登山
窓ガラスが割れてしまったので、この部屋は使えない。
4人連れだって移動する。
小鬼共は、多分現象なのだ。
だから、こんなにも容易く倒せる。
アレの悪意が都市内の変質概念や腐魂と反応して、具象化したのだろう。
この暗黒領域と化している、この場所では幾ら倒した所で、散った悪想念が又具象化するのは時間の問題だ。
キリがない。
アレの悪意が変わらぬ限り、コイツらは不死身だ。
やはり、本体をやるか、本体に近い想念体を叩かぬ限り、アレのダメージにはならない。
どうしたものか?
アレは隠形術を使う。目前にいても気付かぬほどの。
いったい今、アレは何処にいるのだろう。
ふと言葉が思い浮かぶ。
馬鹿は高い所が好き。
なるほど、一理あるかも。
「search。」上方に一発かます。
パターン大赤二重丸5。
最上階、スイートルームに大赤二重丸5、何でしょう?
んー、これは行くしかないなぁ。
今、僕たちの居る階は、10階。
そこそこ見晴らしが良い。今、外は真っ暗闇だけど。
最上階のスイートルームは50階だ。
エレベーターは使えない。だって、こういう場合落ちるよね。安全策をとって階段を登るしかない。
「我輩、登山が趣味なれば、我輩が先導しましょう。」
まあ、クラッシュさん、登山が趣味だったとは。
僕も、実は登山には興味があった。
春の陽射しに包まれて、新緑の季節に行く登山は素晴らしかろう。前世では、タカオ、オオヤマ、ハクバの低山を一人で登っただけで記憶が途切れている。
前世の僕、好きなことも出来なくて可哀想に。
今世の僕が、その志を継いであげるよ。まかせて。
ふんふん。
「いいですか。登山はマイペースが大事。汗をかかない程度のペースで、大股はいけません。小股で小刻みに登りましょう。疲れる前に休みことも大事です。」
クラッシュさんは楽しそうに、登山の注意点を説明しながら現れて襲って来る小鬼を見もせずに、顔を掴んで壁で押し潰す。握り潰す。叩き潰す。捻り潰す。すり潰す。
その表情は終始にこやかだ。
BGMは、小鬼の断末魔の叫び声だ。
なんだか僕、小鬼が可哀想になってきたよ。
殿下は、素直に聞いてうんうんと頷いている。
ギャルさんは、あまり興味なさそうだ。
4人の編成は、先導がクラッシュさん、次いでギャルさん、三番目に殿下、しんがりが僕だ。
「いいですか。ギャル。基本汗はかかない方が良いのです。汗をかいた後は、冷えて体温低下を招きます。汗をかいたら、こまめに下着を替えるか、最初から速乾性のシャツを着ることです。」
クラッシュ先生の講義は続く。
あっ、小鬼が遠間から弓矢を使おうとしている。
クラッシュさんの指がパチンと弾かれると、胡桃が高速の弾丸となりて小鬼の弓を握っていた手を打ち抜いた。
「ペースを乱してはいけませんよー。」言いながら、悲鳴を上げて転げ回る小鬼を踏み潰して歩いていく。
この人普通に強いんだよな。
たぶん、戦ったら負けはしないけど、勝てない。
理由は、この人ほぼ不死身だからだ。
先導のペースに合わせて僕達はゆっくりと階段を登って行った。
ゆっくりと、30階程登って、只今休憩中である。
一気には登れない。
殿下には休憩が必要だ。
40階のフロアラウンジで自販機から水を買って飲む。
手持ちの携帯食のチョコを皆に分けてあげる。
クラッシュ先生の御高説が続く。
「こまめな水分補給は大切です。携帯行動食は高カロリーの高いものを選びましょう。失った塩分、ミネラル等を補給しましょう。」
ふー、僕は今、仲間と登山している。
コンクリートの山だけど。また一つ夢が叶いました。
楽しー。
15分休憩したら出発だ。