[閑話休題]クール・アッサムの近況(中編)
な、何故にダージリン嬢が、この場にいるんだ?
天国から地獄に落とされた気分だ。
…ションボリと項垂れる。
今、俺は、テーブルを挟んで、ダージリン嬢とアールちゃんの対面に座っている。
「あのね…僕がクール曹長の相談相手としたら、僕ってば力不足かなって思いながら歩いていたら、偶然非番のダージリンさんと、そこでバッタリ会って、一緒に相談に乗ってくれたら心強いかなって、誘ってみたんだけど…ダメだった?」
俺の不満そうな、落胆したような態度を見たアールちゃんは、流石に何かを感じてくれたのか、何故にダージリン嬢が同席してるかの経緯をザックリ説明してくれた。
…ウッ!
アールちゃんは普段、俺と会う際は、仕事上の上司のような無表情で厳し目の態度を装う。
だから、この様な申し訳なさそうな素の表情は、俺にとってはレアで、俺のことを気遣うその優しさに心臓を鷲掴みにされたようにグッときちまったぜ。
思わず目前の両手を握りしめて、「俺と結婚して下さい」とプロポーズしそうになった。
…
しかし、過去の失敗から、急いては事を仕損じることを、俺は学んでいるから、なんとかその情動をこらえる。
ああ…そんな普段と違う奥ゆかしい純心な態度されたら、ますます惚れてしまう。
あわよくばアールちゃんの優しさにつけ込み今日デートにこぎ着けようと算段していた俺が、後ろめたい気持ちとなってしまった。
いやいや、これはチャンスかもしれないぞ!
アールちゃんの申し訳ない気持ちに譲歩を引き出し、結婚ではなくとも、恋人として付き合って、アレコレしてもらうとか…?!
俺はバレない範囲で、対面に座ったアールちゃんの細い首すじから柔らかそうな豊かな胸とか、曲線美の極地たる腰回り付近をチラ見した。
残念ながら、テーブルが邪魔して、御御足の脚線美は堪能出来なかった。
再度、胸付近に視線を移し、ダージリン嬢の胸とは違って、実に魅力的な曲線を描いている様を、目に焼き付ける。
表情は変えずに深刻そうな様を装う。
…デヘヘ。
考えた素晴らしい申し出を口に出そうと考えながら、チラッと再々度上目使いに見たら、またしてもダージリン嬢と眼が合った。
「アー…。」
…言いかけた言葉を、思わずハッと留める。
ダージリン嬢のあの眼と表情…変わらずに営業スマイルなのに、俺のアールちゃんを攻略しようとする純愛からの考えを見透かしたような眼と心底軽蔑したような表情に見えた。
思わず面を伏せる。
… …?!?
あれ?なにあの眼と表情?
一瞬考えてることを見透かされた気がしたけど…見ただけで、俺の考えてることなど分かろうはずがないから…俺の気のせいに違いない。
しかし、言い出す気は挫けてしまった。
「アー、いや、ははは…。そうなんだ。ギルドの才媛に俺の悩みを聞いてもらえるなんて、光栄だなぁ。はははは。」
慌てて、誤魔化す。
ダージリン嬢の表情は、今を含めて終始営業スマイルだが…さっきの一瞬の軽蔑の眼差しと感じたのは気のせいだったのか…件の受付嬢は会ってから一言も喋らず、なんだか恐ろしく感じた。
…人の内心の考えなど分かろうはずがない。
だとしたら、俺、ダージリン嬢を怒らせるようなことしてたかな?
この喫茶店は、冷気魔法が効き過ぎて寒いくらいに感じた。
「そう…良かった。僕もよく悩み事は、ダージリンさんに相談してるから、きっとクール曹長の悩みも解決するよ。」
そう言ってニコッと嬉しそうに微笑むアールちゃんの笑顔が眩しい。
うぁ…愛おしさが込み上げてきて、抱き締めたくなる…が衆人環視の中なので、我慢だ。
その純心な慈愛の微笑みにダージリン嬢の怒気も、一瞬緩んだ気がする。
やっぱり、ダージリン嬢、怒ってるよな?
もしかしたら…俺がアールちゃんばかりにかまけて、ダージリン嬢にはナンパな声掛けをしなかったからなのか?
…
フー、モテる男はツラいぜ。
しかし、ダージリン嬢は美人だが、俺の好みからは外れているんだ…許して欲しい。
俺は、まな板絶壁よりも、…こう優美な双山を持つ曲線が起伏に富んだ柔らかい女の子が好みなんだな。
…あれ?なんだか一段と寒くなったような。
「…話してみなさい。」
ブリザードのような声に身を震わせた。
ダージリン嬢の声は、丁寧な普通の声だが、聞いていると何故だか寒気がしてくるのだ。
…もしかしたら、風邪の引き始めかもしれない。
あまりにも、タイムリーな呼びかけに、俺の好みを話してみなさいと言われた気がしたが、むろんそんなことはなく、悩み事を話すよう促したに決まっている。