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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの冒険
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友達

 他の部屋へと避難する。


 途中、端末を伯爵領領事館に発信したけど、まるで通じない。

 アールちゃんは、大丈夫と胸を張って叩いてたけど、きっと殿下や私を心配かけまいとしているんだ。

 アールちゃんは、一週間前に護衛応援の依頼に応じてくれたギルド員だ。

 名だたる始末屋達を返り討ちにし、今も鬼を相手に八面六臂の活躍を見してくれている。

 可憐な容姿と裏腹に私が見たところでは、かなり高レベルの凄腕だ。

 ギルドは、実力主義の階級制度を取っているから、ギルドのレッドと言えば、騎士と同程度の実力と見做されている。

 最初見た時は、私より若いし、小さいし、可愛いし、癒されたので、癒し特化なのか、そうなのか?私を癒す為に来たのか?又は都市貴族や準ずる裕福層の名誉職かとも思ってしまった。


 いやはや、今考えれば笑い話だ。

 アールちゃんが来てくれて良かった。

 ありがとう、アールちゃん。


 私の名は、ギャル・セイロン。

 アッサム伯爵に仕えている衛士隊所属の一衛士であり、今はキャン殿下の護衛任務に就いている。

 そして、アールちゃんの友達だ。





 アールちゃんが護衛に来てくれて7日目。


 午前2時の時計の鐘が鳴った時、私はホテルの一室で寝ている殿下の側にいた。

 かなり広い部屋で、クラッシュ様が短槍で演舞をしていた。

 窓際には、アールちゃんがいて、何故かスーと後ろに下がった。


 …嫌な予感がした。


 衛士隊の先輩からは、「勘は大事にしろ、膨大な情報の集積解析結果が勘だと思う。理屈に合わなくても勘に従え。」と教えられたことを思い出した。

 殿下を抱き抱えるように起こして、扉に向かう。


 直後、窓ガラスがバリンッと割れて、黒い霧状の何かが吹き込んで着た。咄嗟にマスクを着ける。

 起き出した殿下も着ける。

 アールちゃんから、あらかじめ渡されていたからだ。


 演舞に集中していたクラッシュ様が倒れる。


 えー、何してんねん。あのハゲ。

 あらかじめアールちゃんから、マスク渡されとるやんか。


 私は、起きた殿下の手を引いて扉へ逃げる。

 逃げなければ、ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ…。

 私が今出来る事は、殿下を連れて逃げることだ。

 各々が今出来ることをやる。

 プライドは後回しだ。

  

 窓際を横目で見ると無数の小鬼共が割れた窓から波のように飛び込んで来る。


 そんな緊迫した中にも関わらず、思わず目が引かれてた……アールちゃんに。


 ヤバイ、ヤバイ、アールちゃんがなんだかヤバイ…。

 アールちゃんがクラッシュ様の足を、おもむろに左手に掴んで、


 一閃!


 クラッシュ様が閃光のように横薙ぎに動くと、凄い音がして小鬼共が潰れて後続の鬼達と共に曇天へと飛んでいく。


 な、なんだ、これは…。

 あまりの凄さに目が離せない。

 

 クラッシュ様は、光の速さで小鬼共を一閃した後、窓際とは逆の扉方向へ、槍の如く飛んで行って樫の扉をブチ壊した。


 な、なに、これ!…今、目の前をクラッシュ様が通り過ぎた。

 凄いとしか、いいようがない。

 こ、これが、先ほどクラッシュ様が言っていた、クラッシュ流槍術の秘技だというのですかぁ。


 自らを槍と化して光速で敵を一閃する秘技。

 これは、常人では、まず思いつかない。発想が凄すぎて追いつけません。私、多分一生クラッシュ様には追いつけないよ。


 まさしく秘技中の秘技に違いない。

 初見では、驚き過ぎてかわすことは不可能。

 心身を鍛えに鍛えているクラッシュ様だからこそ可能な技だ。もし私が使っても、自分の身体が先に壊れてしまうよ。


 私、クラッシュ様を誤解してた……。

 最近では、クラッシュ様のこと、幼女趣味の変態ハゲだと思っていた。

 ユルユラ揺れて気持ち悪い黒キノコだとも思っていた。……違ってたんだ。

 ごめんなさい、クラッシュ様。

 自分の身をていして殿下を守ってくれた。


 私は、凄い人達といる。

 アールちゃんの言う通り、心配は無い。

 だって、こんな凄い人達がいるんだもの。


 殿下の手を引き、壊れた扉から廊下に出ると、クラッシュ様が、アールちゃんにビンタされていた。

 え?何、この状況、いつアールちゃん、廊下に来たの?

 廊下は、小鬼の遺体と血の海だった。


 その中で、ビタンッ、ビタンッと、アールちゃんがクラッシュ様の両頬を叩く音が鳴り響く。

 アールちゃんの様子も尋常ではない。

 怒った猫のように、髪の毛先が逆立っている。

 ただのビンタが力士の張り手ような力強さだ。

 鳴り響く音が、力強さを物語っている。


 途中、クラッシュ様から、「ヤメッ…。」とか、「ユルシテ…。」とか聞こえてくる。

 こんなにも、アールちゃんが怒るなんて。


 ハッ、まさか…クラッシュ様…この非常時に、アールちゃんにセクハラを……。

 最低…。最低です。

 せっかく見直したのに。


 「ギャル、お姉さまを止めて。叔父様が…死んじゃう。」

 殿下のお言葉にハッとする。

 あかん。どんなに最低の事をしても殺人はあかんねん。


 この後、アールちゃんを何とか止めた。


 アールちゃんは、自分の行為に、驚いたのか、クラッシュ様を抱きしめて、両手を顔に当て癒していた。

 ああ、あかんねん、そんなことしたら、またハゲが勘違いして増長するねん。


 案の定、ハゲが、また訳わかんないこと言い出した。

 殿下は、クラッシュ様を慕っているので、大好きなアールちゃんと一緒になったら嬉しいと思っているふしがある。


 あきません。天や地や神様が許しても、それだけは私が許しません。

 まあ、クラッシュ様も良く見れば、ソコソコイケメンだけれども、18歳と40歳では犯罪でしょう?

 アールちゃんには、イケメンの王子様と一緒になって幸せになって欲しいのだ。


 だって、私達は友達だもの。

 

 


 

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