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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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秘密の花園②

 授業、課外授業、検討会、毎日が分刻みのスケジュールをこなしていく。


 夏季講習は、士官学校4年分のタスクを僅か2ヶ月に短縮するハードスケジュールだが、正規の士官候補生組の我らは、既に3年半課程を済ましているから、多少は余裕があると思っていたが、今まで授業を受けていたにも関わらず、出来ていないことを突きつけられ、取りこぼしの多さに辟易した。

 ならば、ブルーからの成り上がり…いや、叩き上げの連中は、さぞ苦労してるだろうと思いきや、落伍するものは一人もいなかった。


 …なかなか、やるな。


 あのアールグレイ少尉との邂逅以来、眼から鱗が落ちた我は、ブルーからの昇格組の能力を、まだまだ侮ってみていたことに気がついた。


 …いかんな。

 未だに我は先入観をぬぐいきれてないらしい。 

 

 侮りは油断に繋がる…現実を認める度量を持たなければ、いつまでも、その場所で足踏みしてるだけで、自分の成長は望めない。

 実力序列一位のアールグレイ少尉は別格としても、叩き上げの者らは、こと戦闘力では、貴族の我をも凌ぐ者達が大半であるという事実は認めるしかない。

 小集団での模擬戦を彼らに挑むも、一勝すら出来ない事実がそれを証明していた。

 通称、叩き上げと称される昇格組の者達は、対個人戦、戦術レベルでの戦いでは、個人戦闘力が概して高く、臨機応変なしぶとさ、窮地にも諦めないメンタルの強さを標準装備している。

 少数戦では、到底彼らに勝てる気がしない。

 勝つには、小細工の効かない平地戦で戦い、最新機器と物量で押し切るしかない。

 それ以外では、今は戦わないことだ。


 それにしても、我より小さいのに、彼女があんなにも強いとは、驚いた。

 以前怪異を討伐した際は、彼女の一閃必殺の刀の冴えを見て驚愕したが、今回模擬戦を見て、彼女は徒手から、武器使用、魔法戦まで、オールレンジで戦うことが出来るオールラウンダーだと判明した。

 …なるほど!彼女は可愛いさも超絶級だが、強さと幅も他とは一線を画している。


 そんなふうに彼女を常時見つめていると、我以外に同じく見つめている者がいることに気がついた。

 そのうちの一人が、我が親友ハロルド・クシャだった。

 まあ…彼女は可愛いから仕方ないとは言え、クシャの彼女を見つめる目が虚ろだ。

 …

 ああ…ああなったクシャは、内に籠り思考が突っ走る傾向がある。

 そう言えば、今は昔に感じるがクシャは彼女に決闘を申し込んでいたな…彼女に返り討ちに遭わなければ良いが。

 今では断言するが、クシャが彼女に勝てる可能性は零だ。

 声を掛けても生返事で、明確な回答がない。

 やれやれだが、ここは放置するしかない…それこそ時間が解決するだろう。

 彼女とは、あと一ヶ月もすれば、夏季講習は終わりお別れだ。

 …

 …そうか。お別れなのか。

 一抹の寂しさが胸を去来する。

 そろそろ、我の気持ちも解決しなければならない。







 ・ー・ー・ー・




 


 クシャから相談を受けた。

 彼女を襲うと言う。

 … … …。

 困った…ここまで拗らせているとは。

 恋は盲目とは、よく言ったもので、クシャの拗らせ具合を見ると、我が身は逆に冷静になった。

 このままでは、返り討ちになったクシャは、その場で断罪されるか、良くて退学、貴族籍剥奪、追放となるかもしれない。

 いくら優しい彼女でも、自分を襲った相手には容赦しないだろう。もし赦すのならば、まさに聖女に違いないが、現実にはあり得ない。

 見目麗しい平民の女を無理やり手篭めにする貴族もいると聞くが、彼女は平民でも、今では貴族格の騎士級とされるギルドのレッドであり、その実力はクシャを遥かに凌ぐ。

 予想された友の不幸を見て見ぬ振りは出来ぬ。

 だが、今のクシャに真正面から反対しても聞き入れる耳はないだろう。


 …困ったぞ。


 まさか、女性で公女のアレクサンドリア様に相談するわけにもいかない。

 立場上、その場でクシャを断罪される可能性がある。アレクサンドリア様は普段は淑女然としている優雅な猫のような優しさを持つが、公的立場で動くときは逆に果断な容赦ないお方だからだ。


 その場では、なんとか襲わない方向へ軌道修正させた。

 だが今度は弱みを握り脅す方向へシフトしている。

 おい…クシャよ。

 その様な低俗な浅い考えでは、彼女に嫌われるのが落ちだろう。


 我は大いに困り、結果、同室のフォーチュン准尉に相談した。

 彼は寡黙で目立ちはしないが、一緒に過ごしているうちに信用できる人柄と信頼にたる実力を持っていると分かっている。

 …だが優秀な彼にも解決は難しいらしい。

 フォーチュン准尉は、しばらく考え込んでいたが、相談できる人物を紹介してくれた。

 話さえしとけば、少なくともこれ以上悪い事態にはならないだろうと、太鼓判を押された。


 それがルフナ・セイロン准尉だった。

 

 結局、彼に話すことでアレクサンドリア様にバレてしまったが、事はアールグレイ少尉の件に留まらず、同僚の女子の風呂場を撮影するなどの事態に推移しているから、仕方なかったのかもしれない。

 少なくともルフナ准尉に話していたことで我は罪を免れることが出来た。

 もし、彼に話さなかったら、最悪の結末を迎えたかもしれない。

 そして、彼は我に対し指示など露一つもしなかったが…彼と話しているうちに、今回の事態は、結局我自身どうしたいのか?何が大切なのか?覚悟を持って如何に我が行動するのかが問われているのでは?と、後から考えて推知した。


 …

 …


 我は…友であるクシャに、下劣な道に進んで欲しくはないのだ…死刑は勘弁だが、一緒に処分を受けて貴族籍から離れて一から冒険者をやるのも悪くはない。

 叩き上げの者らに出来て、我らに出来ないはずがないだろう?

 我はクシャが直前で止まるだろうと信じている。

 だが、直前過ぎて、誤解を受けて現行犯で捕まるかもしれない危険性がある。

 だから、ここはやはり友の出番であろうな。

 頭の霧が晴れたかのように明瞭となった。


 …結局は自分がどうしたいかだ。


 相談料秘蔵の酒3本分の価値は充分にあったなぁ。

 対策会議の結果、ルフナ准尉が現行犯で捕まえるために張り込むらしいと聞いた。

 彼に捕まるまえに、我が友を殴ってでも止めよう。

 因みに、クシャを殴るのは、我のアールグレイ少尉に対しての恋慕とは関係ない。

 まあ、友の未来を救うため、多少強めにブン殴るのは致し方ないだろう。






 

 

 

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