東方巡行前
東方ギルド。
これまで、あまり馴染みが無い場所だ。
縁が無いと言っていい。
何故僕が?
自宅にてシチューを食べながら、ペンペン様に愚痴を言う。
シチューはペンペン様が作ってくれた。
ありがたい。
ペンペン様の優しさが胸に滲みる
シチューは美味しいよ。
東方ギルドへは、電車で自宅から一時間半掛かる。
…毎日は、疲れるなぁ。
怠惰な頭で考える。
前に、片道2時間半以上掛かる案件は、行くだけで参ってしまい失敗してしまった。
1時間半は、感覚的にギリだ。
食後に明日の準備をしておく。
泊まり込みでも大丈夫なように。
荷物は一つにまとめる、いざという時動きやすいように。
救急セットや行動食は必須。
着替えも予備に一着用意する。
食器を洗いながら考える。
今回の案件は、郷士間の調停だ。
郷士とは、貴族に至らない有力者の事で、大小様々、玉石混交で、マフィアやギャングも含む、その土地に根差した有力者だ。
さて、調停しなければならない事案の原因は、今となっては判然としていないが、小さな取るに足らないトラブルだったらしい。
そこに利権と、面子、愛憎、裏切り、更に男女恋愛までもが絡みに絡み、当事者間では、解決不可の事態に。
それが、本来調停すべきであった大郷士、商会、貴族が、それぞれが真っ二つに割れて敵対する未曾有の事態に発展した。
解決を依頼された東方ギルド内でも、勢力争いに巻き込まれ公正に動けるギルド員がおらず、西ギルドに依頼が来たらしい。
…
面倒くさい。
超、面倒くさい。
しかも、貴族まで巻き込んだ高度に政治的な事案に発展している。
都市政府仲裁しろよと言いたいが、たぶん、お互い牽制しあって身動き取れないに違いない。
今期の都市王は、アッサム氏族から出ている。その治世は未だ5年と満たないが、老齢であり健康も芳しくないと聞いている。
元々各氏族の実力が均衡した中、中継ぎの感が強い王だ。
半分隠居した状態で、舵取りが甘い。
その弊害が、まさか僕に回ってくるとは。
しかし、それにつけても、他にいくらでもいるだろうに。
きっと皆嫌で、断ったに違いない。それで士官学校も卒業していない叩き上げの一准尉にすぎない僕に御鉢が回ってきたんだ。多分に僕の推測は、当たらずとも遠からずだ。
いつだって損をするのは弱い立場にいる人々だ。
うん、うん、だって僕、か弱いもの。…だからか。
ここ、笑うところじゃないからね。
ベップの湯の元を、浴槽に溜めたお湯に溶かす。
あー、極楽だぁ。
ちなみにベップとは、遥か西方に存在するという伝説の極楽都市だ。近年その存在が確認された。都市内に温泉がいたるところに湧き出し、いつでも温泉に入れるらしい。
なんて羨ましい。
僕、そっちに転生したかったよ。あー。
とりあえず明日の事は、考えない。
なるようにしかならないのだ。
働いてお金を貯めて、都市内、せめて都市近郊に一戸建てを建てて、半自給自足のスローライフを過ごすのが僕の夢だ。
それが叶うまでの辛抱だよ。
あー、明日は、きっと晴れ。