出会いは突然に…⑤
暗がりの窓辺にて、立ちすくむ。
超古代文明末期頃の出土品のレプリカであるカメラを携えて、女子寮の風呂場の外側まで、来たまではよいが、いざ窓を開けようとしたところ、彼女との日常のやり取りが思い出された。
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彼女は、私との悪口雑言の応酬や決闘騒ぎなどなかったかのように普通に接してくれたのだ。
正直、彼女からしてみれば、私などは冷たい態度をされたとしても当然だったのに。
それは彼女の真性が、風のように清々しいほどの公正さと、光りのような暖かい慈しみをもつ故であったに違いない。
敵対したとしても礼儀正しく、それ以上の慈しみがこもった彼女の対応は、感嘆に価し、結局、憎もうにも憎めず、逆に彼女が時折り垣間見せる微笑みに、…声を発しようともドキドキして、呼び掛けることすら出来なくなってしまった。
切なくも苦しい。
ああ、彼女と仲良くしたい…そんな思いが日に日に膨らむにつれ、益々気持ちが焦り、彼女を手に入れたい気持ちを、親友のバーレイに宣言することで、どんな手段を用いても進展させるのを望んでしまったのだ。
…開けようと窓枠に伸ばした手が震えた。
もしかしたら、彼女も、今この時間お風呂に入っているかもしれない?
普段、服に隠れた彼女の柔らかそうな曲線の中身が、想像できぬまでも、湯気に隠れた姿を思い浮かべてしまい、頭に血が昇った。
同時に、日常の彼女の姿も思い出された。
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彼女の姿勢、態度に対する私の回答が、これなのか…?
最初こそ、下賤なものと決めつけ最悪な印象を持ってしまったが、彼女は本当は、心清らかで優しい心根と、自己を犠牲にしてまで弱きを護る勇気をそなえた尊い人であった。
彼女と出会ってからの、ここ二週間は毎日が新しい驚きと嬉しさに満ちて過ごすことが出来た。
だから、たとえ親しくなれずに終わったとしても、彼女には感謝の念しかない。
(オィオィ、ソリャネーゼ、アト少しダったのに…キチキッチッ)
…私は伸ばした手を握り締め…下に降ろした。
彼女との思い出を壊す真似は…私には出来ない!
それは、私の中にある大切なものを穢す、恥ずべき行為に間違いないことが、今、ハッキリ分かったからだ。
すると、止めるを決めたところ、今まで霞がかっていた頭が、突如、晴れやかとなった。
(フンッ、チィッ…コイツはダメダッタカ、ケッ)
耳元から何かが羽音をさせて、飛びだっていった気がした。
むろん、そんなものが耳元にいる筈もないから、気のせいであろう。
…遠くから、駆けてくる足音が聞こえた。
暗がりで姿は見えぬが、おそらくバーレイだ…きっと私を心配して、愚行を止めに来たのであろう。
今までの経緯を思い出し、今回はバーレイには本当に迷惑掛けてきたと、申し訳ない気持ちになった。
今では馬鹿なことを、しようとしていたと分かる。
これでは、覗き、盗撮、ではないか?!
馬鹿としか言いようがない。
何故?敢行しようとしたのか、今では不思議に思える。
‥謝ろう。素直に、そう思えた。
まずは、心配かけたバーレイからだな。
そう思った途端、空腹を覚えた。
そう言えば、最近、食欲がわかず食べた記憶がない。
…
麗しい我が姫君は、清楚で儚げな印象を裏切り結構健啖家でいらっしゃる。
観てると、沢山の友人に囲まれて、美味しそうに食事している姿が目に付いている。
まずは、彼女に対し真摯に謝り、食事に誘うのも手かもしれない。
上手くいけば、上手くいくかもしれん…。
何もせず、諦めるには、まだ早すぎるし、私の容姿も存外悪くはないだろう?
私の人生は、まだこれから。未来は明るい。
少なくとも、まだ彼女との間に希望を持つのはわるくはないなと、駆け寄ってくるバーレイを待ちながら、そう思った。