ドラゴンフォール
雷鳴が轟いた。
神鳴りが落ちた。
「刮目して見よ。」自分自身に向かって言い放つ。
言葉が身体の隅々まで浸透して行く。
ラビットモードだ。
僕は、…脱力した。
光りがゆっくりと目前を流れていく。
音は、聞こえない。
ゆっくりと歩いていく、散歩するみたいに。
周囲が、夕暮れのようにオレンジ色に染まる。
静かな夕暮れの世界。
僕は、この静かな世界が好きだ。
僕しか知覚できない静かなオレンジ色の世界。
僕はこの世界を、夕暮世界と呼んでいる。
精神と肉体を限界以上まで加速させたら何処に行き着くのか、気力を張り巡らせて速さの限界を突破したら、どうなるのかの実験を学生時代にした。
その結果が、これだ。
その時は、一瞬だけ入ることが出来た。その後直ぐ気絶して倒れたらしい。
先生にメチャクチャ怒られた。
あれから、訓練と改良を加え、今では一瞬で入り、体感時間で3分は滞在可能だ。
ドラゴンブレスの3本の光が、アチコチに伸びている。
よっこらせと、よけて歩いていく。
全方向ブレスで、窓が割れたのか、宙を雨の滴がゆっくりと這うように流れていく。ギャルさんに向かっていくガラス片の位置をずらしておく。危ないからね。
ギャルさんを見ると、元僕が居た場所に向かって親指を立てて口を開けていた。
僕に向かって叫んでいるんだ。
声が聞こえないけど、言いたいことは、良く分かった。
ドラゴンに白金の蔓が伸びて絡みつきつつある。
ギャルさんに、あらかじめ頼んでいた、退魔用拘束弱体化結界陣が完成し、その威力が蔓となってドラゴンに伸びつつあるのだ。
このおそろしく手間のかかる結界陣は僕には出来ない。
この結界陣を完成させるには、知識と時間と手間と細かい手作業、あと膨大な魔力が必要だ。
戦闘開始直後から、この技術的作業をギャルさんに隠れてやってもらっていた。
魔力は、ギャルさん、クラッシュさん、キャン殿下の三人がかり。
蔓に絡まれ、硬かった黒の鱗が、結界の作用でボロボロと面白いように剥がれ落ちていく。
ここまでくれば、9割方攻略済みと言える。
僕は、よっこらせと、ドラゴンの背中から登って行った。
ドラゴン山、登山だ。
登頂成功。
夕暮れに 登山成功 いと嬉し
一句詠む。うーん。僕には俳句の才能は無いらしい…。
刀の柄に右手を添えた。
橘流居合術二の太刀[階]
鞘に太刀を戻すとチンッと涼やかな音が鳴った。
どうやら時間切れらしい。
世界が元の色に戻り、ドラゴンの3本の首が落ちた。
ドラゴンの断末魔の叫び声が響きわたる。
「サベツサベツサベツイッショーユルサナイワー…。」
「シリタイノゾキミタイガゾウキロクシタイペロペロ。」
3本の首が、ドゥッと床に落ちて転がる。
白金の蔓が、ドラゴンの身体に絡まり動きを拘束しているが、床面からピンッと伸びきり今にもキレそうだ。
しばし、待つ。
このまま、倒れてくれるのか…。
……なんと、ドラゴンの身体から新たな首が生えつつある。
えー、なんてことだ。
身体は大暴れで、もう、この広いスイートルームの部屋自体がギシギシミシミシいっている。
割れた窓からは、ひっきりなしに雨風が吹き込み、みんなずぶ濡れだ。
クラッシュさんの「山の天候は変わりやすいから合羽持参は必須だよ。」と説明を思い出す。
そんなクラッシュさんもズブズブの濡れ濡れだ。
…いけない、殿下がお風邪をめしてしまう。
それにつけても、三首竜は、3本同時に切れば倒せるのは、昔からのお約束なのに、どーゆーことか。
保険は、あと一つしか用意してませんよ。
しからば、もう三人で寄って集ってぶち殺し作戦しか…。
新たに生えた首が叫び出す。怨みつらみの大音声だ。
「ナゼオレダケガー、ユルサナイ、ユルサナーイ!」
ドラゴンのあまりの大暴れに蔓よりも、壁や床が耐えられなかったらしく。
突如床面が落ちた。
あ あ
あ
あ コレ予想外デス。