第三王子と聖騎士は夜の散策(続編)
「おいおい、本当に、その覗き魔は現れるのか?レイ。」
「…士官学校の庶務課からの依頼だ。最近、夜間、女子寮の風呂場の外側で蠢く影が散見されるとか。正体は不明だが、見張っててくれとのことだ。目撃者からの聴き取りによれば、ちょうどこの時間帯らしい。」
「フッ、このクール・アッサムが、女子風呂を覗く不届き者を見事捕まえてやるぜ!そして、アールグレイ師匠にお誉めの言葉を賜わるのだ。そしてゆくゆくは…へへ。」
気配を消して無念無想のわれに、新しく来た二人組のレッドの会話が聴こえてきた。
植え込みの暗闇に隠れながら、われは考えた。
…マズイぞ!うかうかしてるうちに益々マズイ事態に拍車が掛かってしまったようだ。
今、風呂場前に居るギルドのこのレッド二人組は、正規の依頼を受けて、覗き犯を捕まえに来たらしい。
…ならば、犯人はこの中にいるな。
そもそも、われ以外の此処に集いし怪しげな連中が捕まる分には問題ないが、王家の一員たるわれが清廉潔白にも関わらず同様視されて捕まっては、王家の威信にかかわる。
ギルド員の依頼達成率は、すこぶる優秀で、ことにレッドは100%に近い達成率を誇ると言う。
…強さの代名詞たる騎士級のレッドが二人か。
ダムダの強さは、並の騎士では相手にならないほどの上のランクだが、それでも複数を一瞬で刈り取ることはできまい。
それに、本来味方側であるギルドを敵に回してどうするというのだ?
兎に角…ここで見つかるは得策ではない。
だが植え込みの中、暗闇で周りの状態は見えないが、超密集した男達の過密状態は、甚だ不本意極まり無い…気分が悪くなりそうだ。
本来なら、今頃は、われが会いにきたことに感激したアールグレイ少尉と楽しくお茶を飲みながら歓談しているはずであったというに。
これは、妙なことを言い出したダムダが悪い。
お陰で、見知らぬむさ苦しい男共と超密集状態で薮の中にわれはいる。
何故に、この者達がこの場所にいるのか、はたまた逃げださないのか分からんが、一番最初に動いたものがババを引く気がする。
このトビラ都市の王子たるわれが断じて7分の1の確率で、ババを引くわけにはいかん。
人生至るところで岐路はあるが、わが幸福たる道を、こんなムサイ男達と一緒に終わらすわけにはいかない…嫌だ、絶対に嫌だ。
ここは堪え処だ…多少心苦しいが、最初に動いた男に犠牲になってもらって、その間に離脱しよう。
捕まったものが清廉潔白ならば、疑いもはれよう。