出会いは突然に…
500年の歴史あるクシャ男爵家の嫡子として産まれたこの私、ハロルド・アンドレア・クシャは、学校卒業後に、将来どの道を行くか悩んでいた時期があった。
クシャ男爵家は、軍閥系であるから、順当に行けば、軍隊に行くのがよかろう。
次点では、騎士団も良いかもしれない。
その他に選択はないものか?
貴族の務めは、果たさなければならない。
…それは分かっている。
順調に敷かれたレールを、これからも行くならば、退屈だが安全で平穏な人生は約束される。
軍隊を選べば、末は、男爵家当主として権力を背景に、努力せずとも佐官、頑張れば、将官まで出世はするだろう。
全て予測だが、この若さで、先が見えてしまった。
あとは、決まりきったレールを辿るだけなのか…?
…
悩みに悩んだ末、結局、私は冒険者を選んだ。
この選択には、幼少からの親友のソニア・シグムント・バーレイの影響が多大にあったかもしれない。
彼は、騎士道精神を持った健全で心優しい穏健派の貴族と評判なバーレイ子爵家の嫡男で、当然彼は騎士の道を選ぶと私は思っていた。
たが彼は、進路に冒険者ギルドの士官学校を選んだと言う。
冒険者ギルドの士官学校とは、ギルドの心臓と言われる将来の外勤ギルド幹部を育成している。
入校者の9割は貴族であるが、武門系貴族がその修練の厳しさに半分以上脱落するという噂だ。
格の騎士団、数の軍隊、実のギルドと、世間では評価され、ギルドは武力実力が他を凌ぐとされながら、貴族の格付けでは、三者のうち最下位で、他より低い。
これは、ギルドが半民間、半自営業者の互助、依頼斡旋の団体から発足した歴史を過去に持ち、今でこそ貴族がギルド中枢にくい込み運営に参加しているものの、登録業者の大半が平民であるに由縁する。
ギルドが扱う業種は多岐に渡り、なかでも荒事を専門とする武術系の傭兵、護衛、戦闘屋の実力はトップクラス。
貴族でも、一目置き、敵対するを避けるという。
私からみたら、実力はあるが粗野で洗練されてない雰囲気のギルドは、最初は眼中になかった。
貴族に相応しくないからだ。
でも、ギルドを何故選んだかを語る友の言い草を聴いているうちに、一生を掛けても良いような魅力的な未知的な何かがを感じてしまったのだ。
けれども、ギルドを選ぶには、自分の将来を思えば、あまりにも賭けだ。
だが、将来を約束された軍隊よりも、自分の実力に沿った人生となるだろう。
…
悩んだ末、私は、父上に相談したところ、アッサリと冒険者となるための士官学校入校は了承された。
クシャ男爵家の領袖たるルピナス公爵家の後継者も、ギルドを選ぶらしいと後から聞いた。
これからは、ギルドが政治的にも大きな勢力となり得るらしく、良い選択であると褒められた。
私の選択は、時期的にも良かったらしい。
なるほど…私の実力で、ギルドを変えてやり発展させていくのも悪くはないな。
粗野な平民達を導き、貴族のレベルにまでギルドを引っ張り上げてやろうではないか。
ギルドの野蛮人どもを、士官として教導してやるのだ。
友のバーレイと一緒ならば、やり遂げられるだろう。
士官学校では、毎日が試練であった。
夢や希望は潰えた。
生き残るだけで必死で、入校で知り合い夢を語りあった者達の大半は辞めていった。
しかし、この程度は、ギルドのブルーならば、当然鼻歌交じりに出来ることばかりで、当たり前のことだと教官から聴いたときには、平民共の野蛮人ぶりに嫌気がさした。
きっと、ギルドに所属する平民共は低脳の力だけが取り柄の野蛮人に違いない!
しかも、二学年であった士官学校の在学期間が、今年からは四学年まで期間延長すると聴いた時には絶望感でいっぱいとなった。
…
私が辞めなかったのは、友のバーレイや唯一の女子であったアレクサンドリア様が居たこと、それに野蛮人の平民に貴族が負けるわけにはいかないという意地だけだ。
…
…
毎日が黒塗りの青春を送って居たある日、アレクサンドリア様が夏季講習に出願したと聴いた。
基本アレクサンドリア様は、貴族の淑女らしい楚々とした方だが、時折り気紛れな決断をされる。
…間違いではないが…将来従える平民共の実力を測るにちょうど良いかもしれない。
正直言って面倒である気持ちが多少脳裏に走ったが、我が家の領袖の御息女が行くならば、行かねばならない。
より上位の貴族の判断にかしづく。
それが下位の貴族の勤めであるからして。
その赴いた夏季講習先で、あの彼女と出会った…。