第三王子と聖騎士は、夜の散策(中編)
彼女に会いたいが一心で、海辺からしばし離れた島にある冒険者ギルド士官学校女子寮まで、われは空馬を飛ばした。
モヤモヤとした気持ちを晴らすため、空馬に乗ったが、どうやらわれの本心は、そういう事らしい。
だが、王家秘蔵の権能魔法まで駆使して、ギルドの防御膜を通り抜け、今宵、密かに彼女の前に颯爽と現れる算段をつけたというのに、その結果が、この性騎士と同一視されたのでは、たまらん。
颯爽と格好良く、サプライズ的に彼女の前に現れたかったのに。
…なにもかも、台無しだ。
環境と立場から、普段疑心暗鬼になりがちな、われにとって、ダムダの欲望に正直な点は、…悪くはない。
だが、それも場合によりきりで、今、この状況は、非常によろしくない。
いや…最悪だ。
何故にこんな状況になったのか?
「殿下、ここは、わたくしめが、斥候のお役目をはたしましょう。わたくしの眼は、視力が5.0ですぞ。微に入り細に入りこの眼に、彼女達の赤裸々な美しさを写し出して、脳内記憶に永遠に留めてあげましょう。」
畳み掛けるように興奮して言い立てるダムダのヤル気量が物凄い。
いつもは覇気なく無気力感全開で仕事してるのに、今は、まるで別人のようにヤル気に満ち溢れている。
…おいおい。
奴の顔は興奮で眼が見開き、鼻息が荒くて、その息がわれの顔にかかるから、あまり近くに寄らんで欲しい。
「ま、待て!しばし待つのだ。…少々勘案する。」
われは、聖騎士を制止し、しばし考えた。
…あまりにもデメリットが過ぎる。
…もう、コイツ、首にしたいぞ。
正直、コイツを送り付けた教会にノシ付けてに送り返したい。
…考えると、ダムダとの今までの想い出がよみがえる。
…
…
…
…ああ…碌な想い出がないな。
だがわれは結局、ダムダを送り返すをやめた。
おそらく、この男は送り返されても、その正直さでアチコチ問題を起こし、周りに大迷惑を掛けるに違いない。
ダムダも、大切な都市民の一人である。
われが無理ない範囲で世話してやればよかろう。
「…殿下、それとも初見は殿下にお譲りした方が良いか?ピチピチでウハウハですぞ。殿下もムッツリでありますな…ガハハハ。」
そう…われが、世話してやれば…
ダムダは、ニヤニヤしながら馴れ馴れしく肘でつついてきた。
聖騎士は、神官であり、王族に触れても罰を受けることはない資格を持っている…実に残念だ。
風呂場の曇りガラスにシルエットが映りこむのを見て、時折り、年若い女性の声が聞こえてくるのは、覗く気はサラサラないわれでも妙な気分になってくる。
よし、離脱だ。
護衛の聖騎士は嫌がるだろうが、首に縄をつけて引っ張ってでも、この場所から離れなければ。
そう決めたところ、なにやら遠くから声が聴こえて来た。
心臓が早鐘を打ち、ドキリとする。
ダムダも気配を感じ取ったらしい。
互いに顔を見合わせる。
…拙い!われにやましいことは何もないが、王族という立場は疑われてもいけない。
われとダムダは、隠れるために、近くの植え込みに飛び込んだ。