出会いは突然に…③
一人で悶々としながら、彼女を自分だけのものにする計画を練っていると、私の尋常ではない様子に心配したバーレイから声を掛けられた。
ああ…親友のこいつにだけは、私の気持ちを話しておいたほうが良いのかもしれない。
私は彼に、彼女に対する正直な心情を吐露し、強引にでも彼女を私のものにする計画を打ち明けた。
彼女の私に対する印象は、無関心に近いことに気がついたこと。
なのに親しくなれないまま、タイムリミットが、刻一刻と迫って来ている。
美人で優しく素晴らしい彼女…その魅力に当てられた狙っているライバル達も沢山いるに違いないであろう。
そんな彼女を籠絡しようとしてる有象無象のいやらしい奴らに彼女を取られてたまるか!
彼女の無垢で清浄な身体を、私以外の男に穢されるわけにはいかない。
なんとかそいつらを出し抜いて、私が彼女を自分のものとするのならば、悠長な手段など取ってはいられない。
ならば、電撃作戦を敢行するしか、成功する目はない。
要は無理やりにでも既成事実をつくってしまえばいいのだ。
彼女を他の男に取られるくらいなら、彼女からいっとき恨まれても、私ならばツラい思いを我慢しようではないか。
… …
…
親友は、私の思いや計画を反対することなく、静かに淡々と聞いてくれた。
そして成功に不可欠な致命的な欠点を指摘してくれた。
「…不意を突くとはいえ、彼女を一人で制圧出来るのか?」
…?!
なるほど…彼女は、その慈愛の心情に相応しい可愛らしい見た目に反し、弱きものを護るためならば、貴族をも敵対する気骨を持った歴戦の猛者。
ギルドに登録してから僅か約5年で築いた戦歴は物凄いの一語に尽きる。
経歴からの想像からは結びつかない、あの小柄で可愛いらしい姿に…うっかりしていた。
外見で判断せず、客観的事実に基づいた情報から判断しなければならない。
私は、軍の特務から極秘に入手した彼女の情報を、思い返した。
彼女の察知能力の範囲は、1キロ…これでは不意打ちは、まず不可能である…を失念していた。
それに彼女の魔力、気力、神力を纏わせた近接戦闘能力は、この私を遥かに凌駕している。
これは私が眼にした、数多の怪異を一振りで一瞬で滅した彼女の姿が証明している。
…電撃作戦は、最初から無理であった。
可憐で優しげなのに、時には私に対し生意気な態度を取る彼女を、作戦とはいえ強引に自分のものにするのに…正直、多少の高揚や興奮を覚えたが、貴族の紳士に反する行為であるから、回避できて良かったと、些少の残念な気持ちを残しながらも安堵した。
正面からは、彼女を手に入れることは出来ない。
私の心は、絶望感で暗澹とした真っ暗な気分へと落ち込んだ。
今まで、これほどまでに、何かを欲したとことはない。
先程までの幸福感が嘘のように消え、呼吸が、浅くなり胸が苦しくて張り裂けそうだ。
私は、胸を押さえた。
心臓がドキドキと波を打っている。
生きている…私は生きているのに食欲はない。
ここ数日、食事が喉を通らない。
なのに、満たされない飢餓感だけは、あるのだ。
苦しい…この苦しみを癒すには、なんとしても彼女を手に入れなければ!
きっと、その方が彼女も幸せなはず。
問答無用で、これまで士官学校で学んできた過去の作戦案を、脳裏に網羅させ、相応しい成功率の高い案を絞り出す。
正面から無理ならば、搦手を使うしかない?!
彼女の弱みを握る…優しい彼女のこと、仲間の弱みを材料に脅迫すれば、私の言うことを聞かざるを得まい。
恥ずかしげに頬を染め、屈辱感に震えながら、私が言うがままに、服を一枚、また一枚とゆっくり脱ぎだす彼女の姿を思い描いた。
…
…仕方あるまい。
これは、紳士道からは外れるかもしれないが、人生には綺麗事では済まないこともある。
彼女の気持ちを慮り、胸が潰れそうにはなるが、これは仕方ないことなんだと、胸中で何度となく繰り返し呟く。
…
私と彼女の将来の幸せのために仕方ないことなんだと、興奮で鼻血が出そうになるのを手で押さえながら…。
こうして私は、手段を選ばない卑怯で最低な…しかし成功率の高い案を、自分で自分を言い聞かせ納得させたのだ。