喰人鬼(中編)
僕は、何よりも自由を尊ぶ。
自由主義万歳。
僕が風の魔法と相性が良いのは、そのせいなのかも知れない。
自由だ。
息苦しいのは苦手。
何で人と同じことしなくちゃいけないの?
自分勝手だって?僕は君達に何も押し付けてないのに、何故君達は僕を正しさやシステムで縛ろうとするの?
僕自身は、そんな記憶は無いのに胸の奥から思いが吹き出して来る。
自由だ。僕は自由だ。身体は重りではない。自由を謳歌する為の翼だ。
呼吸を紡ぐ。
ジェットの吸気口の如く、数瞬で息を吸う。
筋肉に気を溜め込むように、長く細く息を、吐く。
そして、手足や毛先まで気を張り巡らせるのだ。
「刮目して見よ。」世界に向かって言い放つ。
身体の中から上昇気流が吹き上がる。
…ウィングモードだ。
まるで重さを置いて行くかの如く、駆ける。駆ける。
そして、壁を駆け上がる。
大鬼の口中が、仄暗く光り始めた。
…来る。
首がグルリと回って、こちらを向く。
口からビームが発射。
壁を蹴って、空中で、背を反ってクルッと避ける。
身体で弧を描いた空中の中央を、黒光りしたビームが貫いていく。躱したはずなのに防御壁を3枚持ってかれる。
コンクリート製の天井に大穴が開いた。
この高威力では、きっと曇天まで伸びて貫いたはず。
身体操作して、空中を滑空しつつ、腰に付けていたホルスターから両手で銃を抜く。二丁拳銃だ。
宙を逆さまにに落ちながら、銃口を奴に向ける。
今度は、こっちの番だ。
両手に魔力を込め、銃に流す。
鉄鋼弾の魔法「foolad。」
呟きながら、撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。撃つ。
一瞬で5連射。轟音が響き、硝煙の匂いが辺りに漂う。
僕に攻撃した直後だ。これは避けれまい。
魔力でコーティングされた弾丸が10発、白銀の軌跡を描きながら、奴の身体に次々と減り込む。
そして、弾にあらかじめ彫られて居た魔法陣が発動。
奴の体内で、10個の弾丸が爆発した。
「ササッ、サベツヨー、ユルサナイワー。グハー!」
「ギムギムギムダー、カネヲダセー。ヒデバー!」
爆発で、吹っ飛び身体が裂ける。
しかし、一旦避けた身体が、映像を逆回転するように、みるみる修復していく。
化け物め。
もとよりこの程度で倒せるとは思ってない。
世の中は、コイツより厳しいのだ。
僕は、宙を回転して、床面に降り立つと、奴を左手に見ながら疾走して背後に廻る。
気が身体中を巡って充実している。身体が軽い。
クラッシュさんを見る。目が合う。
アイコンタクトだ。決して愛コンタクトではない。
軽く頷いたクラッシュさんが持参して来た斧を、奴の頭上に投げ込む。
僕は銃をホルスターに戻し、壁を蹴って空中に踊り出た。
奴の頭上で、斧をキャッチ。
クラッシュさん直伝、悪い子は真っ二つの刑だ。
膂力、遠心力、重力を全部使い、背を反って思い切り斧を振り上げて、「foolad。」(鉄鋼の呪文)振り下ろす。
斧が白銀に煌めき、奴の頭をかち割った。
「グヘーミルミルケンリ、ミタイミタイ、グハー。!」
…やった。これは手応えあり。
「ナーンてな、カッタとオモッチャッター?」
長い舌をペロリと出し、ケケケ、ゲゲゲと笑い出す。
ケケケ、ゲロゲロ、と奴の身体中に浮かび上がった顔が笑い声を上げる。
「search。」パターン大赤三重丸4。
強烈な悪意が噴き出してくるようだ。
核たる腐魂が一つ砕け、他の4つに吸収された?!
砕けた頭の代わりに、新たな頭が生えて来ているし。
「シェシェシェ、ミタミタミタイ、ワタシニハシルケンリーガアル、ミセロー、ミセロー、ムイテヤル、シルケンリーダダダ。」
口から伸びた舌がピタピタと唇を舐めている。
目が僕を見ている。
見ている…身体を見ている…見ている。
思わず胸元で腕を組む。
なんか…いや。