星の降る夜の話13
大の男共の超密集状態ほど、鬱陶しいものはない。
そこで俺は、眼を瞑り脳裏に満月を描いた。
少尉殿から教えてもらった気持ちをリセットして、魔法に集中する方法だ。
もはや本来の任務は捨て置き、魔法を使うに集中する。
緊張と驚きで途絶えていた…冷涼風が起こり体表に纏わせ循環させることで、イラついていた気分が落ち着いた。
この魔法を優しく教えてくれた少尉殿に思いを馳せ、真円の満月の光に照らされたような静かな幸福感に浸る。
フッ、やはり、少尉殿は最高だ。
この場所にいなくとも、思うだけで、この俺を幸福にさせてくれる。
だが、目前の現実は変わらない。
暗くて狭い植え込みに、大の男共が7人無言で座っている。
高位貴族とその護衛と思われる大男は、正体不明だが、その他は士官学校入校中の士官候補生だ。
もしクールやレイに見つかり拿捕されたら、以後覗き魔の汚名を被り、生きていかなければならないし、退学か停学処分、降格、冒険者からの転職も考えられる。
…少尉殿から誤解され軽蔑されるのだけは御免こうむりたい。
せっかくお近づきになれたのに、転職して離れてしまうのも勘弁だ。
自分からは、動けない。
見つかり誤解されかねない。
むろん、俺には後ろめたい気持ちはないが…
女子寮の風呂場内の音は、結構響いてきて、中にいる女子の声も時折り聴こえてくる。
あ、今の声、少尉殿に少し似てたなぁ。
もしかしたら、今、お風呂に入っているのかもしれない。
…
…
…
ハッ、いかん。
危うく煩悩に支配されるところであった。
兎に角、この場は我慢の一手だ。
俺の経験から言わせると、必ずや、均衡が崩れて、事態が急展するだろう。
その時に対応する為、気力、体力の消耗を今は抑えなければならん。