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アールグレイの日常  作者: さくら
東方見聞録
78/615

 僕は、怒らない。


 怒っても事態は何も解決しないからだ。


 もし、僕が怒っているように見えたとしたら、僕が未熟者だからだ。恥ずかしい、自分の怒りすら制御できないなんて。


 認めよう。僕は少し怒っている。

 ほんの少しだけだ。


 その怒りを深く意識の底に沈める。


 今世、僕は、自分のやりたい事をやろうと決めた。

 それは前世の僕の願いでもある。

 誰が僕を止める者があるか。いや無い。

 何故なら、僕を止められるのは、僕だけだ。

 後悔しても構わない。それが自分自身の意思だからだ。


 怒らない。でも許さない。

 子供を泣かす事は、誰であろうが許さない。


 ファーちゃんに案内させて、一階奥の扉を開ける。

 中は、ギルド長であろう太めの50代の男性が中央の馬鹿でかい机前に座っている。禿げで且つデブだ。

 狸と名付ける。


 狸は目を白黒させていた。

 他に白地に金線、銀線の入った者達が何名かいる。

 白地の制服はギルド職員だ。

 ファーちゃんも着ている。白地にグリーンのラインだ。

 ちなみに金線は最上位の階級を表す。将軍クラスだ。

 金線は狸と、もう一人、対称的に細身で眼も細い、狸の横の机を使用している。おそらく副ギルド長。

 狐と名付ける。


 睨む。


 おまえらで…あるか!

 子供を蔑ろにしている元凶は。


 誰も言葉を発しない。誰も動こうとしない。

 だから僕から発す。

 「両名共名を名乗れ。」

 僕の静かな声は、波動となって空気を振るわせて相手の魂に届いたはず。言霊を乗せたからね。

 高圧的な物言いは演技だ。僕は怒っていない。


 一拍の空白時間が経過した後、狸が答えた。

 「フルリーフ・ドアーズと言う。」

 狐は名乗らなかった。それどころか、僕を指差し、詰め寄って来た。

 「お前は、いったい誰だ!レッドの分際で…。」


 持っていた杖を、床に打ちつける。

 「頭が高い。こうべを垂れろ。」

 狐をギッと睨みつける。


 途端、狐の眼は白眼にクルリ変わり、その場で崩れ落ちた。

 「人を指差すなど、お行儀が悪いようですね。」


 子供の大事を話すのに、肩書きが大事なのか?ああ。

 必要なのか?関係ないだろう。

 僕はファーちゃんの実の母親ではないけれど、代わりに来ているつもりだ。

 子供を傷つけられた母親に、肩書きが通用するとでも、本気で思っているのかぁ?

 ファーちゃんとは、初対面だけど話してみて、本当に良い子であると分かっている。

 この子の人の良さにつけ込み、一番立場の弱い子供に重責を押し付けたんだ。まるで生贄、人柱か…。


 守る。


 子供は守るんだ。

 大人が子供を守らなくて、いったい誰が守るんだ。


 前世の僕が思っていた願いを、僕が引き継ぐ。

 子供を守ることは、前世の僕との約束であり、僕自身の、僕が僕であるための矜持なんだ。

 だから、……絶対に引かない。



 静まりかえる室内に、僕の足音だけが響き渡る。



 狸のギルド長の前まで進むと、僕は、ファーちゃんの件を伝えた。いかがなものかと。なんらかの措置が必要ですよね。


 次に、二つに分裂しているギルドを、責任を持って立て直して欲しいことを伝える。機能してなければ要らないよね。


 更に、郷士間のトラブル仲裁は、僕が解決するので最大限の便宜を図って欲しい旨を、淡々とした口調で説明した。



 当初、強張っていた狸の面構えが、話すにつれて真剣味を帯びた顔付きに変わっていった。

 僕は、全て語り終えた。



 「……分かった。私の責任に置いて善処する。いや、任せて欲しい。約束する。」

 狸の言は、真剣に見える顔付きだけど、狸であるし、初対面だけど信用に値するのだろうか。


 「search。」コソッと呟く。

 パターン赤1、青8。

 倒れて気絶してる狐以外は、皆青だ。しかも群青色に近い程の濃いブルー。

 ファーちゃんに至っては、もう夜空に近い様な青だ。 

 あれ?

 通常、僕に敵対意識を持たない初対面の人は、白色で表示するよう設定してある。

 なのに何故?


 よく分からないけど、元々ギルド職員は味方だし…。

 もしかして、僕、頭に血が昇って余計な事しちゃったかな。

 まあ、裏付けは、一応とれたし、良しとしよう。


 「また来ます。」

 狸さんに再来することを告げ、おいとますることにした。

 扉方向に、歩いていく。



 アッ、…忘れてた。


 僕は、扉前で振り返って、皆にゆっくりと頭を下げた。

 「僕の名前は、アールグレイ。階級は赤の星一つ。この度、郷士間のトラブル調停の為、当ギルドからの要請により、西ギルドから派遣されて参りました。皆様、どうかお見知りおきを。」

 やっぱり挨拶は大事だよね。


 返答はなかったので、僕は、ファーちゃんを連れて、部屋から出ると、キチンと扉を閉めた。


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