恋愛ラプソディ(中編)
ぬぬ、女子の風呂場を覗き見し、看破されるや逃走に転ずる卑怯者め。
…恥を知れ!
覗かれた女子の気持ちを忖度するならば、恥ずかしく悲しみと許せぬ思いでいっぱいだろう。
前世、男だった僕だけど、当時でも覗きなどしたことなかったし、覗くという発想自体なかったよ。
今世では、同性でも一緒にお風呂に入ると恥ずかしいので、マジマジと周りは見ないようにしている。
僕は、男女どちらの気持ちも分かるけど、覗きとは男の風上に置けぬ振る舞いであると、意見は一致している。
そんなに女子の裸を覗きたいものですか?
男女関係なく誰でも裸を見られるのは恥ずかしくて嫌でしょうに。
もし、同部屋のメリーさんが追跡したならば、真っ二つに叩っ斬って、魚の餌にしてしまうかもしれません。
覗き犯にとって幸いなことには、彼女はちょうど剣の鍛錬に行っていませんでした。
追跡しながら、内部犯の知り合いの可能性が高いことに僕は気がついている。
ギルドの士官学校は、結界が張ってあり、許可手続きを経なければ、通り抜けるは不可能なのです。
ああ、情け無い…知り合いだと思うと悔しくて…グスン、僕が泣きたくなりそうです。
ああ、この身体は、涙脆い。
精神が動揺をきたすと直ぐに涙腺が緩んでしまう。
だって、なんだか裏切られた気分で哀しい。
…
あれ!そう言えば、近々で似た話を聞いた覚えがあります。
そうあれは…確か、アレクサンドリア様の緊急呼び出しで駆けつけ、彼女の無事を確かめてホッとした…あとに相談されて、とある同期生の男子が女子に懸想して、付き合ってくれなきゃ嫌だと脅しちゃうぞという純愛の話であったかな?兎に角そんな感じ。
名前は覚えてない…たしか貴族の某准尉で、ルフナ達ではなかったよ。
だってアレクサンドリア様が無事だったことに安心したらお腹空いてランチは何を食べようかと考えていました。
なんとなく概要だけ聴いて、過激な恋バナであるなと思っただけで、実は内容ほとんど聴いてませんでした。
…アレクサンドリア様、御免なさい。
でもでも、確かエヴァちゃんが意見提案して、件の男子はアレクサンドリア様預かりになったはずです。
…
あ、えっと、もしかして、あの時話していた脅すって、お風呂を覗いたことをネタにしてなのかな?
じゃあ、あの話は、この件と繋がっている?
…近似した話なので、可能性は高い。
なら、きっちり捕まえて、アレクサンドリア様に引き渡さなければ…真っ二つはなしの方向でと、考え悩んでいた処分を確保の方にシフトした。
…ちょっとホッとした。
自業自得とは言え、流石に知り合いの同期生を真っ二つに処分は心苦しい。
処分は決まったので、あとは捕まえて引き渡すだけ。
誰かが樹々を掻き分ける音を聴き逃さずに、その方向へ、僕は駆け出した。
植え込みに潜るように入ると、ユッタリとした室内着が木の枝に引っ掛かり思うように動けないことに気がついた。
…シマッタ。
到着が多少遅れても、野戦服に着替えるべきでしたか?
一瞬そんな考えが頭をよぎるが、直ぐに打ち消す。
もし、そんな悠長なことしていれば、覗き犯には、逃げられていただろう。
予知も予測もできない不測の事態には、身体一つありのままで対処するしかない。
悔いても、利益はない。
いつだって、そう。
過去は変えられない、未来は分からない、僕が決められるのは今だけです。
だったら、悔いない、惑わない、今に全力を尽くします。
この森は、前世の世界では、潰れた温泉施設の西側から南に伸びていた道路上に当たり、現世でも起伏なくて樹木が生えていても比較的通りやすい。
右側は、下りの崖となっておりその先は海、左側はビルを苗床にした峻険な山々が連なっているので、覗き犯人は、このまま真っ直ぐ南に逃げるしかないのだ。
何故分かるかと言うと、士官学校の周りは、既に検索済みで、地理は把握済みなのです。
現場付近の検索は常識ですから、この僕が怠ることはない。
周辺検索は、前世から励行してるので、もはや習性や趣味と化して、逆にやらないと座りが悪く感じて落ち着かない。
フフン…この前の週末では左側の山々の頂まで踏破して、前世からの念願であったソロキャンプまでしちゃってますから!
ああ…満天の星空のもと、焚火で料理したご飯と、食後の珈琲は、美味しくて最高でした。
「search!」
魔力波を前方に放つ。
ああ…僕の思った通り、気配はほぼ真っ直ぐに南へ逃げていますね。
但し、奇妙なことに、searchの回答結果が全員青色で多人数なのだ。
…僕に友好的な痴漢の集団なの??
なんか、ちょっと、イヤだなと思い、心持ち追跡する速度が鈍りました。