アレクサンドリア・チェシャ(続編)
お父さまの助言。それは…
(「我が娘よ。ギルドに行くのなら、もしかしたら…もしかして、お前にも対等の友達が出来るかもしれない。ギルドは実力至上主義を標榜してるから、平民でも貴族に匹敵…いや、凌ぐ者さえいる。最初はバラエティに富んだ個性に面くらうかもしれんが、彼ら彼女らは、風のように自由だ。もし友誼を得ることが出来れば、孤高の宿命を負った貴族に取って、何事にも代え難い宝物となるだろう。そして、もし困った事に出会したら、友達となった者に相談するがいい。何しろ友達だから相談料は無料だ。しかも不思議なことに、相談しただけで、いつの間にか解決していることもあるのだ。」)
ギルドに入ると告げた日に、いつに無く饒舌に、懐かしげな表情で、助言をくれたので、よく覚えているのです。
なので、友達♪友達♪と、興奮して楽しみに士官学校に行ったら、貴族の男どもしかおらず、ガッカリしたのも覚えている。
しかし、お父さまの、あの助言をくれた際の自慢そうなニヤニヤしたお顔が、長らくムカムカして忘れられず、諦めないで今年開催された夏季講習に応募したところ、わたくしに匹敵する対等な友人候補が3人もできました。
諦めなかったわたくしって、偉すぎますわ。
あの応募した時のわたくしを褒めてあげたい。
さあ、今こそ、助言の後半を発動するとき。
これにより、あの3人がわたくしの真なる友達であるか否かが判明してしまう。
…ドキドキ。
日常でも彼女達に嫌われないよう友好的に努めましたし、一緒のイベントを済ませて好感度と親密度もアップしたと思う。
わたくしは、バーレイ准尉に、「あとのことはわたくしに任せなさい。」などと大言壮語をはいて、彼を帰らせてから、生徒会役員の3人を、至急で生徒会室に呼び出しました。
もちろん、今回の件を相談するためです。
… … …
まず慌ただしい足音が聞こえ、その通り慌てた様子のアールグレイ少尉が、駆けつけて来てくれた。
…
髪が濡れて、私服が着崩れている。
シャワーを浴びてる途中で来たのかしら?と面くらってしまう。
わたくしの無事な姿を確認すると、ホッとしたのか、今更ながら身なりを整えている姿が、胸に灯がともるように、微笑ましく映りました。
…
彼女は、なんと至急と伝えたら、本当に至急で来たのだ。
当たり前の話だけれども、真摯な姿勢がなければ、この様な行動にはつながらない。
彼女は、自分の見目よりも、わたくしの無事を優先したのだ。
日常の一事が万事これです。
彼女は、やはり信用できると、心で納得している自分を感じた。
続いて、間隙なく、生徒会室の扉がノックされ、エヴァ准尉が静かに入ってきた。
制服に身なりを整えて、最低限の装備品も身に着けていました。
早く着くことを第一に優先したアールグレイ少尉と遜色ない早さは、エヴァ准尉の優秀さを如実に表している。
もし、わたくしが賊に襲われていたとしたら、アールグレイ少尉が突入し、タイミングよろしく装備を整えたエヴァ准尉がバックアップに入っていたはず。
2名編成だとしたら、阿吽の呼吸で連携がとれ、すこぶる優秀です。
…などと、思っていたら、3人目が現れました。
先の2人が早過ぎるだけで、彼女も遅くはなく普通に早い方です。
この差は、前衛気味のオールラウンダーの2人と最後衛の頭脳担当である役所の体力の差だろう。
多少息があがっているのを見ると直近まで走って来たらしい。
入って来た際、不機嫌な顔つきが、アールグレイ少尉も来てるのが分かると、一転して機嫌が治った。
…うーん、ブレないなぁ。
その正直さは、嫌いではない。
そんな彼女とは、言わずとしれたオリッサ少尉である。
これで、夏季講習生徒会役員が全員揃いました。
わたくしは、満足感に口元がニンマリするのを、扇子で隠して、最初から相談事案を話し始めた。
…
「…と、言うわけなの。何とかならないかしら?」
わたくしは、有望な二人の若者を救けたい旨を、まず始めに伝達してから、時系列に沿って話し終えた。
…沈黙が訪れた。
待つしかないので、3人の表情を観察させてもらう。
オリッサ少尉の目が動いておらず半眼閉じている。
集中して考えているのだろう。
顔形は、お人形のように綺麗です。
プロポーションも良いし、今まで会った中では5本の指に入るほどの美人です。
ただ、整え過ぎた美貌は、黙ってると周りに冷たい印象を与えるかもしれない。
冒険者ギルドの[天才]は、貴族の社交界でも噂を聴くぐらいには有名。
彼女の真価は、その冴え渡る美貌やレッドレベルの体術ではなく、頭脳にある。
今は、わたくしの相談解決の為、身体の活動を全て停止させ、超優秀な頭脳が唸りを上げて駆動していることであろう…多分。
次にエヴァ准尉は、真剣な面持ちで考え込んでいる。
彼女は良くも悪くも真面目です。
良識ある常識人と、言ってよい。
弱点と言える箇所がなく、全ての能力に於いて高いパラメータを維持している。
高度に平均化した美しさが彼女の持ち味。
顔も身体つきも地味で控えめなながら、慎ましい美しさを見出すことが出来ます。
清楚で出しゃばらない静謐な美しさは、観ている者の心に平穏な安らぎさえ与えてくれる。
その人格は、貴族の気品や誇りに染まらない、平民の粋を結集したような素朴な信用できる人柄と信頼できる高い能力を持っている。
些か真面目過ぎて型破りな意見は聞けないだろうが、標準的な真っ当な回答を期待できる。
つまり、エヴァ准尉が、適切な解答を思いつかないのであるならば、それは通常ならば解答が無いことを意味する。
その場合は、高いリスクを取って、賭けるしかないから、わたくしも覚悟を決めるしかなくなる。
次に、アールグレイ少尉だが…あ!この子ったら御夕飯のこと考えてるわ。
お腹を摩る所作と半開きの口と惚けた表情から、明からさまに分かる。
そう言えば、もう御夕飯の時間ではある。
わたくしを心配して、ダッシュでいの一番に応える真摯さと、緊張が解れたあとの不真面目さが絶妙で声も出ませんわ。
アールグレイ少尉は、その精神がバランス良いのかアンバランスなのか良く分からない不思議な人物です。
わたくしでも安易に心理が分かるシンプルさと、時には理解し難い永遠の深淵を合わせ持つ。
そして、その小柄で絶妙なプロポーションの身体つきと、微笑んだ顔は、抱き締めたいほどに超絶可愛い。
もし他の2人が居なかったら、きっと無理やり引き寄せて抱き締めて、その柔らかい身体をアチコチ触りまくり堪能して、匂いを嗅ぎ回っていたかもしれない。
もし、そうしたら、なんて幸せなことでしょう。
危ない…危ない…理性が働いて、本当に助かりましたわ。
因みに、わたくしは、異性や同性に対する嗜好はストレートで最大多数派と変わりません。
だから、こんな気持ちは初めてだけど、友情の一種に違いありませんわ。
アールグレイ少尉は、女の子だけど、観ていると、こう胸がキュンとなるような抗い難い魅力があるのよね。…不思議だわ。