ドラゴンブレイク
人を喰い、外道となり、喰人鬼と成り果て、腐魂や怪異を喰らいて、より生き汚い強いモノへ。
変わり果てたヤツの姿を、見上げる。
人よりも長くて太い首と手脚、鋭い牙と爪、黒くて硬い鱗状の皮膚。
骨の翼、巨躯を支えるような尻尾が生えてきている。
……これでは、まるでドラゴンだよ。
クラッシュさんの連打が続く。
「フンフンフンフンフン、フンー!」
弾丸が鉄板にでも当たって弾かれるような軽い音が響く。
なんてことだ。
ブロッコリーを倒したイキナリパンチの連打が、全く効いていない。
一見して、ダメージはゼロだ。
メインの頭が入れ替わっている。
先程まで、体表に蠢いた顔は吸収されたのか見当たらない。
これは、数千の悪霊、怪異、腐魂、悪念などの集合体が統一された塊だ。
えーと、これマジで勝てるかな……。
更にドラゴンの両肩から、新たな頭が生えました。
「サベツサベツサベツサベツヨーユルサナイー!」
「ミルミルシルシルミルミルシルシルケンリー!」
キャベツ頭と蛙頭だ。
もう、なんてゆーか、グチャグチャだよ。
古代文明が滅びたのも分かる気がする。
学校での古代史の授業を思い出す。
文明が成熟の頂点に達する一方で、私利私欲の徒が幅をきかせ、一言でも失言すれば首が飛ぶ恐ろしい時代だったという。
言論の自由、思想の自由が衰退し、大義名分と世論操作にたけた者達が、変質概念を駆使して、他者を糾弾、同調圧力を利用して自己の主張を無理矢理押し付ける時代。
あまりにも手前勝手な愚劣さに心有る者や有能な者は幻滅し諦め、辺境に逃げ出したという。
後世の者は、この時代を第二の魔女狩りの時代と呼んでいる。
授業を聞いていたときは、大袈裟過ぎ〜と話半分に聞いていたけど、こんなのが横行してるとは!
授業の話は、本当だったんだね。
もう、僕びっくりだよ。
いくら文明が今より成熟してたとしても、そんな時代に生まれなくて良かったよ。
多少不便でも、貧乏でも、好きなものは好き、嫌いなものは嫌いと、僕はハッキリと言いたい。
だって、そんなことは僕の勝手だろう。
余計なお世話だよ。
事の是非、物の道理、当たり前のことを当たり前にしたい。
僕は言論より人間を大切にしたい。
失言より人を優先する。
僕がいるこの時代は、実力を示せば主張は自由だ。
逆に実力も覚悟もなき主張は、正しくても誰も認めない。
つまり、人の数だけ主義主張の数があるのだから、当然、主張の内容は千差万別で、その内容の是非は問うことはない。
問われるのは、主張した者の覚悟と実力である。
採用不採用の是非は、現実に役に立つかどうかである。
僕、本当、この時代に生まれて良かったよ。
キャベツ頭と蛙頭が、そろってこちらを見る。
「ワタシヨリワカイユルセナイナイ、キャベツダワ、キャベツでシャカイテキセイサイーー!」
「ミルミルシリタイ、ウホーシルケンリーサイコーノゾキホウダイー!」
背筋に悪寒が走る。
いやー、僕、本当にこの時代に生まれて良かったヨー。
こんなの日常的に相手してらんないよね。
見上げている目の端に、クラッシュさんの背中に必死に掴まりながら、ブルブル震えている殿下の姿が映った。
ああ…なんてことだ…
アールグレイの碧の瞳に決意の光が宿った。
愚劣で下劣なモノドモ。
どうやら殿下達、子供達の未来の為にも、お前らは、滅さなければならないヨーダヨ。
息を深く深く吸い込みながら、両手を頭上で交差させる。
思いと覚悟を全身に巡らせながら、ゆっくりと両肘を曲げ脇に戻しながら、息を流し出す。
口から声にならない声が漏れ行く。
おまえら、刮目して見よ!
ラビットモードだ。