得意な魔法は炎、熱、今は温度調整に凝ってまして、空調の魔法を使い勝手の良いバージョンに更新しました。」
おお、地味だか真冬や真夏に実に役に立ちそうな魔法だ。
「ちなみに身体を薄い膜で覆うイメージで室外でも使え、いつでも快適です。こんなふうに。」
ウバ君は、力を込めたようにすると彼の身体の周りに一瞬だけ膜のようなモノが見えたきがした。
こ、こうかな。
透明な膜をイメージさせて、身体を覆うよな感じで、
「軍曹殿、もっと薄い暖かい皮を皮膚に貼り付けた感じです。」
そうか、ならばこんな感じかな、イメージを一新する。
力を呼吸を介して内に入れ、内臓を起点に身体中に染み渡らせて、薄皮一枚に昇華させる。
これが魔法と言えるのが今でも分からないが、意志力が身体を変化させていることがわかる。
そして、その力を薄皮一枚だけ外に出すのだ。
「おお、軍曹殿、凄い。教えて直ぐに、出来る人初めて見ました。やはり軍曹殿は…。」
ウバ君の中で、僕の株が上がったらしい。
んーこれは、なかなか快適な、常時展開型なので、ある程度の精神集中が必要になるなぁ。
もっと魔力を絞って、表面を流れるようにすれば。あとは自動作動に任せて。
うむ、快適、快適。
お、何か索敵範囲に引っ掛かった、パターン赤。敵対生物だ。
前のしげみから飛び出してくる。
煮ても焼いても喰えない怪異だ。薄らと緑色をした泥の玉に人の顔を模したものがついている。
廃墟などに偶に出没する怪異で、色ど形が似ていることから僕達はこの怪異を、キャベツと呼んでいる。
キャベツが吠える。50センチ大のキャベツだ。
「サベツユルサーン、サベツダーサベツダー。」
指先に力を込める。混める、籠める。そして発射。
風魔法ブリット(弾丸)
風の弾丸が、周囲を切り裂いて、怪異を貫く。
爆散して、空気に溶けるような無くなる怪異キャベツ。
「サベツダメー。」
怪異の悲鳴が辺りに響く。
ウバ君が、軍曹殿流石ですねなどと呟いていた。
「それにしても、こいつら何言ってるんでしょうね、軍曹殿。」
僕は、ウバ君の言葉に肩をすくめる。
一説によると、遥か昔、サベツ村にサベツ教という教えがあって、その信者は、差別という概念で他人を攻撃する手段としていたという。怪異キャベツは、その信者の魂の成れの果てだとか。
この生きるのに厳しい世界にも、差別という言葉と、言葉の意味通りの使い方はあるが、差があるのは当たり前のことなので、差別イコール悪という概念はない。