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アールグレイの日常  作者: sakura
アールグレイ士官学校入校する
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カール・イングラム・エヴァは見た!(前編)

 植え込みがまばらにある、樹木が所々にある森の中を、9人の男達が、ほぼ横一直線になって、南に向かって走っている。


 …とうに陽は暮れていた。


 暗い森の中を、彼らは一心不乱になって、逃げていた。

 その後を、スウェットに身を包んだ一見して未だ10代の黒髪の女の子が一人追い掛けているのが見えた。


 …


 ああ!…あの女の子、アールちゃんだ!


 あの優美なのに凛々しい走り方は、アールちゃんで間違いありません。

 キャー!会えた嬉しさに内心で悲鳴をあげる。


 彼女が変態貴族に狙われていると知り、アレクサンドリア様が私達に相談された会議以降、アールちゃんの為を思って、わざと知らせずに遠ざけていたというのに…これでは、その算段も御破算です。


 でも、救けを求める声に素早く応じ、渦中に躊躇せず飛び込む姿は、如何にもアールちゃんらしい。

 流石です…私には、その登場する身姿が彗星のようにキラキラと輝いて見えました。

 期待以上…いえ、英雄とは救けを求める者の前に現れるが宿命…ある意味期待通りの行動です。

 しかし、この決断力と行動の早さには驚きました。

 悲鳴の直後には、現場に颯爽と現れてましたもの。

 …まるで魔法のよう!

 (因みに瞬間移動の魔法は未だ魔法学者が研究中で実用化はされていない。)


 真白で純粋な慈愛に、勇気と覚悟がくっ付くと、あのような行動様式となるのでしょうか?

 僅かな材料から洞察し判断する聡明さも、分からなくとも決断する勇気も、どちらも持ち合わせてない愚鈍な私には無理な初動ですね。

 …

 思わず自分の指先が震えてるのを見て気づく。

 頬が上気するほどに身体が火照ってしまっている。

 もしかしたら目元も…潤んでいるかもしれない。

 息遣いが荒く聞こえ…身体が暑いです。


 私ったら…アールちゃんの登場シーンを見て、感動して興奮している?


 アールちゃんは、私の友達です。

 だから当然普段も、友達だから息が触れ合うくらい近いのも親しくお話しするのも、当たり前当たり前と、自分に言い聞かせて、気を引き締めてドキドキしながら近くから見ているのだけど…改めて遠間から双眼鏡越しに見てしまい、その魅力が弾丸のように私の心に直撃してしまいました。


 迂闊…油断してました。

 うう…でも可愛いかった…胸がキュンと切なくなるほどの可愛さです。

 あう…嬉しいのに哀しい…こんな気持ちは生まれて初めてです。


 アールちゃんは友達だけど、知れば知るほどに魅力は増して来ていて、最近では気を引き締めねば、私は鼻血出しながら倒れ、多幸感で意識を失いかねません。


 私は、アールちゃんは友達だから当たり前と、念仏のように唱えてから、任務を続けた。




 私が今居る管理舎棟の物見櫓からは、女子寮とその周りの様子は良く見えます。


 …丸見えなんですよね。


 森と言うより疎らにある雑木林の隙間から、チラホラ逃げる男達の姿と、それを追うアールちゃんの可憐な身姿が、双眼鏡越しに見え隠れしている。


 ここは本来、教員以外は立入禁止の場所ですが、学校長からの同内容の別件の依頼もあり、私は、許可をもらって、ここから女子寮風呂場付近を見張っていたのです。


 ああ…申し遅れましたが、私の名前は、カール・イングラム・エヴァと申します。

 元々は、花屋さんか洋菓子屋さんになりたかったのですが、何の因果か、今は冒険者ギルドの士官学校で士官になるための夏季講習中の者でございます。



 近場で、ルフナさんが見張り、全体を遠間から私が見張る。

 不審者…もとい変態貴族を現行犯で捕まえる為の二段構えの見張りです。

 アールちゃんに一途なルフナさんを疑うわけではありませんが、これは戦略・戦術の一環、オリッサ総代曰く、アールグレイ戦術の常套手段なので御勘弁下さいませ。

 

 それにしても…この短時間のうちに、生徒会から依頼を受託したルフナさん、士官学校長からの依頼を受けたクール・アッサム准尉とレイ・キームン准尉、計3人は除いたとしても、胡乱な6人もの男達が、女子寮の風呂場の前を彷徨いていた事実に目眩がしそうになると同時に、何とも言えない気分の悪さを感じます。


 溜め息を吐く。

 呆れてしまう。

 そんなにも見たいものなのかしら?

 

 自分の裸を思い浮かべる。

 彼らの覗きの対象は、体型にメリハリない自分ではないのだろうけど、私も年頃の女の子です。

 お風呂場の周りを、あの様に異性にウロウロされては、落ち着いてお風呂も入れやしないです。

 私は、潔癖症でもないし、普段見てくる男の子達の視線など気にしないけど、流石に、裸を覗かれるのは嫌だ。

 その心配や不安感を、吹き飛ばすように颯爽とアールちゃんは現れ、男達は逃げ出した。

 その蜘蛛の子を散らすような慌てふためく男達の様は、見ていて滑稽な程でした。

 …クスッ。

 でも、逃げるということは、後ろめたさはあるのよね?

 … …。

 ならば、私が確証を得たので彼らは有罪です。

 未遂で処分が理想的ですから。

 捕まえて、アレクサンドリア様に引き渡さなければ…予想よりも大分、大人数ですが。



 …それにしても、何故にルフナさん達も一緒に逃げているのでしょうか?











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