悪魔
山羊の悪魔は、ゲップをすると、こちらを振り向いた。
「search。」パターン紅1。
表示が変わっていた。
紅は、敵対危険度が上限突破した際に表示するよう設定している。つまりこの山羊は、僕が理解不能の危険度MAXの時限爆弾と同じということだ。
蟻が人間と対決するようなものだと説明した方が分かりやすいかも。
僕の頭の中で警鐘がガランガラン鳴っている。
山羊の口がモゴモゴして、しばらくしてペペッと吐き出した。キャベツの芯がお気に召さなかったらしい。
「wymj#…+=.tpjm1ん…ん…であるか。」
「あー、下賤なモノどもよ、あ、あ、通じているか。」
山羊が言葉喋ってるよ。ちょっとビックリ。
ドラゴンや、怪異や,鬼は言葉らしきモノは喋ってもコミュニケーションは不可であったのに。
山羊なら可能なのか。
僕らが茫然として答えないでいると山羊は多少苛ついたかのように蹄をカツカツと鳴らした。
「下賤な平民共よ、貴族が問うているのに無視するか。虫だけに。クワッシュシュッシュ。」
最後のは、どうやら笑い声のようだ。何だこの山羊。
兎に角、この山羊とは絶対に敵対してはならない。
機嫌を損ねただけで、踏み潰されて終わりだ。
「おそれながら、閣下何用でごさいましょうか?」
「シャシュッシュ、お前、直答を許す。また虫ゆえに我に問うた無礼も赦そう……此処は何時で何処だ?我の問いは適当かや?」
この質問で分かった。
この山羊は、喰人鬼やドラゴンとは別物だ。
おそらく喰人鬼や小鬼よりも、遥かに上位の存在ではある山羊が、何らかの理由により偶然、顕現してしまったのだ。
汗が引いていく。
であれば、怒らせないよう速やかにお帰り願いたい。
おそらく知能も遥かに高いはず。
ここは素直に説明しよう。
「おそれながら閣下におきましては、間違った道を来たように愚考いたします。閣下の期待されるお答えとは言えませんが、ここは地球という惑星上の天の扉市壊滅後から五千年以上経った世界でございます。」
山羊が困惑した顔をしたように見えた。
「ん、んん……であるか。」
平頭し、様子を伺う。
間違っても、ギャルさんが、「この山羊め!」とか言って襲わないことを祈る。
「シャシュシュッ、どうやらお前が言うことに間違いないようだ。此処は未だ魔気が薄い。まだ我の出番ではないようだな。機転の効く虫に免じて大人しく帰るとしよう。だが折角来たんだ、土産が欲しい。我に相応しいモノをな。」
引いた汗が、ジワジワとまた出てきた。
つまり、おとなしく帰ってやるから代価を寄越せと。
この山羊め、山羊鍋にしてやりたい。
「どうした…返答せぬか、小さき虫よシュシュッ。」
「ならばっ。」
僕は、懐から小刀を持ち出し、髪を一房切って差し出した。
「髪は乙女の命、お持ち帰りくださいませ。」
ちくしょー、折角肩先まで伸びたのに。このこの。
僕の返答に山羊が眼を見張り、片手で膝を打った。
周囲が見えない衝撃波に揺れる。
これは、おそらく技でもない、単に山羊様の心の揺れが現象に現れただけだろう。
「世界を救う為に自らの命を差し出すか…天晴れよシャシュシュシュッ。」
いやいや、そんな大それた気持ちはないですから。
「ふむ、虫は虫でも玉虫であったか…よかろう我の直参になることを赦す。光の子が闇の我の眷属になるとはシュシュクワッシャシュ。では我もナニカ標となるモノを与えないとな。」
山羊様は、僕の髪を大事そうに受け取ると、右手の爪先を僕の頭に触れた。
刹那、凄烈なシャワーを浴びたような気がした。
「ではさらばじゃ。玉虫と仲間達よ。クワッシュシュ。」
山羊のフォルムが崩れていく。
…本当に去ってくれたようだ、
悪魔にしては良い山羊様だったよ。
一息ついてると、ギャルさん達がコチラを驚愕の眼差しで見ている。
な、なんでしょう?
僕の顔に何か付いてる?
ギャルさんが僕の頭を指差している。
「アールちゃん、あなた、髪が黒色になってるわよ!」
え!思わずポーチから手鏡を取り出す。
こっ、こっ、これは……。
あの山羊様、やってくれたよ。
僕の髪の毛が、金髪から漆黒に変わっていた。
あわわわ