偵察
もしかして、僕って幸運?
ハッキリ言って人間関係のトラブルほど不毛なものはない。
利権、金銭が絡むと更に、どっちも引くことはない。
無理に線引きしたとしても、どちらにも不平不満は残る。
それが又新たな火種になる。際限がない。
仲裁役など、貧乏くじも甚だしい。
それが問題の一つを、ギルド長が解決すると約束してくれた。ラッキー縞馬だ。
いや、待てよ。元々ギルド内の事だし、ギルド長が解決するのが当たり前だよ。
だいたい公正中立たるべきギルドが当事者の双方に肩入れしてギルド内が分裂するなんて職務怠慢、管理不行届だよ。
でも、まー、狸さんは約束してくれた。
今まではどうあれ、自ら面倒事を引き受けてくれた。貴重な人だ。たしか名前はドアーズだったよね。貴族だ。
名前からして貴族だ。
反省して、責任を取る覚悟を見せてくれた。
人間自分の非を認めるのは難しい。高い地位にあるなら尚更だ。しかも自分より歳下の者から言われたら更に難易度が上がると思う。
僕の中で狸さんの株は、大分上がっている。
このまま責務を全うしていただきたいものだ。
全うしたあかつきには、狸から人間に格上げしよう。
そうすると一方の後ろ盾の貴族ってドアーズ氏かな?
ファーちゃんに聞くと頷いた。
なるほど…
もしかして、貴族の後ろ楯の確執も半分解決?やったー!
あとは、もう一方の後ろだての貴族と当事者の郷士同士が仲良くしてくれれば解決か。
初日から、これだけできれば重畳だ。
これもきっとファーちゃんに会えたからだ。
僕にとってファーちゃんは幸運の女神だよ。
思わずファーちゃんを拝んでみたりする。
「どうされました?テンペスト様、急に私を拝みだして。」
目を丸くさせているファーちゃん。
いや、また、ご利益あるかもだし。
ファーちゃんは、僕のアシスタントとして、これからも手伝ってくれるらしい。
なんて良い子でしょう。
ありがたや、ありがたや。
でも、それで又ファーちゃんが不利益を被っていけない。
僕は、受付嬢に、ファーちゃんを借り受ける旨をギルド長宛てに伝言を頼んだ。
さて、まずは偵察だ。
現場を知らなければ話しにならない。
苦労するのは、理想と現実との擦り合わせだ。
もし、現場に行かない人が机上の空論だけで上手くいってると主張してたとしたら、間に立っている人か現場の人が、相当優秀で超苦労してるのを知らないだけだと思う。
現場に余計な負荷を与える必要は無いし、超苦労させる必要も無論無い。
分業だから、報告あるから、写真あるからとか、理由にならない。
現場のフィードバックだけでは全然甘い、甘過ぎるから。
考え方が、ペロちゃんのキャンディーより甘いよ。
百聞は一見に如かず。
まずは、現場を見ないとお話しにならない。
実際に自分の眼で見て、聴いて、触れて、感じるのだ。
旅行で現地を観光するのと、写真や媒体で知って行った気分になるのとは、天と地ほどの開きがある。
無駄でもよい。一度は行くのだ。解決しなければ何度でも行くのだ。百回でも二百回でも何度でも…。
ギルドを出て、歩きで貴族の邸宅に向かう。
無論、地理は分からないので、ファーちゃんに案内してもらう。
頼んだ時、躊躇が無かったので、既に関係者の情報は逐一把握してるらしい。
素晴らしい準備力だ。
15歳なのに瑕疵と言える瑕疵が無い。
ファーちゃん、超優秀。
案内に迷いが無いところを見ると、既に自分で複数回は行っていることが分かる。
聞いてみると、ギルド内が分裂して確執し合う状態に心痛めて、自分なりに調べていたみたい。
凄い、本当に15歳?
僕が15歳の頃は、学校を飛び級で卒業して、青星ニの頃かな。
準備の大切さは認識してても、徹底できてなくて、行き当たりばったりで、あちこちぶつかってたりしてた。
まだ、前世と今世の意識が完全に融合しきってない時だ。
懐かしい。
今思えば、ガサツで粗忽で不器用だった。
ファーちゃんと比べると、恥ずかしい。
ファーちゃんは、事前の情報収集も抜かりない。
歩きながら、説明してくれる。
「これから、向かう所はヘイロンの政治的な後ろ楯であるキームン公爵の御屋敷です。ご存知キームン家は旧第二天の扉市の都市王の末裔です。その性格傾向は、プライドが高く実力主義、倫理や道徳より、まずは自分優先、後ろめたさは一切無く、自己の欲望を相手にゴリ押ししてきます。油断すれば寝首をかかれます。相手が自分より弱ければ蹂躙し、強ければ勝つまで挑み続けます。絶対に油断してはなりません。対策は相手に常に勝ち続けること。又は勝てる状況まで戦わないことです。敵対しても味方にしても厄介です。」
えー、凄く厄介な隣人のよーだ。
あまり友達になりたくないなぁ。
「同時に彼らは、気位の高さに見合った実力を持ち、華やかで魅力的な人達です。功利主義で頭の切り替えが非常に早い。即断即決、ときに巧遅より拙速を尊びます。彼らは通常は厄介者ですが、テンペスト様なら大丈夫です。だけど油断だけはしないでください。」
ファーちゃんの説明を聞けば聞くほど、僕とは気が合いそうにない。
思わずファーちゃんに愚痴を言ってしまった。
「エッ、でも先方は面会するのに大変乗り気ですが?」
エッ、今のファーちゃんの言葉はどういう意味であろうか?
僕は、思わず立ち止まり、ファーちゃんの方を見る。
ファーちゃんは、立ち止まった僕を振り返り言葉を続けた。
「テンペスト様、キームン公爵は不在で無理でしたが、代理の公爵令嬢であるラン・キームン殿下の面会予約は取付けることが出来ました。会食形式の無礼講でよろしいそうです。このまま歩くと、ちょうどの時間に着きそうです。まもなくですから。」
ファーちゃんは、褒めて褒めてというような顔付きでニッコリ笑った。
「あっ、ありがとう、ファーちゃん。」
い、いつの間にアポ取ったの?!
君、超優秀過ぎるよ。僕の心の準備が追いつきません。