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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの冒険
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現実

 …現実を見よ。


 前世の僕の声が聞こえる。 

 辛く苦しい時ほど現実を見なければならないと僕も思う。


 遥かな高みから理想を説く声、一斉に賛同し批判する声。

 それは、現実を直視し真正面から対処して解決していこうとしている僕達を、後ろから刺すような行為だ。


 それは、まるでノイズ。


 そんな世論など、僕はガン無視だぁー!

 僕は、僕と僕の前世を信じる。


 …現実を見る。


 殿下を起こし、守るように扉方向に向かうギャルさん。

 黒霧と共に窓から侵入して来る無数の小鬼。

 扉の外には、パターン赤多数。

 寝ているクラッシュさん。


 吸うよりも、意識的に力強く息を吐く。

 息吹と言われているものよりも、激しく細く息の気流を吹き荒び押出していく。

 全身の筋肉が起動。

 眼を見張り脳をグワンと揺り起こす。

 「刮目して見よ。」

 僕は天に向かって言い放った。


 途端に身体中の駆動輪が急高速で廻るイメージ。 

 息を吐く度に、身体の中央で高速で廻る駆動輪から手脚へとメキメキとエナジーの気流がポンプのようにドクンドクンと流れて込んでいく。


 これは近接戦闘に特化した…バトルモード発動!

 息を吐く程に身体の指先まで覚醒して行く。

 意識さえ覚醒し時間の流れが遅く感じると同時に、何でも出来る確信と高揚感が身体を支配した。

 

 寝ているクラッシュさんの身体が目に着いたと思ったら既に

その足を片手で掴んでいた。

 そのまま軽くクルッと振り回すと、窓から飛び込んで来た小鬼共がひとなぎされた。


 吹っ飛ぶ小鬼共を背に向け、次いで扉の方へクラッシュさんを槍投げの要領で投げる。

 秘技、クラッシュmissileと名付ける。

 脚を溜め、…次いでクラッシュmissileの後を追うような形で、縮地で床を滑るように一瞬で駆け抜けた。


 クラッシュmissileが当たりブチ壊れる樫の扉。

 扉と一緒に、吹っ飛ぶ小鬼共。 

 僕はクラッシュさんとほぼ同時に廊下へと出ると、床に落ちていて拾っていた短槍を右手方向の小鬼共に投げつけた。


 短槍は、軌道上に居た小鬼4匹を串刺しにして、周囲の小鬼を衝撃でナギ飛ばしながら突き進み壁に深く突き刺ささりしなる。


 その逆方向の廊下の左手方向を振り返ると、無数の小鬼共が飛び掛かってきたのが見えた。

 

 …現実を見よ。

 心臓がドクンと鳴った。


 現実と乖離した理想を、安全な場所からシタリ顔で賢しげな言葉を吐く妄者達。

 現実は多種多様で、あなた達の枠にはまるようなことはないのだ。

 それはケルベロスの首に鈴を付けるようなもの。

 それでも鈴を付けたいならば、付けたい者が自分で付ければよろしかろう。


 自分の理想に殉じろ。


 妄者と、飛び掛かってきた嫌らしい小鬼の顔がだぶる。


 …お返し申す。


 僕は腰に吊っていた刀の柄には既に右手を添えた。

 …発射!

 まるで銃を撃つ感覚で、刀の刀身を鞘に滑らせていく。

 弾が銃身の中をスライドしていくように…実際は右手で刀を抜くと同時に、左手で鞘を後方に引くことを意識して刀身を滑らせていく。


 橘流居合術、抜刀一の型「無音(おとなし)


 過程をすっ飛ばしかのように、直線上の小鬼が頭から真っ二つに割れて落ちた。

 …とほぼ同時に空いた空隙を、刀を横八の字に振り回して瞬時に瞬動を使い駆け抜ける。



 この間、トータルで0.1秒。

 周囲の小鬼共が全て倒れ伏していた。

 そしてクラッシュさんも倒れ伏している。

 …むむ?

 おのれ、許さん、仲間であるクラッシュさんをこんな目に合わせるとは、ゴブリン共め。


 「ふー、ふー。」

 籠った熱を出す為に蒸気を吐き出すように息を吐く。


 とにかく倒れ伏しているクラッシュさんを介抱しなければ。

 首根っこを左手で掴み引っ張りあげ、右手の平で、起き上がるまで左右連打でピンボールのように引っ叩き続ける。


 バシッ、バシッ。

 小気味良い音が辺りに鳴り響く。


 おのれ、小鬼共め! 毎度、毎度、眠りおってからに。

 根性が足りんのじゃ、眠けなど珈琲と根性で何とか何とかできるだろう。


 バシッ、バシッ。

 「あれ、ここは、ぐはっ、、。」


 寝ても立ち上がり起きろ、パソコン前で疲労と寝不足から画面上に、「つ」の字が連打された状態で倒れ伏しても完成、解決しなければ、帰れないんじゃー。


 起きんかーい。

 バシッ、バシッ。

 「ヘベッ、やめ、ガハッ、我輩が悪かっ。ダハッ。」


 「お姉さま、止めてあげて、お願い。」

 「アールちゃん、殿中でござる。」

 殿下とギャルさんに止められる。


 ハッ、思わず前世の意識が…

 クラッシュさんの顔をマジマジと見る。

 僕が張ったらしいビンタで両頬が腫れ上がっていた。


 「テンペスト殿、我輩が悪かった、許してくれ……。」


 あー、ごめんね、クラッシュさん。


 思わず激しく後悔し、クラッシュさんの頭を抱き抱えて膝に乗せ、両手をクラッシュさんの顔に当てて回復術を掛ける。

 白家神道術の一つ「白手」だ。

 これは自分の心の慈愛を根源とする回復術なので、闇黒結界内でも使用するに支障はない。

 温かみが、両手を介して、クラッシュさんの両頬に移っていくほど回復していくのが分かる。


 しばらくすると、クラッシュさんは立ち上がった。

 「我輩、完全復活!愛戦士クラッシュ降臨。我輩、今、悟り申した。言葉にするには難しいのですが、我輩の心の中は今、暖かい気持ちで溢れてるのです。なにやら暖かくて柔らかいものに頭を包まれて、とても幸せな気持ちになりもうした。ドキドキして、40年以上生きてきて、こんな気持ちは初めてです。僧籍に入って厳しい荒業にも得られなかった悟りを開くことができるとは、今、我輩何でも出来る気分で絶好調です。テンペスト殿のお陰です。ありがとう。」


 そ、そう、良かったね。

 ……クラッシュさんの変調は僕のせいじゃないよね?

 クラッシュさんの悟り宣言に、ギャルさんは思いっきり引いている。

 殿下は、「良かったね、叔父様。」と喜ばれている。



 …とにもかくにも、敵の第一段を退けた。

 皆も無事だ。 


 元気があれば何でも出来る。

 暗い状況でも、明るく笑っていきたい。

 鬼よ。待っていなさい。

 天に代わってお仕置きよ。






 

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