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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの冒険
63/615

喰人鬼(前編)

 50階の扉を開ける。


 な、なんじゃこりゃ


 大鬼が居た。

 暗がりの中、豪華で無駄に広いスイートルームの中央に、3メートルを越える巨人が、緑色に斑らに発光して立っている。

 身体中に顔が浮かびあがっては、苦悶の表情で悲鳴や笑い声を上げ、自らの身体に喰われるように消えていく。

 その皮膚は、ドロドロで滴っている。


 腐ってやがる…。


 「あぅああぃえういいくうあいー!」

 叫び声を上げ、こちらに一歩踏み出して来た。

 顔と思われる部分がこちらを向く。

 複数の目が赤く爛々と光り、口中は無造作に何十本もの牙が蠢く。

 これはまるで、蜘蛛と人を融合させたような生き物なのか。

 

 大鬼に向け探知魔法を撃つ。

 「search。」……パターン大赤二重丸5。

 あの大鬼の中に5つの魂反応がある。


 

 おそらく、腐魂や怪異を食べ過ぎたんだ。

 今も奴の身体の中で、お互いに喰い合い、激しい生存競争が繰り広げられている。これは…まるで蠱毒だ。


 殿下が青ざめて、今にも気絶しそうだ。


 ギャルさんが口元を抑えている。


 クラッシュさんが深妙な顔つきでお経を唱えだす。


 ここまで人の魂が醜悪になれ果てるとは…。

 酷い…酷過ぎる。

 胸元が蠢き、年配の女性の顔が浮かびあがる。

 「サベツヨーサベツヨー、ワタシハタダシイイィーヒィ。」

 叫び声を上げると、別の顔に喰われながら悲鳴を出して沈んでいく。

 身体の何処かしこで似たような主張と様相が繰り返される。

 「ジャクシャナノ、ワタシヲタスケロ、ギムヨーギムギム。」

 「ギムダーケイヤクハギムダー、ツベコベイウナカネダセ、カネ、カネ、カネ。」

 「ショウスウハヲサベツスルモノミナゴロシー。バカナヨロンヲミカタニ。」

 「ジャクシャハトクベツナノヨ。タスケナサイタスケナサイ。」

 

 僕は、人の主義主張は、人の数だけ多様にあって、どの様な身勝手な主張であっても万分の一の平等な主張の一つであって、そこに優劣とか善悪の別は無いと思う。他者の迷惑にならなければ。


 自由なんだ。


 それを他に押し付け、強制しようとするから問題がおきる。

 どのような当時正しいとされた主義主張でも、他者を強制、従わせる為に利用してはならない。

 自分は正しいことをしていると思い込んでる者の顔は、なんて醜いものか。

 行動してる者、問題解決しようとしてる者の粗を、常に正しい側から、よってたかって非難するのは、さぞ楽で楽しいことだったことだろう。

 なんて小さくて、なんて情け無い。


 鬼の表面に現れては消える彼らを見る。


 でも、それは、その後に数千年も地上を彷徨い腐魂となりて自らが主張し利用した変質概念と融合して、人としての矜持を忘れて怪異となれ果て、鬼に喰われて尚も消えることなく生き地獄を味わう程の罪なのだろうか。


 多分、罪でも罰でもないのだろう。

 自然現象なんだ。

 これは、自らが招いた結果なんだ。

 過去の行動の蓄積の結果であって、あたりまえのことなのだろう。


 うっ、吐きそう。

 あまりの醜悪さに込み上げるものがある。

 僕ら、コレと戦うの?なんか嫌だな…。


 ギャルさんなんか、左手で口元を抑えながらも涙目だ。

 それでも既に剣は右手で抜かれている。


 殿下は、打ち合わせ通りクラッシュさんの背中に引っ付いている。おんぶだ。クラッシュさんの背中に顔を埋めガタガタ震えている。

 これは、殿下の護衛に一人張り付いていては、攻撃側の人数が減ってしまうことからの策だ。


 鬼の顔が上向きになり胸元が大きく広がる。

 口内が怪しく光る。


 来る!

 「気をつけて、散開。」

 バラけた、直後に鬼の口からドス黒い光が飛び出して来た。


 口からビームだ。スゲー!


 わざと目立つように直進した僕の防御壁にぶち当たる。

 衝撃が来てグワンと脳が揺れた。


 オーノウ!


 十層ある防御壁の八層目まで、一瞬で跡形もなく崩れ落ちる。

 侍の攻撃にも耐えた防御壁が跡形もなし。

 やばい、やばいよ。こいつ。


 動きながら、新しい防御壁を紡ぐ。


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