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アールグレイの日常  作者: sakura
アールグレイ士官学校入校する
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[閑話休題]カール・イングラム・ エヴァの思索

 「おお…あぁ…。」

 

 「どうかしたか?アール。」


 生徒会役員室においての昼休み、アールちゃんが静かに本を読みながら、ため息のような感嘆の声を上げた。

 それをオリッサ総代が聞き取り、尋ねたのです。


 アレクサンドリア様は、チラリと目線を向けるも直ぐに紅茶を嗜む方に意識を元に戻しました。


 私達、夏季講習の生徒会役員もダイバ祭を終えて、ひと息つき、議題がなければ、昼休み役員室で休憩を取れる余裕が持てるようになりました。


 専ら、アレクサンドリア様は、オリッサ総代の実家から提供されたお菓子に合わせた紅茶を選び、マリアージュを優雅に楽しまれてるご様子で、実は結構お菓子好きで喜んでいるのかも。


 オリッサ総代は、難しい顔をしながら端末を高速で操作し、はたまた考えるを、幾度となく繰り返している。天才の考えを思慮するは最初から諦めているので、考えを詮索はしない。


 そしてアールちゃんは、貴重な暇な時間で読書している姿を、最近見かけるのだ。

 

 皆んなは、アールちゃんのことを、儚い清楚で物静かなお姫様と見ているかもしれない。

 確かに一部分にそんな面もあるのかもしれない…が、それは見た目のイメージに騙されている。

 僅か一ヶ月ですが、直近で一緒に仕事して来た私には分かる。

 この子は、見た目を裏切り、本当は、やんちゃで活発、好奇心旺盛な男の子のような活動さが本領なのではないでしょうか?

 あの問題を解決する際の、斬り込むようなエキサイティングな口上と、直ぐに手や足や刀が出るし、兎に角も即断即決即行動の展開の早さが物凄い。

 まるで春一番の花びら舞う嵐を観てるかのようだ。

 もっとも姫君が、身分を隠して、ギルドのレッドに潜入しているのだから、姫様としては、一風変わっている方には違いない。

 アールちゃんは自称平民としてるけども、時折り垣間見える魂の気高さは、一般人とは違うから、何処ぞの高位貴族の姫君がお忍びで冒険者に身をやつしてると勝手に私がそう思っている。

 私はアールちゃんを、セイロンかアッサム…もしかしたら失われたダージリンの姫君かとも推量してるのだ。

 以前、ちょっと正体を探るために軽い調子で、カマを掛けて、ダイレクトに本名を訊いたら不思議そうに「…アルフィン・アルファルファ・アール・グレイですよ。」と真面目に答えてくれた。


 …むむ、本当ぽい。


 ならば、その後に真の家名が付くのかもしれない。

 アール・グレイの後にアッサムと付いて、現王の隠し子であったとしても私は驚かないよ。

 そんなアールちゃんが最近、静かに本を読んでいるのだ。


 うーん、風が凪いでいると、こんな感じなのかしら?


 普段、華と嵐を体現しているアールちゃんが、部屋の片隅でヒッソリと静かに本を読んでる姿は、ちょっと違和感があるかも。


 因みに私は、編み物しながら、そんな皆んなを眺めている。

 何もない平和は、拘束ない自由を生み出す。

 自己の裁量に任されるとき、人は自分の力量を試されていると思う。

 しかし、今は何もしない幸福な日常をかみしめているところなのです。

 そんな私の名前は、カール・イングラム・エヴァと申します。

 奇しくも役員に抜擢されてしまいました平民出自の冒険者でございます。



 …


 

 「うーん、この本ね…胃の腑に来るような感じで、重い。」

 アールちゃんは、尋ねたオリッサ総代に落ち込んだように答えてました。


 ああ、思えば、この二人の関係も不思議です。

 

 オリッサ総代は、天才と謳われる才媛であり、財閥系のお金持ちの男爵令嬢…かたやアールちゃんは、全く別系統の魅力の持ち主ですが、平民の清貧な家の出身であるととかで、数ある同級生の内の一人という以外に接点はありません。

 なのに冷静、冷徹、無表情、無関心、我関せず、判断を間違いない完璧超人なのに、アールちゃんにはご執心なのです。


 …それも異常に偏執的にみえますわ。

 もしかして、女の子同士の純愛でしょうか?ドキドキ。


 最初、オリッサ総代を冷たくあしらっていたアールちゃんですが、最近では慣れたのか、普通の友達感覚で対応しているみたいで、オリッサ総代は、それが嬉しいのか氷が溶けるような微笑を浮かべている。


 おお…クールビューティーがデレています。


 普段無機質な氷を思わせる美人が微笑む姿は、本当に嬉しいのだろうなと赤裸々に伝わり、その初々しさに思わずコチラが赤面ものです。

 完璧超人のオリッサ総代が、魅力も実力も比類ないけれど、欠点だらけ隙だらけの…それもまた魅力的なアールちゃんを慕う姿は、子供が無償の親の愛を盛んに求める姿に見えてしまう。

 

 うーーん、この人は本当にアールちゃんだけが好きなのだろうな。


 家族愛と友情と愛情が混ざりあった打算なき純愛?ですから、この目前の光景は、尊く微笑ましい情景なのでしょうか。

 だとしたら、アールちゃんの友達たる私としては、ここは微笑ましく見守るのが正解なのでしょう。

 因みにオリッサ総代の私に対する対応は、アールちゃんの一部と見做されてるのか、割と優しげな対応をしてくれてます。


 まあ…今はそれで良いかなと満足している。


 アールちゃん大好きなオリッサ総代の中には、小さなアールちゃんがいるように思うから、だからきっと将来私とも仲良くなれるに違いないと確信している。

 それほどに、私のアールちゃんへの信頼は厚い。

 私が窮地のときには、アールちゃんは駆けつけてくれるだろうと思う。

 今は、だらけきって寛ぎまくっている猫みたいだけど…彼女は断っても絶対に来るのだろう。

 そんなアールちゃんがテーブルに突っ伏しながら、読んでた本を掲げて、オリッサ総代に説明しだした。


 「この本はエトワールが推薦してくれたもの…題名は[妖精の詩]、全体的に粗くて、完成度は高くない…でも読み進めていくと、展開の残酷な救いの無さに暗澹とした気分になって読みたくなくなる…それなのに読んでしまう抗えない魅力があり、疲れてしまう…これって、もしかして呪いの本なの?」


 アールちゃんのジト目と、酔ったような嬉しさに目元が潤んだオリッサ総代との目線が交錯した。


「ふふん…残酷なほど美しく、未完成な純粋さは神聖さを醸し出す。限り無く清浄なものは、えてして哀しみを伴う。読めば読むほどに誰もいない深い深い深緑の森で迷うような不安感…或いは蒼より蒼い空虚な清浄すぎる蒼天に投げ出された空虚な気分にさせる。安心しろ。この本に呪いは掛かっていない。魂を呪縛されたような効果を感じたならば、文章の為せる技に過ぎない。この精神が揺さぶられ痺れる気分は私には悪くないぞ。アール。」


 「むう…変態(天才)の感覚は分からんな。」


 アールちゃん達の会話に、アレクサンドリア様が薄っすらと微笑んだ。




 私が編んでいるものが完成する頃には、私達は卒業して、この生徒会室には今のメンバーは誰もいないことだろう。

 だからこそ、私を含めたこの4人が、この場所に集った神の奇跡を、とこしえに感謝したい。










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